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公爵の憂鬱

今回は三人称になります

「逃げられただと!? 何やってんだ! この無能どもが!」


 王都にあるミューラー公爵邸では、噂の第二王子が怒鳴り散らしていた。


 クリスティーナを捕らえに向かった隊から連絡が途絶えたので探しに行ったら、全員殺されていたと言うのだから心中穏やかではないらしい。


「ハイド。落ち着かんか」


「ミューラー公爵! そもそもあの連中で大丈夫だと語ったのは貴様だぞ!」


「相手はロイスブルッグだ。この程度のことは想定内だ」


 屋敷の主たるミューラー公爵は、そんな第二王子に何処か冷めた目を向ける。


 この孫が賢くとまでは言わないが、せめて今の陛下のように大人しくしていれば、これほど苦労はしなかったのにという思いがミューラー公爵にはあった。


 自分の無能さも理解せず、盛りの付いた獣のように女を無理矢理犯すことばかりしているこんな男。


 孫でも王子でもなくば、とっくに始末していただろうと思う。


「それで行方は?」


「申し訳ありません。街道からは外れたようです。相手の護衛はただ者ではありません。街の中でもクリスティーナを奪える機会はまるでなく……」


「惜しいな。ロイスブルッグ。あの才を国のために生かしてくれれば」


 自分の感情を抑えられない第二王子は放置して、雇った犯罪ギルドの人間から報告を受けたミューラー公爵は、ため息混じりに敵でもあるロイスブルッグ伯爵を褒めた。


 今回の王位継承問題はミューラー公爵の野心も無論あるが、何を考えてるか分からぬ王太子に危機感も感じている。


  まだ王位が欲しいと欲を出すならば理解するが、宛がわれた側近の思うままに動き、王位にも興味を示さぬ王太子が不気味だった。


 母親の王妃もまた同じタイプだが、王太子の側近には母親が祖国から連れてきた侍従も付いている。


 王妃の祖国は王が代わり野心溢れる王になると、隣国に経済的な圧力をかけて属国化しようとしており、それをミューラー公爵などの第二王子派は警戒していた。


 もちろん国内の次期王での主導権争いもあるし、王家が抱える利権も莫大なため私利私欲としての面も否定出来ぬが。





「こうなれば伯爵を直接捕らえて!」


 この国には貴族の争いにもある程度の暗黙のルールがある。


 命は奪わぬことと家名を汚したり、家を潰すことはしないという暗黙のルールがあるのだ。


 ミューラー公爵のやり方は、少しばかりグレーゾーンであるものの証拠を残さねば公爵という立場で批判は封じられる。


 ただしこれ以上は、ロイスブルッグが王太子派に取り込まれるだけに思えて判断に迷いが生まれた。


 何かよい手はないかと思案するミューラー公爵だが、第二王子は冷静に考えるということも出来ないようで、直接的な実力行使に出ようとする。


「止めないか。お前の役立たずな取り巻きに何が出来る?」


「無礼であろ! 祖父とはいえ!」


「世の中にはルールがあるのだ。ハイド」


「ふん! 王家を食い物にしようとしてる俗物の分際で! 私が知らぬとでも思っているのか!」


「そこまで言うならば、好きにするがいい。ただし私は今後一切貴様に支援しないぞ? 王だけで国が動かせると思うなら好きにするがいい」


「その言葉! 後悔するなよ!」


 あまりに浅はかで愚かな第二王子にミューラー公爵は眉を潜めて窘めるように止めるが、第二王子は何も理解してない様子で勝手に屋敷を出ていってしまう。


「旦那様」


「皆に連絡しろ。アレはもうダメだとな。それとロイスブルッグにも、何をするか分からんと知らせてやれ。流石にもう愛想が尽きた」


 ミューラー公爵は決して善人ではないが、一方的に国やロイスブルッグ伯爵を食い物にする気もない。


 何よりあまりに愚かな第二王子と、一緒に心中する気は全くなかった。


 クリスティーナを側室に差し出せば、ロイスブルッグ伯爵にもそれなりに利権や分け前は与える気でいたのだ。


 どうせクリスティーナのこともすぐに飽きてしまうのだから、少し我慢すればいいと彼は考えていた。


「王太子派の連中の高笑いが聞こえるようだな」


 担ぐ御輿があそこまで愚かだと流石にどうしようもないと匙を投げたミューラー公爵は、自身の身を守るべく動き出す。


 彼は紛れもない貴族だった。



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