空の旅
のんびりとした空の旅は二日目に入っていた。
帝都からオルボアとの国境近くの軍の駐屯地までは、帝国の一般的な空中船で片道三日はかかるらしい。うちの輸送機なら日帰りが楽勝なんだけどね。
ただ馬車とかで地上を運べば、例によって舗装もされてなければ川に橋もないので、その十倍以上の日数は軽くかかるのだとか。
帝国が地球でいうローマ帝国のような広大な領土を維持出来るのは、この空中船が原因だろうね。
「魔物が出ぬのう」
「本当ね」
中の人は気付かないだろうけど、輸送機は光学迷彩バリアを展開して魔物を避けながら飛んでいるので、魔物とは出くわさないんだよね。
ミリーお嬢様とクリスお嬢様の二人にロボとブランカは、揃って窓から外を眺めながら少しつまらなそうにしてるけど、輸送機は武装してないから魔物はダメなんだよ?
ちなみにこの輸送機は旅客機ではないから、機内はよくある旅客機のような感じではない。
あくまでも荷物や人を運ぶ輸送機だけど、使用目的がオレとアンドロイドの移動に使うくらいなので、快適性を優先した機内にしてる。
普通の家にあるようなソファーとか置いてある、ちょっとしたホテルのような部屋になってるし、狭いけどお風呂とか個室の寝室もある。
「何作ってるの?」
「お昼ご飯ですよ」
ジョニーさんは暇なのが好きじゃないのか、シューティングスターで少し周りを見てくると出掛けてしまった。
オレは少し前からお昼はうどんにしようと、出汁を取りつつうどんの麺を打ってる。
プロ並とはいかないけど、独り暮らしで暇だった時によく手打ちうどん作ってたんだよね。
隙をもて余した二人と二匹に興味深げに見守られながら、うどんの生地を打っていく。
「ジョニーさん。また血生臭いおみやげですね」
「おう! 襲われてた旅人助けたんだよ」
お昼になるとジョニーさんも戻ってきて昼食にするんだけど、おみやげに大きな羊の魔物を持ち帰って来たよ。
全く、この人はちょっと目を離すと妙なフラグを立てて来るんだから。
「相手は女ね?」
「いや……、商人だ」
「ジョニー。後でゆっくり話し合おうじゃないか」
ほら死神さんが、ロールプレイ入っちゃったじゃないか。
でも時間的に助けただけだと思うよと、フォローすべきだろうか。
うん。止めておこう。オレが口を挟んでいい結果になる気がしない。
「勇者ってのは、女を引き寄せるフェロモンでもあるのかねぇ」
「フェロモンとは何か分かりませんが、勇者様ならば当然モテますよ。基本的に強い男とお金持ちの男はモテますから」
「見た目次第じゃないのかい?」
「いえ、見た目はあまり関係ないかと。もちろん見た目がいい方が更にモテますけど。ジョニー様でしたら放っておく方が少数派かと」
今気づいたけどオレとジョニーさんの周りって、女性の比率高いよね。ガールズトークみたいな会話をされると肩身が狭い。
マルク君に至ってはいつの間にか気配を消してるし。気遣いばかりか危機管理も出来るのか。
でもオレとマルク君は関係ないよね? 勇者じゃないし。
「二人も同じ」
「そうですね。マルク様ですと大商会の跡取りですし、アレックス様も裕福そうな雰囲気がにじみ出てますから」
「勇者様より危ないでしょう。勇者様は手の届かぬ御方。諦めもつきますが。お二人はこう申しては失礼かもしれませんが、手が届きそうですから」
あっ、こら。ケティ。こっちに矛先を向けるんじゃない。
それから侍女さん達。まるでオレとマルク君も悪いみたいな雰囲気で語らないで。
本当この惑星の女の人って、肉食女子というか何というか。
「このうどんという麺は美味しいのじゃ!」
「ええ。お代わりもありますから」
助けは意外なところから来た。年齢的に色恋沙汰や結婚を今一つ実感持てないミリーお嬢様が、一人で美味しそうにうどんを食べながら話を変えてくれた!
削りたての鰹節とさば節と昆布から取った出汁を、薄口醤油で味付けした自慢の逸品なんだよ。
少し細目に切ったうどんの小麦の味につゆの味が絡むと、本当に日本の味になる。
コシのあるうどんをズルズルとすすり、深みのあるつゆをゴクリと飲むと至福の一時だ。
今日の決めては海竜の天ぷらなんだよ。からっと揚げた海竜の天ぷらをつゆに浸して食べると、もう最高だ!
何となく冷たい視線を感じる気もするけど、気のせいだよね。
こんなに美味しいうどんなんだから。




