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学年主任との対談

 須藤先生の尽力の末、予定通り翌日に僕と矢沢先生と、須藤先生の三者面談の場は実現した。時間は、昼休み。

 それまでの時間、僕は英気を養うようにすっかりと日常になりつつある授業へ集中し始めた。


 まもなく、中間テストが始まろうとしている。だからか、皆の気持ちも少しだけ勉強に向くようになった気がする。

 まあそうなった原因の一端は、横暴である矢沢先生であることはまず間違いない、のだが。


 もしこのまま、矢沢先生との面談の末、頑なな姿勢を崩せずに全校集会でのアンケート協力が実現しなかった場合。

 それは最悪のケースだが、一応そっちのバックプランも数時間頭を捻り僕は用意していた。どんな最悪なケースに見舞われようと、それに備える必要性を学んだのは、かつてたくさんの失敗、怒声を浴びせられた社会人時代の教訓だ。


 ただ、一番手っ取り早いのは矢沢先生にわかったと言わせることであることは間違いはなかった。そのための準備、と言うか言い回し、作戦。それの備えも、万全だと思っていた。


 昼休み。


「ねえ」


 まずは昼ご飯を食べてから、職員室に向かう事になっていた。さっさとご飯を食べて、職員室に向かおうとしていた僕だったが、言葉短く呼び止めたのは藍だった。


「何?」


「……まず、ご飯はゆっくり食べなさい」


「……うん」


 そう言えば、十年後の藍にも似たようなことで怒られた気がする。僕は藍の指示に従い、ゆっくりとご飯を食べ始めた。


「大丈夫?」


 藍が、言った。


「何が?」


「この後の面談」


「ああ、大丈夫大丈夫。心配しないでよ」


 それは事前準備をしたからこそ、はっきりと言える言葉だった。楽観的な言葉ではあるが、内心の疑心暗鬼は一切なかった。


「……正直さ」


「ん?」


「あなたが大丈夫って言っても、いつも不安でしかなかったの」


「……へえ」


 ご飯に集中していたせいで、キチンと藍の言葉を聞いてはいなかった。


「あたし、あなたのこと何も知らなかったのね」


「そりゃあそうだ」


 ご飯も食べ終わり、僕は弁当箱を鞄に仕舞い、立ち上がった。

 そして、藍の顔を見た。藍は少し、寂しそうな顔をしているように見えた。


「だって僕達、まだ出会ったばかりじゃないか」


「……そう、ね」


 何故か。

 藍は、安心したようにため息を吐いていた。


「じゃあ、僕そろそろ行ってくるから」


「ん」


「まあ、見ててよ」


 それから、藍の傍を離れて教室を出て行った。途中、数人のクラスメイト達から激励の言葉を頂いたら、どうしてか沸き上がるような気持ちがあることに気が付いた。


 大きく息を吸って、吐いた。


 話し合いの場で、激情は思考を奪うだけなのだ。


 気持ちを落ち着かせて、職員室へ。

 

