夢なのか
絶対零度に勝る悪寒、寸分先の個体窒素を貫くのは、五分の魂もない狂気の鉄塊。冷えきらぬCPUはそれ自体が虚偽にも関わらず、熱エネルギーを過剰放出する。桜色の降雪はエンコ殺しにはならないものの、冷却機の甲高い音を消すには十分な障害。
兎に角、少女は状況を整理するだけの余裕を持ち合わせていなかった。狂乱を発する鉄パイプに添える手は、限りなく精度を落とした。
補給路が絶たれたか、意識を絶ったか、狂気は直進を止めた。
組み込まれた覚えのない震えに、少女は意識を絶ちきりたかった。心身二元論に基づく構造物の論議を根底から崩したくも、間に合わせな現状維持の為に動き出せない。
自虐する少女を包容するのは、背中を預けた先輩。腹部の機器は損傷を受け、青銅の液体が流れ出る。痛覚はとうに機能せず、明確な結末から目を逸らすべく、少女の熱エネルギーを受容する。
苦痛と悲嘆から、涙腺は崩壊するかに思えた。だが彼女らに、そのような機能は備わっていない。
先輩の首を貫くのは、赤鈍色の決別。肌色の膜は容易く破られ、遷移原子の構造体と冷却水は砕け散り、土にも還れぬ欠片となる。無惨にも形を崩さぬ制御回路に光はなく、ただ微動した。「嫌だ」と、「嫌だ」と、動力が尽きるまで繰り返した。
少女はただ、叫んだ。先輩だったものを抱きしめ、ただただ、うちひしがれた。
少女はもう、銃を握ることはなかった。
少女はもう、涙を流すこともなかった