平和な島と不穏な影
「次はミリーが鬼だからな!」
「すぐに見付けてやるのじゃ!」
島に戻り一週間が過ぎた。
ミレーユ様が帝国のお姫様だという事実やオレ達が帝国の御家騒動に関わった事実は、一緒に帝国に行った新婚さんと家族から島のみんなに知られていた。
特に口止めはしなかったしね。
島のみんなの反応は意外に普通だった。異邦人であるオレ達ならば何をしてもあまり不思議じゃないというか、お伽噺に出てくる勇者や建国の英雄を重ねて尊敬や憧れてる節がある。
正直なところお伽噺と一緒にされても困るんだけどね。
ミレーユ様の方はクリスティーナ様と一緒に居て、本当の姉妹のように仲良くなっていたこともあり、島のみんなともすぐに仲良くなった。
今まで同年代の友達が居なかっただけに、島の子供達と一緒になって遊ぶ姿は年相応の姿であり微笑ましい。
「それにしても、帝国まで救ってしまうとはのう」
「うーん。流されるままというのが、本当のところなんですよ」
「真実などそんなモノじゃよ。ワシとて好きで将軍になった訳でも英霊になった訳でもない」
オレ達が島を離れていたのは半月にも満たない期間だったけど、その間に伯爵様はすっかり隠居したお爺ちゃんのような、のんびりした生活をしていたみたい。
島のみんなと一緒に今も続く島の村の建築をしたり、農作業をしたりしてるようだ。
異邦人として勇者や英雄と同じように見ている人達が居る一方で、伯爵様はオレの心情を一番理解してくれている。
それほど付き合いが長い訳ではないんだけどね。苦労をした人は流石に違うと感じるよ。
「オルボアのことどう思います?」
「白か黒かと言うならば、黒であろう。オルボアにとって帝国は目の上のたんこぶじゃからの。帝国を分裂させれば漁夫の利を得られよう」
「漁夫の利ですか」
「帝国の実態がどうかは知らぬが、周辺の国にとって帝国は脅威じゃからの。皇帝はともかく貴族の中には、他国の貴族を見下すような者も多いと聞く。周辺に影響するほどの内乱は困るが、適度に争い分裂してくれればと考える国は、他にいくらでもあろう」
ワイマール王国に続き帝国でも何か工作をしてた、オルボアの狙いが未だに分からない。
ただ帝国に関して言えば伯爵様の言うように、周辺の国からすると脅威であり、オルボアでなくとも帝国の分裂を願う人は居るかもしれないのか。
これはもっと諜報活動の範囲を広げないと、思わぬ落とし穴に嵌まりそうな気もする。
「そう言えば王国の方でも王家に従わぬ貴族に対して、武力での鎮圧を始めたとか」
「陛下は穏便に済まそうとしたのじゃがな。一度亀裂が入った関係を修復するのは容易ではないからの」
それと伯爵様の祖国のワイマール王国でも、元第一王子派の複数の貴族がオルボアの密かな援助を受けて、反旗を翻したまま内戦に突入していた。
ジョニーさんが様子を見に行くらしいけど、これってもしかして帝国でバルバドス皇子が勝って、帝国が分裂してたら大変なことになってたんじゃあ。
やはり対オルボア討伐計画を、本当に検討するべき時なのかもしれない。




