襲撃?
「ちょっと待っとくれ。この気配は魔物じゃないよ!」
「なんだと! 風か?」
「いや。人だ!」
作戦ではジュリアと騎士が鳴子の音がする場所に駆け付けオーガを誘導するはずで、ジュリアと騎士は一目散に鳴子の音の方に駆けて行ったけどどうも様子がおかしい。
「この盗人どもが!! 紛らわしいんだよ!」
異変に伯爵様とオレ達は二人の元に急いで駆け寄ると、そこに居たのは畑の作物を盗もうとしてる盗賊達だった。
まさかの犯人に若干キレ気味のジュリアと無言で怒りの表情を浮かべる騎士に盗賊達はあっさり捕まってしまいオレ達は深いため息をつくしかなかった。
「そう言えば村長さんが最近野菜泥棒が出て困ってるとおっしゃってました」
「逃げられぬように縛って、その辺においておけ。オーガが来たらエサにしてやるわ」
捕まったのは十人ばかりの盗賊でここで血を流させると血の匂いでオーガを呼ぶ可能性があるので全員生かして捕らえられたが、これには作戦を考えた伯爵様とエルも頭を抱えていてオレ達には優しかった伯爵様が怒りの表情で野菜泥棒の常習犯達をオーガのエサにすると告げると盗賊達は震え上がってる。
「この盗人どもが! てめえらのせいで家は困ってるんだぞ!」
「そうだ! 数少ない収入になるはずだったのに!」
そして怒り心頭なのは村の男衆だった。
伯爵様が居なければ盗賊達はなぶり殺しにされていただろう。
「野菜泥棒か。昼間の連中といいこの辺りは盗賊が多いのかな」
「この辺りはヴェネーゼから王都への街道として栄えておるからのう。村なども比較的裕福なのであちこちから盗賊があつまるんじゃよ。王都近郊は流石に騎士団や軍が居るしのう」
オレ達は一旦宿屋の食堂に戻り一息つくと盗賊の多さに素直に驚いていたんだけど伯爵様いわく盗賊の多い地域らしい。
「伯爵様。あの者達は冒険者ギルド所属の冒険者です。取り調べのため身柄をこちらに渡して頂きたいのですが」
「お主らあやつらの仕出かした損害を補償する気はあるのか?」
「いえ、それは私どもには関係ないことでして……」
「責任は取らんが身柄は寄越せと? お主らがあやつらに金を与えておったのだろう」
「取り調べをして罪状をはっきりさせたのちに処罰を決めたく……」
「討伐隊が来るまで生きておったら引き渡そう。先にオーガが来たら連中はエサになってもらう。異論はあるか?」
「御座いません」
そのままオレ達と伯爵様に騎士はエルが眠気覚ましにと紅茶を入れたのを飲みながらしばらくこの辺りの話を伯爵様に聞いていたが、村にある一人の職員しか居ない小さな冒険者ギルドの職員がやってきて伯爵様に盗賊の身柄の引き渡しを要求すると伯爵様の表情が再び険しくなる。
ギルドとしては罪をはっきりさせたいのだろうし取り調べの必要性はオレも理解するが、この責任者は間が悪いというか空気が読めてない。
いつオーガが来るか分からぬ中で誰もが不安なのに今このタイミングで盗賊の身柄の話をするなど、温厚な伯爵様でなければ怒鳴り散らしていただろう。
「状況を理解してるのかねぇ」
「しとらんな。冒険者ギルドは国の束縛を受けぬ独立組織故に冒険者ギルド所属の冒険者が犯罪を犯した場合は原則として冒険者ギルド側に優先捜査権がある。じゃが現行犯で捕まえたのだ。捜査も何もないわい」
ギルドの職員は伯爵様の不機嫌そうな表情に慌てて帰っていったが、オレ以上に呆れた様子のジュリアの一言に伯爵様はギルドと国の関係を説明してくれた。
元々は冒険者の自由を守り有らぬ罪を着せて冒険者を使い潰そうとした馬鹿な国が昔あってそれに対抗する為の法らしいが、肝心のギルドが所属の冒険者を管理できてないことで近年では犯罪を犯した高ランク冒険者に甘いなど問題がある法律らしい。




