第二王子の末路
「バカばっか」
ポツリと呟くケティの一言が、第二王子の現状を見事に表してるね。
公爵があっさりと伯爵様の爵位と領地の返上を認めたのと比較してしまうからか、余計にそう思うのだろう。
現在第二王子に張り付けてる偵察機の映像からは、現在伯爵様の屋敷の襲撃の準備を進めてるのが見える。
「馬鹿というか狂ってるとしか思えんのだが」
公爵が言った言葉というのが癪だけど、世の中にはルールと言うものがある。
第二王子はそれを明らかに逸脱していた。
「どうする?」
「あの王子だけは、ここで潰しとかなきゃダメだろ」
エルとジュリアは伯爵様の側から動かせないな。
オレ達も王都の全てを見てる訳じゃないし、他に馬鹿なことをする貴族も居る可能性は否定できない。
「応援を要請するか」
「了解」
オレとケティが行ってもいいが、やはりオレ達は戦闘が得意じゃない。
困ったことに第二王子は取り巻きを使って、チンピラを雇い王都の伯爵様の屋敷で働く使用人の家族を人質に取ってる。
そう言えば領地でも人質を取ろうとしたし、本当人質を取るのが好きな人だね。
何とかの一つ覚えというところか。
「ただ公爵の側も動いてるしね。人質を見捨てようとしたら介入しよう」
第二王子自身は相変わらず、クリスティーナを自分のモノにしたいと喚いているけど、実は彼の年齢って三十ニ才なんだよね。
しかも体型はデブで後頭部は若ハゲになってる。
こっち来て初めてデブを見たよ。
多分食料事情から太れる程食べられる人って、限られてるんだろうね。
それが自分の子供ほどのクリスティーナを狙うなんて。
まあ第二王子の容姿はどうでもいいとして、当然ながら公爵も第二王子を放置する気はないようで人を動かしてる。
こちらは第二王子の取り巻きの貴族のボンボンに雇われたチンピラではなく、クリスティーナを狙っていたようなプロの集団だ。
「自分の孫を始末させるのか? 貴族って怖いな」
「人質は助けるみたい」
「無用な恨みは買いたくないか」
オレとケティは偵察機の映像を見ながら公爵の雇った集団が人質をどうするか慎重に監視するが、彼らも公爵も第二王子ほど馬鹿ではないので人質は助けることにしたらしい。
多分伯爵様を怒らせたくないのだろう。
公爵からしたらせっかく王太子一派の出鼻を挫く鍵を握ったのに、ここで伯爵様の家の者を犠牲にしたら全てが狂う可能性があるからな。
第二王子が潜伏してるのは、治安の悪いスラムにある倉庫か何かのようだ。
ただ人質は縛られたまま眠らされてるだけで、第二王子とチンピラは酒を飲んで騒いでる。
伯爵様には呼び出しの手紙を出そうとチンピラを伯爵邸に送り出したんだけど、すでに公爵の雇った者達がチンピラを取り押さえていた。
「流石にレーザーの矢を避けただけはあるなぁ」
第二王子と取り巻きにチンピラは、公爵の雇った犯罪ギルドの集団にあっさりと捕まった。
オレを誰だと思ってるんだ!と第二王子は騒いだけど、意味などないよね。
そのまま第二王子と取り巻きにチンピラは用意していた袋に詰めて運んでいき、人質は伯爵様の屋敷に送り届けるらしい。
「みんな纏めて行方不明って訳か」
「そうすれば公爵は被害者になる」
「王太子派がやったかもしれないと一人でも思えば得になる訳ね」
第二王子達はそのまま、本来ならば王都から出られない夜の間に、下水道を通って王都から運ばれて人知れず人生にサヨナラするようだ。
生かして修道院という選択肢もあっただろうに。
なまじ身内なだけに御輿にもならない以上は、公爵にとって彼ほど危険な存在はないということだろうか。
「エルに伝えて。問題は解決したって」
「了解」
もしかすると公爵なりに今回の一件の、けじめの付け方なのかもしれない。
ただ第二王子にも捨てた女と子供が居たはず。
その人達は未来永劫救われなくなってしまった。
こちらで第二王子を捕らえて、罪を白日のもとに晒して断罪すべきか?
いや、必要ないだろう。
王都で第二王子の傍若無人な行動の数々を知らぬ者は居ない。
知らぬは国王と一部の王族だけなのだ。
元々国民の間では評判の良くない国王は、第二王子を野放しにしてることで国民からは恨みを買っている。
国王だけではない。
王妃や王太子も第二王子を野放しにしてることで国民からは嫌われてるのだ。
断罪などすれば逆にガス抜きになって、王太子の国王即位にプラスになるかもしれない。
子供達も断罪された王子の息子と言われるよりは、身勝手で行方不明の王子の息子と言われる方がマシだろう。




