第2夜 夜の彷徨
その夜、私は無性に、抑えがたい憧憬と郷愁にかられていた。
押さえがたい心の疼きとでも言ったらいいだろうか。
そうだ。
夜へさ迷いでよう。
そんな思いが募ってきた。
私は一人、コートを羽織ると、冷たい夜の中へさ迷いだしたのだった。
そこは今まで見たこともない、町だった。
街灯が薄暗くともり、その灯は揺れていた、
そう、それはガス灯だった。
いったいなんで、こんな古めかしい町並みがあるのか?
レンガの歩道に、古風な家並みがずっと続いていた。
人通りもなく、ひっそりと静まり返ったこの、町。
街路を抜けると、そこは、石造りの、橋が架かり、その先は暗い闇だった。
私は足早に渡ろうとその橋に近づいた。
すると後ろから、ひゅーっと、一陣の風が舞い上がり、
振り返るとそこに、全身黒ずくめの男が立っていた。
「その橋を渡ろうって言うのかい?」
男は確かにそう、言ったように思った。
しかし、よく見ると、その男に、顔はなかった。
「この橋は渡れないのですか?」
「その先に何があるか分かっているのか?」
と、男は言う。
目を凝らすと、はるか先に、朧な、映像が見えてきた。
「何でしょう、綺麗な花園がありますね?」
「いや、それは冥界へと続く、きざはしだよ。」
男はそういうとふっと、消え去った。
橋の向こうに、一人の少女がたたずんでこちらを見ていた。
「さあ、いらっしゃい、」とでも言うように手招きして、
くすっと、微笑した。
私は背中にゾッとする悪寒を覚えて、足がすくんだのだった。
第二夜 終わり。