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その者達、傲慢にして強欲

 人類が始まって数千年の時を数えた。

 彼らは自分達の星を捨て、果しない銀河を旅立つ運命を追わされた。

 何故なら戦争によって環境汚染が酷くなり、自分達のエゴイズムで母なる惑星すら破壊してしまうと思い、果てしない銀河に新たな居住地を求める事にした。

 それは長く、とても長く辛い旅路。

 見つかるのかすら分からない。ただ希望だけを頼りに、暗く冷たい宇宙空間を彷徨った。

 仲間の船が次々と内乱等により一隻、また一隻と減っていくと、彼らは希望を失いかけた。

 そんな中、彼らは希望の惑星を見つけた。

 そこは彼らの母なる惑星と同じように、大地があり、海がある惑星。

 もはや此所しかないと思い、彼らは宇宙船を巨大な大陸に着陸させた。

 もうこの時には彼らが持つ技術力は失われてしまっていて、文字通り極めて原始的な生活しか送れなかった。

 けど彼らにはそれで良かった。何故なら、なまじ技術力があるとまた戦争をやりかねないと。

 少なくても、この時の彼らはそう思った。

 そう……この時までは。



 彼らがこの惑星に移住して1500年余りが過ぎた。

 人類の唯一無二の居住地、ユーレドニア大陸には4つの大国が支配している。

 一つは大陸中央部と北部を強大な軍事力と豊富な資源で統治する帝国。

 もう三つは大陸東部を巨大な経済力と工業力で統治する連邦、大陸南部の民主共同共和国。

 最後は大陸西部を治めているアレグリア王国が支配している。

 帝国は強大な軍事力を背景に領土を拡大していったが、事実は帝国に各国が個別に戦争をし掛けては負けた為に、自然と領土が増えていったのだ。

 そしてその被害者の少年がいま帝国にいる。

 十年前までは。東部の中立国家の一つであった四季国、そして少年の故郷でもあった。

 帝国と細やかながら貿易をしていた四季国は自然豊かな国で、季節の変わり目には色とりどりの花を咲かす。だが資源が乏しく、自国の経済を回すには帝国を頼らずにはいられなかった。

 無論、連邦各国とも経済的結び付きも強かったし、貿易も盛んに行われていたが帝国の比ではない。

 ある時、連邦の大統領が四季国にある通告を出した。

 帝国との貿易を止めない場合、直ちにエナジー資源の輸出を止め、経済制裁並びに防衛戦略から貴国を外すと通告したのだ。

 これは間接的に帝国に経済攻撃を仕掛けるのが狙いだったのだが、彼らの思惑は外れてしまった。

 帝国も四季国に貿易を止めるなら敵支援国家と見なし、我ら帝国に対しての宣戦布告と見なすと通告した。

 もちろん帝国にとっては四季国などは小さな取引相手の為、仮に輸出を止めても痛くも痒くもない。狙いは領土拡張を狙う連邦に対する牽制なのだ。

 板挟み状態に陥った四季国は、苦渋の決断を迫られてしまう。仮に連邦の指示に従えば経済制裁は間逃れるが、連邦からの輸入では圧倒的に足らない。おまけに四季国の軍事力は連邦や帝国に比べられないくらい微々たるもの。

 また、帝国の指示に従えば資源は手に入るが、連邦からの経済制裁を課せられ、経済崩壊してしまう。

 時の四季国の首相は決断した。

 資源は連邦各国から輸入し、帝国との貿易を停止すると。

 その旨を時の皇帝、ヒルデガルド・フォン・アルムルーヴェ皇帝に伝えたが、皇帝からの返答は短く、かつあっ気無かった。


『分かりました、頑張って下さい。貴国から受けた恩は帝国は忘れませんから』


 その言葉に、四季国の首相は肩透かしを食らった様に椅子にもたれ掛かった。

 アルムルーヴェと言えば『傲慢にして、強欲の黄金獅子』と言われており、もっと怒り狂うかと思ったのだが、実際のヒルデガルド皇帝は興味の欠片さえ無い様な表情だった。

 その後は時間を置かず帝国軍が四季国に宣戦布告を発布した。

 四季国の国境に築いた防衛線は簡単に突破されてしまい、大軍が首都を包囲した。

 頼みの綱の連邦軍は介入することなく、見捨てられた首相は降服を宣言し、電撃的な速さで首都を無血開城した。

 こうして四季国は帝国の報国になり、少年は第一の故郷と両親を失った。

 あれから十年が経ち、少年は帝国首都の()()()()の前にいた。

 少年の眼前には鉄条門があり、門の上にはアーチ状のプレートが飾られている。周りをみると()()()と友好国の時に送られた桜色の花一杯に咲かせた木が植えられていた。

 そしてプレートには『帝国軍士官学校』と刻まれている。

 周りをみると上級生が新入学生の為に音楽隊を編成し演奏していたり、真新しい制服を着て門の前で記念写真を撮っていた。


「参ったな……。修練場は何処だろう?無駄に広くて困る」


 少年は故郷と帝都の違いに戸惑う。帝都は故郷と違い洗練されており、道はきちんと舗装され車が行き交う。

 おまけに、この帝国軍士官学校は故郷の学校敷地より数倍も広い。

 修練場では騎馬戦やライフルを使った銃剣格闘を習うみたいで、軽く故郷の学校が幾つも入る。

 おまけに座学を勉強する巨大な校舎や、士官学校は全寮制の為に何百人も生活できる寮を完備している。

 帝国が他国に対して比類無き強力な軍隊なのもこれを見ただけで理解出来る。

 そして少年の目下の目的は修練場だ。修練場にて入学式を行うと聞いたからだ。

 周りの誰かに聞こうと思ったが、明らかに話しかけ辛い雰囲気を醸し出している。

 帝国軍士官学校に入学してくるのは大抵は貴族の子供だからだ。たまにごくごく一部稀に平民が試験を突破して入学するが、そんなの天文学的数字だ。

 幸か不幸か少年は後者の方だ。しかも平民出身の為に貴族とは性格が合わない。

 困り果ていたところに一人の少女に目が止まった。

 その少女は他の貴族達と明らかに雰囲気が違う。

 黄金獅子の様に光輝く金色の長髪を風に靡かせ、たまごの様な輪郭の両耳にはアイスブルー色の耳飾りを着けており、雪の様に穢れを知らない白い肌。そして瞳は情熱を宿した様な焔色の少女。

