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伯爵様の旅の目的

 夕食が終わるとオレは、少し話がしたいという伯爵様に誘われて宿屋の一階にある酒場で酒を飲もうとしていた。


 酒場と言っても個室があるレストランのような酒場で、よくあるファンタジーのような雰囲気とは違う。


「王都に着いたらどうするつもりじゃ?」


「まだ決めてません。元々目的もない旅でしたので」


 オレが安酒ではない冷えたエールを一口飲むと、伯爵様もゴクリゴクリとエールを飲み話を始めた。


「ワシの家は軍で兄と息子を亡くしていてな。本来将軍職もワシの立場では、継げないはずじゃった。それが昔魔物の大暴走が起きた時に、将軍だった侯爵が体調を崩したと逃げての。誰もやりたがらなくて、ワシがやらされただけなんじゃ」


 伯爵様は何かを思い出すかのようにゆっくりと昔話を語るが、それは巷で言われてる救国の英雄の非情な真実だった。


 本来伯爵家が軍で将軍職に就くことはなく、上級貴族が逃げたので緊急措置として強引に将軍にされたらしい。


 いわゆる捨て石の部隊と将軍だったようで、伯爵様達で少しでも魔物の数を減らして王都を守る計画だったのだとか。


「貴族にも様々おっての。王都の貴族は地方の貴族など使い捨ての駒のようにしか考えておらん。先代の陛下はまだ理解して下さったが、現在の陛下と王太子殿下達は……」


 あまり楽しい話ではなく伯爵様もまた楽しげではないが、ただ昔話を聞かせたい訳ではないらしい。


「のう。クリスティーナを貰ってやってくれんか?」


「身分が違いますよ」


「実はの。クリスティーナには話しとらんが。第二王子から側室に差し出せと言われておる。陛下は悪い御方ではないが優柔不断での。王太子殿下と第二王子の王位継承で、今は国の貴族が争っておってな。第二王子はワシの名声が欲しいらしくての」


 伯爵様の話はクリスティーナ様のことだった。


 少しそんな予感はしていた。


 ヴェネーゼで聞いた貴族の話とあまりにかけ離れた立派な伯爵様にオレは少し安心していたが、貴族全体で言えばまあどうしようもない貴族もそれなりに多いらしいね。


「ワシはもう嫌気がさしての。爵位と領地を返しに王都に向かっておるのじゃ」


「クリスティーナ様は王都で社交界だと言ってましたが?」


「連れて来なければ攫われてもおかしくないからのう。第二王子はそんな奴じゃよ」


「流石に結婚は決断出来ませんが、とりあえず私達が拠点にしてる島に来ませんか? 生活に不自由はしませんし、あまり多くないならば人を連れてきても構いませんよ」


 どうやら王都でゆっくりと観光してる場合じゃないみたいだ。


 伯爵様もクリスティーナ様も見捨てていい人ではない。


 例えこの国がどうなろうとも。


「ワシが行けば迷惑がかかるかもしれんぞ」


「構いませんよ。その気になればこの国くらいなら一瞬で潰せます」


「……異邦人とは噂に聞く通りか」


「噂ですか?」


「わが国を建国したワイマール一世陛下とタクヤ様もまた、ここにあった人族至上主義の国を滅ぼしておるのじゃ」


「オレは建国なんてしませんよ。伯爵様は王になりたいので?」


「冗談ではないわい」


「とりあえずオレ達の部屋に来てください。具体的な話をしましょう」


 オレは司令と呼ばれてはいるが、所詮はゲームでの指揮官故に何も一人では出来ない。


 己の力で生きた過去の異邦人と一緒にされると心苦しくすらなる。


 しかしオレは百二十体まで増やした優秀なアンドロイドと宇宙要塞で、ギャラクシー・オブ・プラネットで生きていたんだ。


 物語のような熱い戦いも断罪もしないけど、目の前の人くらいは救えるはずなんだ。


「すまんの。巻き込む気はなかったんじゃが。クリスティーナが君達を気に入っての。せめて孫だけでも……」


「一人も二人も変わりませんよ」


 家族は一緒に居るべきなんだ。


 せっかく生きてるんだから。


 それだけは譲れない。


 クリスティーナ様が大人になり自立するまでは。



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