「失礼します」


 そう言って、職員室内部へ侵入した。


「お、早いな。青山」


「先生こそ、早食いはいけませんよ」


「そうだな。矢沢先生は多分学食だ。先に応接間に行っていよう」


「はい」


 須藤先生に導かれ、応接間に入った。思えばこの学校の応接間に入ったことは、これが初めてだった。


「お茶でいいか?」


「お構いなく」


「いいんだよ。淹れないとうるさい人がいるから」


「淹れてもまずいだの、うるさいんじゃないですか?」


 憶測だが。


「いいや、そんなことは言わない」


「へえ」


「熱いんだよボケって言う」


 なるほど。僕は苦笑した。

 須藤先生がせわしなく移動しながら、茶を淹れて戻ってきた。


「じゃあ、少し待とうか」


「はい」


 それから、僕達は応接間で少し固めのソファに座ったまま、矢沢先生を待った。


 しかし、待てど待てど件の人物が姿を現す様子はなかった。


「ちょっと、見てくる」


「はい」


 須藤先生が職員室を後にした。


 それからまもなくしてだった。


 職員室から、怒声が漏れだしたのは……。




 僕はソファから、立ち上がった。




「大体お前は、仕事一つまともに出来ない癖に生意気なんだよっ」


 須藤先生に罵声を浴びせる人。


「でも矢沢先生、話ぐらい聞いてあげてくださいよ」


 恐らく彼が、矢沢先生とやらだろう。


「うるせえ。俺は忙しいんだっ」


 しかし、あれだな……。まさか職員室で怒鳴りだすとは。


「でも……」




 正直、好都合だ。




「御取込のところ申し訳ございません。矢沢先生でお間違いないでしょうか?」


「あ?」


 露骨に嫌な顔をしている矢沢先生とやらに、僕は微笑んでいた。


「……そうだよ。お前か? 話がしたいだの文句言ってる奴は」


「文句は言っていませんが、話はしたいので間違いないですね」


「それが生意気だって言ってるんだよ」


「そうですか。それより先生、早速本題に入らせてください」


 相手のペースを崩すように、僕は言った。矢沢先生の眉間に皺が寄った。


「先生、今回僕達のクラスでは横断歩道の設置をロングホームルームを通してやりたいと考えています。そのために、全校集会の場でアンケートを募らせて頂きたい。駄目ですか?」


「駄目だね?」


「何故?」


「あ?」


「何故駄目なんです? 先生、理由を教えてください。ただ駄目、と言われただけでは、今後の反省にも対策にも活かせません。何故駄目だと思ったのか、キチンと理由を説明してください」


「お前……」


「先生、あなたのする仕事は生徒を生意気だと怒鳴ること、ですか? 違いますよね。あなたのすることは、キチンと公正な立場から生徒の行うことを審議し、正すことです。そして、間違っているところを指摘する。説明責任を果たすことにあります。

 今先生は、私を怒鳴ろうとしましたね。


 説明してください。私の何がどう駄目なんですか? そして、その駄目だと思ったことは、公正な立場からの判断ですか?


 さあ、説明してください。


 それがあなたの仕事ですよ。お給料もらってますよね」


 先生は、毅然と捲し立てた僕の言葉に、閉口した。


「先生、どうして何も言ってくれないんですか。先生のご指導で数分時間を使っていますが、閉口しているということは自分の誤りを認めた、と言うことでいいんですか?」


 依然何も言えない先生に、僕は続けた。


「先生、クローズクエスチョンですよ。イエスかノーの質問です。それを答えられないことはないでしょう。答えてください。もう昼休みも残り少ないです」


「……イエス」


「へえ」


 でしょうね。


「先生。僕は別に先生を問い詰めたいわけじゃないんですが。……まあ、この際そんなくだらないことは水に流します。

 それで先生、須藤先生から資料をもらってますよね。読んでくれましたか?」


 先生は俯き、閉口していた。


「これもクローズクエスチョンなんですが……まあいいです。先生、どうやら先生は一度、須藤先生から聞かされた僕達クラスの依頼を反故しましたね。

 理由はどうしてですか?」


「……お前達みたいな子供に、失敗した時の責任が取れるのか」


「逆に聞きますが、横断歩道の設置に失敗したとして、どんな責任が生じるんですか?」


「……それは」


「答えてください。うるさい。やかましい。そんな言葉は望んでいません。建設的な話をしましょう。僕は別に、先生を責めたいわけではない。クラス活動を成功に導きたいだけだ。

 さあ、言ってください。何が悪くて、僕達の願いを聞き入れてくれなかったんですか。答えてください。

 説明責任を果たしてください。


 それが先生の仕事でしょう。それが先生がお給料をもらえる理由でしょう」


 先生は、何も言えなかった。知っている。何も考えずに否定して、それが一番楽だから今回もそうしたことは知っている。

 食い下がられても怒鳴り散らせばなんとかなると思っていたことも知っている。


 でも、そんな言葉で僕は引かない。別に難しいことを言えと言っているわけではない。簡単なことを言えと言っているだけだから、そう言える。


「何も言えないんですね」


 しばらくして、僕は言った。緊張感走る無言の職員室で、僕は言った。




「あなた、それでも本当に人を指導する立場の教師かっ!!!」


 


 僕は頃合いを悟り、怒鳴った。

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― 新着の感想 ―
[一言] よくある先公ってやつですね。先生ではなく、唯のサラリーマン。最悪であり、よくいる奴らです。生活の為、教師をやってるだけ。教師なんておこがましい奴らです。信用ありません。
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