 凛とした顔つきをしているのだが、何処か幼さも残る顔だ。

 少年は迷っていても埒があかないと思い、その黄金獅子の少女に声を掛けた。


「あの、もし迷惑で無かったら修練場の場所を教えてくれないかな? ここは初めてで……」


 少年が少女に声を掛けた瞬間、明らかに周囲がざわついたのを感じた。

 一瞬にして静まりかえり、少年に対してひそひそ話が聞こえる『なんと恐れ知らずな田舎者』だの『何処の穴ぐらから出て来たのだ』など、ほぼほぼ少年に対しての陰口だ。

 一瞬少女は戸惑った様な表情を見せたが、僅かながら笑みを浮かべては体を翻らせて少年に言う。


「ついて来い」

「え? あ、あぁ」


 颯爽と歩く少女の後をついて行く少年。周りの視線は、まるで珍獣を見る様な雰囲気。

 だが少年はこの手の視線には馴れている。

 何故なら四季国は独特の文化を持ち、俗に云う衣服も帝国の服とは違い独特らしい。

 入学試験の時は、それはそれは好奇の視線を浴び、もはや耐性が出来たくらいに。


「着いたぞ。ここが修練場だ」


 少女に言われ周りを見る。そこには数百人の在校生や新入学生が整列し始めている。

 その周りには祝砲を撃つ為なのか、式典用の移動砲台がある。


「新入生は早く整列しなさい! ここはあなた達の家では無いのよ! 分かったのなら早くしなさい!!」


 教官と思われる女性が新入生に早くも発破を掛けている光景に緩んでいた気が引き締まる。


「もう大丈夫だな。じゃ私は用があるから失礼する」

「え!? あ、待って! 名前……」


 少年が名前を聞こうとしたが、少女は人混みの中に消えてしまった。お礼を言うどころか、結局名前すら聞けなかった。



 入学式は滞りなく進んだのだが、今回は通常の式典と一点だけ違った。

 何故か、あの皇帝陛下が出席していたのだ。しかも皇帝自身で祝辞も読み上げられ、最後に名前を読み上げた。

 第28代皇帝、ヒルデガルド・フォン・アルムルーヴェと。

 どうやら10年前から帝国の皇帝は代わっていないらしい。

 人類暦が1500年余りになる。その内、帝国暦が始まって990年と少し経つが大半をアルムルーヴェが歴任してきた。

 帝国の皇帝は四大皇族の中から皇帝を選出すると決められている。

 四大皇族はそれぞれ紋章にちなんだ家名を名乗っていて、不死鳥の紋章を持つ、フェーニクス家。一角獣の紋章を持つ、アインホルン家。鷲獅子の紋章を持つ、グライフ家。

 そして最後は『傲慢にして、強欲の黄金獅子』と帝国内外で畏れられている一族。

 黄金獅子の紋章を持つ、アルムルーヴェ家だ。

 アルムルーヴェ家は代々優秀な軍師を輩出し、それ故に戦上手と言われており、初代皇帝並びに歴代皇帝の中でもアルムルーヴェ家からの輩出が多い。

 故に帝国の国旗は深紅の旗に、それぞれの紋章を金の糸で刺繍しているが、アルムルーヴェ家の黄金獅子と次に皇帝を多く輩出しているグライフ家の鷲獅子が一番上にくる。

 その為か他の皇族家からも不満は多いと聞くが、現皇帝のヒルデガルドは場を取り持つのが上手いらしく、見事に帝国を統治している。

 一説によると、生来穏やかな性格のアルムルーヴェは一度怒りだすと獅子の如く手がつけられないと噂があり、別名『眠れる獅子を決して起こすなかれ』とも言われている為か、他の皇族家も一目置いていると噂が上るくらい。

 それくらいアルムルーヴェ家は皇族のみならず貴族すら一目置いている存在であり、今日まで帝国の創建と維持に貢献してきた優秀な一族にあたるのだ。

 そして最後に進行役の女性教官が新入生代表からの言葉と言うと、ある少女が台に上がる。

 それはさっき少年を案内した少女だ。

 少女は壇上に立つなり高らかに宣言した。

 それは、かの黄金獅子の一族の言葉を体現するように。


「私はまどろっこしい話は嫌いだ。だから端的に言う……」


 すると少女は畏れ多くもヒルデガルド皇帝を指差した。


「私、ヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェが必ずや深紅の玉座を奪い、皇帝になってみせる!!」


 正に『傲慢にして、強欲の黄金獅子(アルムルーヴェ)』に相応しい言葉だ。

 周りの教官や在校生、まして新入生みんなの表情が、ただ一人を除いて固まってしまった。

 そのただ一人はヒルデガルド皇帝だ。皇帝はヴィクトリアを見るなり冷笑する。


「フフ、面白い。もがき苦しみ、地べたを這いずりまわって深紅の玉座に挑むがいい、我が愛しくも愚かな孫娘よ」


 この者達、正しく傲慢にして強欲。

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