次のロングホームルーム
翌週の水曜日、待ちに待ったロングホームルームの時間。
ロングホームルームを休み時間と勘違いしているクラスメイト達の話声で喧騒とする教室にて、まずは須藤先生によるこの時間、つまりはロングホームルームについての説明が成された。思えばこの話、最初のロングホームルームの時点でした方が良いものだったろうに。今更感が拭えない説明にクラスメイト達から今更、だの野次が色々と飛び交う散々な説明会になってしまった。
「じゃ、そういうわけで一学期のロングホームルームのやることを今日は皆さん決めてください。はい、青山。仕切って」
野次の数々に億劫になった須藤先生は、投げやりにこの荒れた場を僕に託してきた。
「はあい」
苦笑しながら、僕は立ち上がり、教壇へ向かった。
「はい、じゃあこれからロングホームルームのやること決めをしたいと思います」
まあ、辛気臭い場で取り仕切るよりかは和やかな場を取り仕切れて良かったとポジティブに考えようと思い、僕は声色明るく話し始めた。
「おい青山、ちゃんと仕切れるんだろうな」
「心配。青山君、結構適当だし」
「失礼な。適当なのは認めるが、仕切りの腕前はそんじょそこいらの学生には負けないぞ」
何せこちとら、職業の一環で打ち合わせの司会をこなしていたのだから。
「何々、すっごい自信」
「へえ、どこで学んだんだよ」
「へっ!?」
ど、どこで学んだのか、だと?
十年後からタイムスリップしたので、その間に、だなんて……言えるはずもない。
「……つ、通信教育で」
クラスメイト達が、笑い出した。
早速しくった。
場はさっきよりも和やかになったが……これは最早、話し合いをする空気ではなくなってしまった。
なんと言って場を引き締めようか。と言うか、率先してふざけたようになった僕が何か言ったところで、効果はあるのだろうか。
……ど、どうしよう。
「どうでも良いんだけどさ」
慌てふためく僕に救いの手を差し伸べたのは、藍だった。
「さっさと話、してくれない?」
クラスが静まり返った。
怖い怖い。
元旦那の僕だって怖かったのだから、クラスメイト達の戦慄具合は一層だっただろう。
わざとらしく咳込んで、僕は話し始めた。
「失礼しました。じゃあ、早速始めさせてもらいます。皆さん、先ほど須藤先生より説明があった通り、今日は毎週水曜日のロングホームルームでクラスで何をするのか、を決めさせてください」
そう言って、一度クラスメイト達の顔を眺めた。
未だふざけたりないようにそわそわしている人もいるが、先ほどよりかは藍のおかげで場の空気は引き締まっていた。
これなら話し合いは続行出来るだろう。
そして、シンキングタイムは敢えて設けない。隣の席の人と話し始めて話し合いでなくなる空気になるかもしれないし、単純な思考時間も奪ってやるつもりだった。
そうすれば一層、周囲の結論がこちらに向かう。
場合によっては、事前に話して考える時間を用意させろよ、と仇名す人もいるだろうが……たかが学生のロングホームルームの決め事くらいで文句を言う人もいまい。
「それで、まあ今日の決め事はロングホームルームで何をやるか、になるのですが……実はクラス委員にて、これが良いのでは、と一つ案を持ってきています」
僕は声高らかに宣言して、黒板に『横断歩道の設置』と書き込んだ。
中々奇を衒った案に、クラスメイトと須藤先生が驚いたような顔をした。いや、須藤先生には昨日職員室で話したじゃないですか。さてはあいつ、採点に集中してこっちの話を聞いてなかったな。なんて奴だ。
「横断歩道の設置。これがクラス委員で検討した一学期に実施したいロングホームルームでやることです。
中々とっつきにくそうな内容ですが、これをしたいと思ったことには理由があります。昨今、古今東西、至るところで学生による素行不良のニュースを見るようになりました。酷い例では、高校生による殺害だとか、そういう仄暗い話だってあり……近頃、学生に対する世間の目が厳しいような気がしているのです。須藤先生のような団塊世代の方が、最近の若者はなってないと言う場を、テレビだったり、直接だったり、とにかく目にする機会が増えました」
「失礼な、俺はそんなおっさんじゃない」
クラスから、少し笑い声が漏れた。
「そんな現状を鑑みて、僕達は些細なものではありますが、地域に貢献する活動をすることで学生の地位向上。おっさん世代の淘汰を目論みました。ただ、話題性を重視するなら老人ホームの訪問だったり、ボランティアだとありきたりすぎる。
そのため、皆で一生懸命頭を捻った結果、何とか捻り出せたのがこの『横断歩道の設置』となります」
まあ、一日で浮かんだ案だったし、クラス委員と言っても僕と藍で決めた案ではあったのだが、こういうのは誇張表現し頑張ったアピールをするに限る。所詮、人の気持ちを揺さぶるのはロジカルな考えではなく感情論なのだ。
「ここまでで、何か質問はありますか?」
「はい」
早速の質問。
手を挙げたのは、倉賀野さんだった。
「それ、本当に出来るの?」
「出来る」
即答だった。不安の色は一切出してはいけない。
「そうは言っても、そんな簡単な話じゃないでしょ」
しかし、どうやら倉賀野さんには効果がないらしい。
「やるって言うのは良いけど、無理難題に一学期を費やすなんて、あたし嫌よ」
クラスメイトが、倉賀野さんの話に同調し始めていた。
「無理難題じゃない。出来る。……と言っても、納得しないよね。わかった。実はもうある程度、今後の動きは考えてきてる」
「……え?」
そこまでしていると思っていなかったのか、倉賀野さんは面食らった顔をしていた。
「今からそれを説明するので、無理かどうかはその話を聞いた後に判断してよ」
微笑むと、クラスメイトは静まり返った。突拍子もないことを言う僕に、興味関心が湧いてきたのだろう。
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