帰ってきたミリー
「わらわも行きたかったのじゃ!」
三日間の公式行事を終えたミリーが戻って来たが、開口一番ダンジョンの事を口にした。
帝都に近いダンジョンにて近衛兵が子供を捕らえて奴隷の密売をしていたという事件は、やはり大きなニュースとなり帝都は大騒ぎになったんだよね。
しかも悪事を働いていた近衛兵は旧バルバドス派だったこともあり、サミラス皇子の皇太子就任による恩赦をされたばかりだった。
ワイドショーがない世界で良かったね。
ちなみに公式発表には勇者パーティとサミラス皇太子の対立は無かった事になってる。
ただし現場で見ていた兵から、噂はすぐに広まっちゃったから騒ぎは拡大した。
近衛兵と裏で繋がっていたダンジョン管理する騎士などは、過酷な鉱山で生涯幽閉されて死ぬまで働かされるみたい。
帝国では貴族に極刑はないんだって。平民でも余程の重罪以外は極刑にならないらしい。
なんでも初代皇帝が罪は生きて償わせろと言ったとか。やはり地球人なんだろうね。
「今度連れていくから」
「本当じゃな! 約束を破ると針千本飲ませるぞ!」
サミラス皇太子からは謝罪の手紙が来たので特に問題はないと言っておいたし、勇者であるジョニーさんにも連絡して事情を話してある。
ジョニーさんには爆笑されたけどね。収まったならいいんじゃないかと軽い言葉が返ってきた。
「針千本飲ませるという言葉はこっちにもあるの?」
「うむ。初代様が使っていた言葉じゃ。異世界の罰であろう? 異世界もなかなか怖いの」
「違う。ただのことわざ。本当にやらない」
過ぎた人達はともかく、ミリーは自分だけダンジョンに行けなかった事が不満らしい。まだ子供だからね。
というか初代皇帝よ。ことわざを中途半端に残さないでくれ。
ミリーが異世界を勘違いしてるじゃないか。まさか帝国の貴族はみんな同じ勘違いしてるんじゃないだろうな。
ケティがミリーにことわざを教えて誤解を解いてる。うん。任せよう。
「こんにちはー!」
「ああ、いらっしゃい」
だだっ子ミリーの機嫌を取っていると、先日ダンジョンで一緒だった少年少女達がオレ達の滞在するマルク君の家に来た。
あの事件のあと、彼らに修行をつけて欲しいと頼まれたんだよね。
ジュリアが引き受けたから、彼らは昨日からマルク君の屋敷に来て修行をしてる。
「あれ……どっかで見たような……」
「ミレーユ皇女!?」
「うん? 今のわらわはミリーじゃ。城の外でその名を言うてはいかん」
そう言えばミリーは城から戻って来たばかりで変装してないからね。少年少女達に正体がバレちゃったよ。
「はい! 皇女殿下!!」
「それがいかんのじゃ!!」
「えーと……」
「ミリーと呼ぶのじゃ」
「ミリー様」
「様も要らぬ」
うん。ミリーは少年少女達に口止めしてるけど困ってるね。物語じゃないんだからリアルで言われると困るよなぁ。
「さあ、みなでダンジョンに行くぞ!」
ミリーは少年少女達を手懐けて、さっそくダンジョンに行こうって言い出しちゃうし。勝手にダンジョン行きを決めないで欲しい。
サミラス皇太子から頼まれた仕事もあるんだけどな。
まあ、一日くらいダンジョンに潜ってもいいか。




