ゴキブリ退治・その四
「こっちも援軍を呼んで一気に片付けるか?」
「援軍は無用のようです」
竜騎士の到着にオレ達を囲む兵達は隊列を再編しつつ攻撃しようとしたが、竜騎士が降りてくると彼らは着陸地点を開ける。
いっそのこと空中船を呼んで士気をもう一度挫いた方がいいと思うんだが。エルに必要ないって言われちゃった。
「一体、何事だ!」
「でっ、殿下! 初心者狩りの賊です!!」
飛竜にて降りてきたのは見知った人達だった。
今帝都にて立太子式を行っているはずのサミラス殿下と、先のバルバドスとの戦いで一緒に戦った人達だ。
なるほど。確かに援軍は要らないね。
「ほう。初心者狩りか。後ろの者達は?」
「捕らわれた近衛兵と賊の仲間です!」
一番偉そうな騎士は泡を吹いて倒れたままだが、他にも小賢しい奴が居るらしい。
有ること無いこと自分達の作り上げたストーリーを真顔で語ってる。嘘をつくのは得意みたいだね。
「クッ……ハッハッハッ!」
「殿下……?」
オレ達の後ろの初心者の皆さんは何故か賊扱いされた事に不安でいっぱいの表情をしているが、サミラス殿下が降りて来た事で生まれた緊張感をサミラス殿下自身がぶち壊した。
笑いを堪えきれないようで笑いだしたサミラス殿下に、兵達も初心者のみんなもポカーンとしちゃった。普通に考えたらそんな場合じゃないからね。
「殿下。お気持ちは察しますが、その辺で」
「すまぬ。あまりに面白くてな」
「面白い?」
笑いが止まらないサミラス殿下に窘めるように声をかけたのは、確か新たに近衛兵の将軍になった人だったはず。
嘘の報告をしていた者達は、理解できない表情で困惑しているよ。
「まさか救国の勇者の仲間が賊になるとはな。あまりに面白くてな」
「救国の……勇者?」
「知らぬのか? 不肖の兄の起こした事件のこと。勇者は帝都で父上を救い、仲間は私と共に邪竜を討伐した空の勇者の仲間だぞ」
困惑していた人達の表情が一気に変わった。
初心者のみなさんや少年少女のパーティは信じられない表情でオレ達を見つめ、敵対していた兵達も同じく大半は信じられない表情をしてる。
ただし絶望の表情を見せてる人達もちらほらと居るね。
「エル」
「はい。把握しました」
誰が驚き誰が絶望したのか、エルに覚えておいてもらわないと。
「さて、報告を受けた以上は勇者殿の仲間といえど捕らえて詮議せねばならるまいな。まさか帝国の臣下を疑う訳にはいかないからね」
「でっ……殿下!!」
「もし仮にだ。救国の勇者殿の仲間に無実の罪を着せたとしたら責任は果てしなく重い。しかし栄誉ある帝国の臣下がそのような事はしないと私は信じている。賊を捕らえよ」
驚きと絶望が支配する中、サミラス殿下は報告をした兵達を信じると優しい笑みを浮かべて語りかけてる。
というか意地が悪いね。死刑宣告してるのと変わらないじゃんか。
「どうした? 確固たる証拠があり賊だと判断したのであろう? 捕らえろ。それとも私に逆らう気か?」
笑みを浮かべていたサミラス殿下は厳しい表情に変わると、オレ達を捕らえろと厳命するが兵達は誰も動かなかった。
いや。動けないんだろうね。馬鹿じゃないなら状況を理解してるはずだ。
「どうやらここには私に従う者は居ないらしい。将軍。賊達を捕らえよ」
「よろしいのですか?」
「白黒はっきりせねばなるまい」
「ハッ!」
結局、オレ達は捕まるのね。
でもさ。大人しく捕まってあげる義理はない気もする。
「アレックス殿。申し訳ないが同行して下され。話は某が伺います故に」
このまま暴れちゃおうか? 真偽より国や貴族の体裁を気にするのは少し残念だ。
まあ捕まっても、すぐに釈放されるんだろうけどさ。
帝国に貸しはあっても借りはないはず。
さてどうしようか。




