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旅の終わりの火蓋

「来てるね」


「クズの考えることって、分かりやすいね」


 久々の周りに兵士の皆さんも居ない馬車は、少し寂しい気がした。


 クリスティーナ様の表情も暗く不安なのは明らかだけど、オレ達は落ち込んでも居られない。


「相手は十人。それなりに訓練された裏稼業の者ですね」


 オレ達の馬車は尾行されている。


 十人の多分それなりに腕の立つ連中らしい。


 ジュリアやエルの話では町にはもっと密偵やら裏稼業の人間が居たらしいので、半分は伯爵様の方に行ったのだろう。


 先程の町で伯爵様を待ち伏せしていたようで、クリスティーナ様を拉致して第二王子が助け出してそのまま側室にという筋書きらしい。


 無論伯爵様にそんな幼稚な筋書きが通じないのは明らかなんだけど、最低限の体裁を整えたあとは権力でごり押し出来ると考えてるみたいだ。


「さっさと片付けようか?」


「了解しました。馬車の故障を装い止まります。クリスティーナ様とメアリーさんは馬車から出ないようにお願いします」


 このまま何時までも尾行されてるのも気分が良くない。


 早く尾行を始末して拠点の島に行き、伯爵様の方のサポートに専念したい。


 エルにその考えを伝えてオレ達は馬車の故障を装い、街道から外れて馬車を止めた。


 外に出て馬車を直すフリをするけど、意外に慎重で九人で包囲するように散ると一人は離れた場所で待機してる。


 まあ全部レーダーと偵察機で丸見えなんだけど。


「来るよ!」


 良かった。


 引っ掛かってくれた。


 夜まで待たれたら面倒になるところだったよ。


 先手は馬を狙った魔法だ。


 いきなり地面が隆起して馬を下から突き刺そうとしたけど、装甲馬車のバリアが展開されると、槍のように堅く鋭そうな土が衝撃音と共に砕ける。


 ジュリアはさっそくバスターソードを抜くと魔法使いを倒しに駆けていく。


 馬車の上ではケティが一番遠くで待機してる相手から、レーザーを纏わせた矢を遠慮なく放った。


「かわされた?」


「馬鹿め! クリスティーナは頂く!」


 どうやらジュリアが倒しに行ったのは陽動を兼ねていたらしい。


 四人ほど始末したらケティのレーザー仕様の矢をかわされた。


 まさかかわされるとは思わなかったから、ちょっとびっくり。


「対人レーザー発射」


 でも裏をかいたのはこちらも同じ。


 馬車の外に出てるのはジュリアとケティとオレの三人だけな訳で、エルは馬車で戦うために中に残っている。


 ケティの矢を避けた相手は連中のリーダーだろう。


 戦いの素人のオレでも分かるほどの殺気で片手剣にて斬りかかってくるが、馬車の下部の木製部分から発射されたレーザーに反応出来ずに右腕と剣が吹き飛ぶ。


 警戒していれば避けられたのかもしれないけど見た目は馬車だからね。


「腕がぁ! オレの腕がぁぁ!!」


 日頃の行いのせいか悪どい顔を歪めながら、肩から先がないのに気付き痛みからくるだろう叫び声をあげた。


「馬鹿はお前だよ。オレも囮だからな」


「てめぇぇぇ!」


 相手はただのチンピラじゃない。


 腕を失いながらも殺気も闘志も消えぬままこちらに近付いてくるも、対人レーザーは連射が出来ることを彼は知らない。


 左手と両足を次々と吹き飛ばされたリーダーは倒れながらも声にならない声を叫ぶ。


「素直に知ってること全部話すなら助けるけど?」


「殺す! ころす! てめえらは絶対に……」


 話し合いは無理だったか。


 半ば狂ったように殺すという男の殺気に、オレは怖くなりレーザーガンで止めを刺す。


 昔。両親の遺産を狙っていた親戚が、恩人に追い詰められた時と同じ顔に見えた。


 最終的に恩人に殴りかかり警察に捕まったクズの親戚に見えたんだ。


 許しても手を緩めてもいけない。


 こいつは生かしておいたら、必ずまた人を殺すだろう。


「こっちは終わったよ」


「行こうか。早く戻って伯爵様をサポートしないと」


 レーザーガンの引き金が少しだけ重い気がした。


 目の前で自らの手で人を殺したことに、少し震えていたかもしれない。


 でもこの世界を生きていくには必要な覚悟なんだと思う。


 追っ手を始末したオレ達は迎えの輸送機で馬車ごと拠点の島へと帰ることになる。


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