新しい町とくれば……
国境沿いの町にたどり着いたのは翌日の夕方だった。
見たこともない空中船が来たということで、軍に警戒されたのは仕方ないことなんだろう。
マルク君とイースター商会の人達が勇者の船だと説明すると、今度は物珍しさも相まって多くの兵士や住人に、輸送機を物珍しげに見られていたが。
「ここはケルンの町です。オルボア公国との国境沿いの町で軍の駐屯地もあります。国境には砦がありますが、元々帝国から独立した国なので国境警備は一番手薄ですね」
荷物を降ろす作業を見守りながら、マルク君にこの町の説明をしてもらってるけど。小さな田舎町に不釣り合いな数の軍が現在は居るらしく少し異様な光景だ。
「勇者殿は、何処に行っても人気じゃのう」
ああ、ジョニーさんはこの町でも有名人だった。ここには来たことはないらしいけど、オルボアの周辺国で暴れまわったことで噂が伝わってるみたい。
町の住人や一般の兵士から将校に至るまで、ジョニーさんの周りに集まってるよ。まあジョニーさんのことは死神さんに任せとこう。
マルク君は帰りに運ぶ荷物の買い付けに行くみたいだから、オレ達は少し町の観光をすることにした。
「よくわからない物があるわね~」
まあ観光と言っても、特に見るべき物がある訳じゃない。帝都ならばともかく、この惑星の人は観光なんてする習慣はないからね。
何か掘り出し物でもないかなと、露店市場をみんなで歩いて見る。国境沿いの町だけあって、オルボアやその向こうの国の物もあるみたいで結構楽しい。
ロボとブランカは流石に首輪とリードで繋いでいて、クリスお嬢様とミリーお嬢様がリードを持ってる。二匹とも結構賢いから勝手な行動しないけど、人によっては怖がるからね。
帝都に居るときから町の中では、リードで繋いでることにしてる。
「へへへ。姉ちゃん達。見ねえ顔だな。ちょっと付き合えよ」
美味しそうな果物があったので買って露店市場を歩いてると、なんと世紀末の世界が似合いそうな五人の輩に絡まれちゃった。
困ったな。こういうのジョニーさんの役目なのに居ないや。よく考えたら一番弱そうだって言われた、オレ一人しか男は居ないんだよね。絶好のカモが来たと思われたか。
「貴方達。臭いわよ。アレックス、やっちゃいなさい!」
「私がやるんですか?」
「何事も経験よ! 貴方いつも見てるだけじゃないの」
どうせジュリア一人に、余裕で倒されるのにと他人事のように見てたら、クリスお嬢様に指名されちゃったよ。
いや、オレこういうの苦手なんだけど。それにジュリアさんや。いつもは嬉々として真っ先に叩きのめすのに、何でニヤニヤと見てるんですか?
「ガハハ、坊っちゃん。女を置いていけば見逃してやるぜ」
置いて行っても結果は変わらないんだけど、オレの信頼度と好感度はどん底まで落ちるよね。
しかもエルとケティまでも、見てるだけなのか。誰も心配してくれないのはちょっと悲しい。
「貴方達何者なんです?」
「オレ達はCランクの冒険者だぞ。飛竜の牙って言えば、この辺りじゃ知らねえ奴は居ねえ。分かったか? 分かったら、さっさと消えな」
今気づいたけど、この手の相手は倒すより話す方がめんどくさい。ジョニーさんが面倒そうにしていた理由が、分かった気がする。
「あんまり手加減出来ませんよ。慣れてないので」
「おいおい、やる気か? 格好つけたいだけなら止めときな」
「忙しいんです。やるなら早くしてください」
もう話するの嫌だ。流石に町中でレーザーガンは不味いよね。 正直、喧嘩ってしたことないんだけど。
「テメエ!」
輩が殴りかかって来たので避けて殴り返す。元々生体強化してるし、これでも最低限の護身術は睡眠学習で習得してるんだよね。
あっ。力加減間違えたかも。殴ったやつ吹き飛んで動かなくなった。
意外に難しいなぁ。急所蹴りならこの前やったんだけど。
「やっぱりセンスないね」
「そう思うなら助けてくれよ。加減が分からなかったんだから」
「一応全員生きてるし問題ないよ。それにクリスの言う通り、経験が必要だね」
波瀾? そんなのないよ。力加減が分からなくて殺しかけたけどさ。
頑張ったのに、ジュリアにはセンスないって言われるし。
倒した輩? その場に放置して終わりだよ。
ロボとブランカが止めを刺そうとしたのは止めたけど。
周りで見ていた野次馬の人達も誰も助けてくれないし。逆に放置した輩を助ける人も居ない。
ジョニーさん。よくこんな人達を助ける気になるよね。




