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モテ期

 不思議な出来事があった。

 不思議、と言っても、それは別に怪奇現象の類ではない。むしろもっと現実味溢れている話なのだが、なんと言うか……とにかく、言葉で説明するには上手く話せる自信がない話だった。

 

 ある日を境に、未だその不思議体験は僕に続いている。解決の糸口は掴めそうにない。何故かと言えば、まあ掴まなくても良いかとそこまで大事に捉えていないことが原因である。


 ただ、唐突にふと、思うのだ。


 不思議だなあ。不思議だなあ、と。


 そんな稲川淳二顔負けの不思議体験。

 今日もまた、僕はそれに見舞われようとしていた。


「あ、青山くーん」


「青山君、おでこの怪我は治ったー?」


 放課後、部活に入っていない僕が下校する時、すれ違う女子から話しかけられた。

 一人や二人ではない。それより、たくさんの人に話しかけられるのだ。


 不思議だ。

 いやはや本当、不思議である。


 前の高校生活。

 そして、タイムスリップ後の高校生活。


 こうして、他人に興味を示される機会は数少なかったと言うのに、一体、なぁぜぇ?




「なんだお前、自慢か?」




 明くる日、僕は友人である宮本君に相談を持ち掛けた。彼はテニス部に所属して、このクラスに入った僕が真っ先に友人になった親しみやすい人だった。

 そんな宮本君に最近の怪奇現象とは言えない相談を持ち掛けるや否や、目を細められてそう怒られた。

 正直、少し不服である。


「自慢? 何が」


「うわあ、無自覚なのが一番ムカつくわ」


 そう言われても、無自覚なのだからわかりようがない。

 僕は首を傾げた。


「何、本当にわからないの?」


 イエス。

 僕は頷いた。


 宮本君は、わかりやすくため息を吐いて見せた。


「そういうとこだぞ」


「どういうとこだよ」


「……だから、それだって」


 要領を得ない宮本君の言葉に、少しだけ面倒だなと思い始めた頃、彼はもう一度ため息を吐いて続けた。


「おでこ怪我、治ったか?」


「うん。いつの話してるんだよ」


 おでこの怪我。つまりはあの全校集会でのスピーチから、今日はもう一月くらいが経過している。それだけかかって治らないおでこの怪我なんて、早々ないだろう。


「いやあ、あの時の出来事は未だに昨日のことのように鮮明に思い出せる」


「……そうですか」


 面白くない話に、僕はそっぽを向いた。


「別に俺、お前に意地悪をしたくてそう言ってるわけじゃないからな」


「違うのかい」


「違う。正直、俺はあの時寝てた。だからその現場、そもそも見てない」


「……そういうとこだぞ」


 意趣返しをすると、宮本君は苦笑した。


「ただ少なくとも、あの現場を目の当たりにした周囲はそうは思わなかったんだよ」


「ほう」


「特に、女子。あいつらゆるキャラだとか好きだろ? ゆるキャラ好きなあたしかわいー、みたいな。そんなくだらないこと考えながら生きてるじゃんか」


「女子に酷く攻撃的だね」


「うるせえ。つまり、だ。大体わからないか? 今の話で」


「いやはやまったく全然微塵も」


 宮本君は、ため息を吐いた。


「あの日、お前はおでこをぶつけた。緊張しいな一面を見せつつ、恥ずかしそうに苦笑した。そしてお前は、中性的な顔立ちをしている。

 その結果、女子はお前のこと、マスコットみたいな立ち位置で拝むようになったのさ」


 精神年齢二十五歳のおっさんを?

 そんな好奇な視線で?


 大丈夫か、最近の女子高生。大層不安だ。


「眉唾物の話だな」


「馬鹿言うな。今女子連中、お前のいない場所でお前のこと、一挙手一投足取り上げてキャーキャー言ってるぞ。大層おぞましい現場だった」


「二の句には悪口言わんと気が済まんのか、君は」


「そう言うが、お前想像してみろよ。自分がまるでアイドルみたいにキャーキャー言われてんだぞ」


「……想像?」


 アイドルのように虚像を持ち、フィルターがかかった視線で僕を見て、一々キャーキャーと取り上げる。

 まあ、確かに。


「……あんまり悪い気はしないなあ」


「死ね」


「殺害予告された」


 誹謗中傷はイカンでしょ。遺憾の意であり、アカンのアを示します。


「とにかくそんなわけで、今お前は学校中のアイドルになったわけだ。モテる男は大変だな、死ね」


「また殺害予告された」


 ……と言うか、正直未だに宮本君の言う言葉、信じられないんだが。

 壇上でちょっと頭をぶつけただけでアイドルになれるなんて、入るのにオーディションが必要で事務所に入れても体重管理とか徹底されるアイドルの立つ瀬がないじゃないか。


「お前、裏ではこう言われてるんだぜ。おっちょこちょいの青山君」


「誰がおっちょこちょいだ」


 なんだその、ライトノベルのタイトルにありそうな呼び名は。

 そもそもあの全校集会で僕がしたことなんて、ちょっと挨拶で噛んで、頭を卓にぶつけたくらいだぞ。

 いやまあ確かに、普通のスピーチの場でそんなことをする奴は見たことないが、あれにはあれで僕なりの意図があってやったことなのだ。そんなまるで鬼の首を取ったように取り上げて、色々言わないでくれても良いじゃないか。


 ……でも、別に悪いようには捉えられてないんだよな。難しい話だ。


「っけ」


「口が悪いね、宮本君」


「お前が落ち着き払ってるの、すっげえムカつく」


 そう言われても。


「……ま、お前には坂本さんって言う意中の人がいるから、どうでも良い話か」


「ちょっと何言ってるかわからない」


 途端、宮本君の顔つきが苛立ちの様子から好奇に変わった。何故、そのことがバレている?

 もしかして彼、僕と一緒でタイムスリップしてきているのか?


「まあまあ、で、どうなんだよ。一緒になってクラス活動に取り組んでさ。収穫ないってわけじゃないんだろ」


「べ、別に……収穫なんて野菜みたいなこと、なかったよ」


「何言っているかわからない。わかりやすく取り乱すな、お前」


「喧しい」


「……ふうん。じゃあお前、坂本さんのこと好きじゃないんだ」


「え」


「じゃあ俺、狙っちゃおうかな。すげえ綺麗じゃん。坂本さん。前から、良いなと思ってたんだ」


「……」


「睨むなよ」


「べ、別に睨んでない」


「はいはい。お前ら本当、端から見ても似てるよな」


 僕と、藍が?


「どこが」


「ツンデレなとこ」


 僕は宮本君の言っていることの意味がわからず、首を傾げた。

日間ランキングが順調に下落中! 皆さん、モチベーションという名の承認欲求満たしになりますのでたくさんの評価、ブクマ、感想を宜しくお願いします!

なんとかもう一度浮上したい!!!

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