満場一致
「まず、横断歩道の設置までにすべきことを説明します」
僕は最初に、大前提である話を始めた。設置場所を決めること、そこを決めたら、公安委員会に申請すること。
「恐らく鬼門になるのがこの公安委員会の申請のところでしょう。お金がかかることの承認を取るのって、簡単ではないから。
この学校の綱引きの綱がずっとぼろいのに交換出来ないのは、たかが知れている綱を買う金の承認すら大人達はすぐに出せないからそうなっているんだ」
あのぼろい綱、三年の運動会の時に引きちぎれたんだよな。それで各クラスから、綱一つ交換出来ないなんて、どんな貧乏学校だよ、と非難が殺到していた覚えがある。
しかし今、なんと丁度良い凡例だろうと思って僕はそれを言った。
「いやお前、なんで綱の損傷具合何て知ってるんだよ」
しかし、須藤先生にそう突っ込まれて、僕は慌てた。そう言えば、僕は今まだこの学校に入学してから運動会をしていない一年だった。
「あはははは!」
苦笑して、誤魔化した。そんな僕に冷ややかな視線を送っていたのは、クラスメイトだった。
「……ゴホン」
わかりやすく咳払いして、僕は話を戻した。
「と言うわけで、そこが一番の面倒なところであり、僕達が一番力を注がなければならないところだ。どうすれば公安委員会の人達がわかったと設置案に了承してくれるのか。それを示さなければならない。
それで、だ。
じゃあどうすれば、公安委員会の人達から簡単に承認を得られるような運びに出来るか。もっと言えば、ここは横断歩道を設置しなければしょうがないと思わせられるか、だ」
クラスメイト達は、すっかり僕の話に引き込まれているようだった。頭を捻り、案を考える人も見受けられた。
……僕ならこんなに真剣に考えなかっただろうに、素直な子達だなぁ。
「ここが危ないですって話す」
「本当にそうなの? 過去に事故が遭った経緯があるの? もし事故が遭ったらどんな事故だった? 接触事故? 死傷者はいた?」
「……えぇ」
多量に質問すると、その人は困ってしまった。
「恐らく、ただの学生が申請なんてしたらこんなことを聞かれるだろう。何故なら、僕達はただの学生だから。知見者の話。大多数の意見ではなく、たかが一クラスの生徒の提案なんて、いくらでも突っ込みどころは生まれるし、向こうだって簡単には本腰を入れないだろう」
「……それ、自分からその案無理だって言ってるようなもんじゃない」
「なんで?」
「……だって」
「そう言われる懸念があるとわかっている。だったら、それを対策すれば良いだけじゃないか」
「……じゃあ、どう対策するのよ」
「簡単さ。一学生の申請。一クラスの申請だから真面目にやらない。だったら、より有識者に。より大多数の人に……。
協力してもらう。力添え、してもらう」
クラスの皆が再び静まり返った。
「再来週、全校集会がありますよね。須藤先生」
「え、……あるな」
「その時に、全校生徒と教師からアンケートを募る話をしたいです」
「ゑっ」
露骨に嫌そうな声を、須藤先生は出した。
「今回僕達は、こういう意図があって横断歩道の設置をロングホームルームで実施していきたい。通学路の危険な位置を把握するためにも、皆さんからもご協力をしていただきたい。こんなところでしょうか」
「えー。ええー」
須藤先生の態度は、やはり露骨だった。
「ちょっと青山。本当に大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって……その、皆に協力、本当に仰げるの?」
「逆に、どうして無理だと思うの?」
「だって、そんなの面倒じゃない」
「アンケートに回答することが?」
質問してきていた倉賀野さんは、閉口した。
「通学路の危ない道をピックアップして精査して横断歩道を設置する。普通に考えて、メリットしかない話だろ? まあ、アンケートの回答が面倒なのはわかる。だったら学校半径三キロ以内の範囲に絞って、そして地図は印刷しておいて、線を引けば良いだけにするとか、とにかく簡単に回答出来るフォーマットを作ればよい。
それさえも拒む人は、あまりいないんじゃないかな」
「……まあ、確かに」
「まあ、それ以外にも面倒だと思う事はあるかもしれない。だからなるべく、簡単な質問になるように検討しよう。そして、一番嫌がっているだろう交渉の場は安心してくれ。責任もって、僕とあ……坂本さんでなんとかするから。
あ、あと須藤先生」
「お前さっきから、俺の扱いおざなりだな」
「エヘヘ」
僕は照れくさそうに頭を掻いた。
「……と言うわけで、真っ先にすることは次の全校集会で壇上に立たせてもらうことへの調整とそこで話す資料の作成になるわけだけど……。
それよりも先に、結論付けなきゃいけないことがあるね」
クラスメイト達が首を傾げた。
「さて、皆さん。ある程度、今後の方針とやるべきことはイメージ出来ている状況だけど……ロングホームルームのやること、横断歩道の設置で進めていいかな?」
え、今更? と皆の顔に書かれていた。ここまで話して、今更代案があるのか、と言いたげだった。
満足げに、僕は微笑んだ。
「じゃあ念のため、多数決を取らせてください。一学期のロングホームルームのやること、横断歩道の設置で良いと思う人。手を挙げてください」
……しばらくして。
クラスメイト全員の手が、挙げられたのを確認して。
「ありがとう。じゃあ一学期のロングホームルーム、この案で進めさせてもらいます」
僕は、満足げに言った。
ようやく話が進んだ気がした。
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