表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

蜘蛛の糸の可能性

作者: ヒゲクマ

つまらない男だった。

周りの評価も、本人の能力も。


男は、蜘蛛の糸を操れた。練習を重ね、蜘蛛本体と糸の両方が操れるようになった。しかし、何も変わらなかった。そんなもの操れたところで、何も出来ないし、気持ち悪がられるだけなのだから。


男がそのことに気づいたのは10代半ばだ。周囲の友人が将来を考え始めた時期に自分の能力に気づき有頂天になったものだ。のんびりと釣り糸を垂れている時に登って来たクモに対し、最初は驚き、あっち行けと念じたところすぐに動いたのだ。そんなことが数回起きるものだから、クモの巣を見つけた時に、ふと、こっちに来いと念じたところやって来たのだ。そこからは、星型の巣を作ったり、立方体にしたりと訓練を重ねた。この力でのし上がって行けると思い、周囲の心配をよそに訓練したのだ。はたから見て外を見てぼーっとしているだけに見える訓練を。大学や専門学校に通う友人が、周囲から一人減り二人減り、彼らが就職する時になって、ようやく蜘蛛の操りにも自信が持てるようになって来た。余裕ができ周りを見回してみると、すでに遅かった。周囲の評価は、頭がおかしくなり、毎日蜘蛛と遊んでいる男だ。そして、蜘蛛が操れたところで、仕事は何もない事にも気づいてしまったのだ。


引きこもり状態で4年間も遊んでいる者に世間は厳しい。アルバイトが決まると同時に家も追い出され、格安物件でどうにか生活できてる感じだ。どうしてこうなった、とうなだれては、愛着がすでにある蜘蛛たちに餌をあげる。お前らに気づかなければ、とつぶやきながら。


地蜘蛛のペアが俺を呼んでいる。目が悪いながらも、お金を見つけ教えてくれる奴らだ。普段贅沢できない財布事情だが、札を拾うことができたら僥倖だ。美味しいおかずが増え、奴らもおかずが増えるというものだ。まあ、餌はやらずとも自分たちで採れるので、完全に自己満足なだけだが。


捨て弁仲間のフリーターがその日は豪華な弁当を食べていた。まさに御弁当だ。御をつけてもいいくらいの豪華さだ。どうした、と聞くとパチンコで勝ったとぬかしやがった。お座り一発で連チャン引いて大箱重ねたと抜かすんだ。解る言葉で喋れよと思ってたら、わからない感じを出していた俺に、自慢げに詳しく話してくれた。台を選んだ直感、打ち方、ドル箱と大箱の違い、止め時、換金システムなどなど。いっぱしのギャンブラーだ。そんな奴はこんな所で一緒にバイトしてねぇなぁ〜とも思ったが、なぜか惹かれた。


休憩時間に、売り物のパチンコの本をパラパラ眺めてみた。奴は、一緒に行こうと誘ってきたが、金が無いのでその日は行かなかった。

そして給料が振り込まれ、休日がきた。当然足はパチンコ屋に向いた。数時間後、興奮しながら帰路についていた。余計なもの俺に教えやがって、この先どう暮らすんだこの状況で。

で、次の給料日明けの休日に同じことを繰り返してしまった。本に書いてある通り打っているのに。のめり込み、調べ本を漁る。そんな時、釘のことと羽根モノのことが書いてある記事があった。うまく球を導けば、勝てると。そして、その導く力が俺にはあることに気づいてしまった。


蜘蛛の糸はベタベタしていると思われがちだが場面が違うから、ベタベタしていないいとも作れるんだ。一説には絹糸よりも強度もあり品質が上ということらしい。ただ、太さがまちまちなのと、蚕と違って糸を出す場面が異なり、人間が利用し難いから使われてないだけなのだ。しかし、俺はコントロールすることができる。釘の間数カ所に張るだけで、二発に一発は入るだろう。理論上それだけ入賞口に球が入れば減ることはない。減らなければ、勝てはしなくても負けはない。負けない状況で打っていればそのうち勝てるだろう。不自然な球の動きがあっても、遠目では糸は見つけにくいし、帰るときに蜘蛛が食べて証拠隠滅すればいい。そのことに思い至った俺は、ワクワクし、その日のうちにパチンコをしてしまったのだ。


結果勝つことができた。今まで以上に早く数字が揃ったこともある。が、それ以上に球が減らないのだ。糸を張り道を作る、糸で球を詰まらせ流れを作る、時には羽を開けた状態で固定した。

ようやく蜘蛛を操る術が日の目をみた。いや、ばれちゃまずいけど。


大きく勝って小さく負ける。小さく勝ってそのまま帰る。といった感じで目立たないように、でも、欲しいものが買えるくらいは稼ぐことができた。アルバイトも馬鹿らしくなり、次第に足が遠のいた。俺にパチンコを教えてくれた奴と偶然あった時には、すまんと謝られた。人生パチンコに使っちゃダメだと諭してきた。場所がパチンコ屋じゃなかったら説得力はあったかもしれない。


今はアパートも引き払い、キャンピングカーで旅打ち生活だ。

誤魔化すためにも株を買ったりしているが、基本パチンコが俺の生活を支えてる。

異世界ものにしたかったのに

ドウシテコウナッタ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