第1夜 夜の烏
その夜、私は、とても疲れていた。
昼間、倉庫での、仕分け作業は、退屈を極めたし、しかも、欠勤者が多くて、
残業まで強いられたからだった。
薄汚い下宿に帰り着くと、とたんに、強い疲労感と、めまいが起こってきた。
そしてそのまま、泥のような、眠りに吸い込まれていくのだった。
私は暗い淵をさまよっていた。
なぜなのか?
やがて暗い夜がひしひしと押し寄せてきて、私はなおも歩き続けるのだった、
どれほど歩いたろうか?
闇は晴れて、樹林に囲まれた空き地に出ていた。
空き地には、なぜか、墓標が点々と立ち並び、わびしげに夜風に揺れているのだった。
一つの墓標に、私は吸い寄せられていった。
なぜなのか?
いとおしさがこみ上げて、涙が止まらなかった。
突然、頭上でぎゃあぎゃあと、鳥の鳴き声が、
あわてて振り仰ぐと、それは見たこともない、濃緑の大きな鳥だった。
「お前の、いとしい人の墓だな」
鳥は突然そう、私に語りかけてきた。
「なんだって?おれは天涯孤独、大都会に寝起きする一人の地上の旅人さ。いとしい人なんているもんか。」
私は自分でも驚くほど大声でそう、叫んでいた。
振り向くと、そこに白毛の少女が立っている。
「私のこと忘れたの?」
「一体何のことだ?」
しかし、突然、闇が全てを覆いつくし、私は漆黒の中で瞑目しているのだった。
どれほど経ったろう?
私はふと、我に帰った。手を広げると、暗闇の中、
手に何か触れた。いい香りの、食物、私は手探りで、それを、貪り食った。
とろけるような、芳醇な味。
しかし、次の瞬間、突然、
雲間は晴れて、白銀のような月光が射したのだった。
そして、どこからともなく、やさしい声で
「お前は何を食っているのだ?良く手もとを見てみるがいい」
ふと我に返った私は、月光に照らされた、両手を見た。
血がべっとりと黒々と付いていた、そして地面には、
無残に食い散らかされた、死体が、散乱し、
そして、あたりを見回すと、そこには暴かれた、新墓がぽっかりと口を開けているのだった。
第1夜 終わり。




