遥か南の地にて
side・???
「ミレーユのことは私もほとんど知りませんよ。将軍」
「そうですか。バルバトス様は未だミレーユ様を探し出して始末しろと命じるだけで、兵達が困っております」
「それも私に言われても困ります。私はここで南方総督を勤めるしか出来ぬ男。中央の問題を持ち込まないでください」
全く。兄上は一体何をしてるんだ? 亜人だからとそんなに嫌わないでもいいのに。
それに嫌ならダークエルフの自治領の総督にでもして、辺境に置けばいいじゃないか。
おかげで私のところに有力貴族達が来て、私を兄上の代わりに担げるか探りを入れてくる。
貴族と言うのは案外弱いものだと、あの自信過剰な兄上では気付かないのかな。
幼い妹を殺そうとするということは、いつその刃が自分達に向けられるか分からないと貴族は考えるんだ。誰も付いていかなくなるだけなのに。
「殿下。せめて陛下のお見舞いに行って、様子を見て来て頂けないでしょうか?」
「将軍。貴方には世話になったから言いますが、私は皇帝になどなりたくありません。今帝都に行けば兄上と対立しかねないのは、貴方ならよく御存知のはず」
「殿下。ここだけの話ですが、オルボアがかなりキナ臭いのです。こちらの調査では帝国貴族の一部が、オルボアと繋がっている可能性が」
元々父上は、ミレーユを人前に出したがらなかった。
理由は知らないし、若いままのダークエルフに骨抜きにされたと、皇宮では噂になっていた。そんな折りに兄上を皇太子にしないと言い出して、将来はミレーユに継がせるとまで言い出したんだから、周りが怒ったのも仕方ないと思う。
聡明なマリオン殿を見てれば、ダークエルフでも皇帝になれる器はある気もするけど。根回しも何もせずに兄上を失格だと言ったのは、父上のミスだ。
兄上の問題点は周りも理解していたけど、生憎と私を含めて皇帝の座に意欲があったのは、兄上以外は居なかった。
どうせ皇帝になったところで、あの皇宮で鳥籠の中の鳥のように生涯を終えるならば、適当な地位で自由に暮らした方が楽なのは考えるまでもない。
兄上はミレーユの何を恐れているんだ? まさか聖女や勇者の称号でも持ってるのか?
愚かな兄上だ。自分の存在を地位でしか見られない男。
くれてやればいいのに。皇帝の地位など。
「将軍。ミレーユは貴方が匿っているのですか?」
「違います。確かに見つけたら匿うつもりですが。バルバトス様の子飼いの連中以外は、みんな殺したくなどありませぬよ。帝国の歴史に残る、暴挙になるやもしれぬのに」
「将軍。気持ちは分かりますが、今動けば、私も殺されるかもしれない。今しばらく事態を見守るしかないですよ」
あの小さな妹が侍女と二人で、どうやって追跡の目から逃れてるのだろうか?
誰かが匿っている可能性は高いが。それを考えると見つけるのは至難の技だろう。
せめて私を頼ってくれれば、兄上に妥協を促すくらいはしてもいいが。ミレーユも居ない、事情も知らぬまま動くのは危険すぎる。
一応他の兄弟に連絡して、軽はずみなことをしないように釘を刺すか。
父上は嘆くかもしれない。しかし私は帝国の将来よりも、兄弟や姉妹で殺し合うのを見たくない。
本当はこういう時に相談に乗って欲しいのは、マリオン殿なんだよね。
あの人は、人にはない不思議な何かがあった。
兄上に一方的に帝位争いのライバルだと見られて迷惑していた私に、南方総督に就任することを口実に皇宮を出てはどうかと、助言してくれたのは実は彼女なんだよね。
助けてやりたいけど皇帝に担がれるのも、兄上に恨まれるのも御免なんだよね。
どのみち兄上はもう終わりだろうけど。
仮に父上が亡くなっても誰も兄上に付いていかないだろう。
皇帝になれても貴族達にそっぽを向かれては、何も出来ぬまま本当の御輿にされかねない。
はてさて、どうしようかね。




