皇帝とジョニー
「そんじゃ、行くか」
「本当にいいんですか。ジュリア達は潜入も得意ですよ」
「元々お嬢ちゃんを助けたのはオレだからな。やれることはオレがやるさ。それに素性がはっきりしている方が、話が早いだろ?」
ロボとブランカの初戦闘から二日ほどしたこの日、ジョニーさんはいよいよ皇宮に潜入することになった。
正直潜入ならばジュリアに頼んだ方が確実なんだけど、素性がはっきりしている自分の方がいいと、ジョニーさんが自ら志願した。
正論ではあるけど今回は問題の着地点が未だ見えてなく、皇帝が何処まで信用出来るか、未知数な部分がまだあるんだよね。
「もし不測の事態があれば、無理はしないで下さい。支援の準備は出来てますから」
「おう。頼むぜ」
今回はとりあえず皇帝とミレーユ様の母親に会わないと、これ以上は話にならない。
ミレーユ様は母親を救出したら、何処かで静かに暮らせればいいと考えてるようだけど。そう単純な問題じゃない。
現状で帝都の上空の遥か大気圏外には支援の為の艦隊を呼んだし、戦闘部のアンドロイドも密かに帝都入りさせた。
エルいわくそこまで心配する状況ではないが、準備だけはしている。
ただ図書館の調査は難航していて、まだ時間が掛かりそうだから先に皇帝と母親に接触することにしたんだ。
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side・ジョニー
街に出たオレは慎重に見張りや尾行者が居ないのを確認して、皇宮が見える位置まで辿り着いた。
ここからはさっき渡された、改良型光学迷彩発生機にスイッチを入れるか。
元々はギャラクシー・オブ・プラネットにあった潜入七つ道具の一つだが、こいつは改良してあってこの世界にある魔力を遮断して、皇宮の魔法障壁を中和する代物なんだとか。
よくこの短期間でこんなもの作ったよな。
伊達にアンドロイド百二十体と要塞持ってねえってことか。
ひたすら身を隠して人知れず力を貯めて居ながら、準備だけは怠らないと。本当敵に回すと厄介なタイプだな。あいつら。
しかも今回は潜入経路から見張りの位置に、罠の場所まで丁寧に調べてくれちゃって。
これが分かれば誰でも潜入出来るわ。
それにしても皇宮だって言うのに人が居ねえな。
まあ皇帝を軟禁してる場所に人は置けねえか。
「ようこそ。強き光を持つ者よ」
ミレーユのお袋さんは常に皇帝の寝室で世話してるって言うから、皇帝の寝室まで入り込んだが、姿を見せる前に見つかっちまったじゃねえか。
「悪いな。ノックもしなくてよ」
「何者だ?」
「オレはジョニー。外じゃ空の勇者なんて、過ぎたアダ名で呼ばれてる。あんたらがいう異邦人ってやつだな」
そこに居たのは見る者を魅了するような褐色の二十代くらいの女と、身体は弱ってそうだが強い目をしたじいさんだ。
こいつらが目的の二人で間違いねえな。
「勇者殿。ミレーユは元気にしておるか?」
「……何故オレが嬢ちゃんを知ってると分かるんだ? こんな何もねえとこで軟禁されてる、あんたらが」
「そこにいるマリオンはミレーユの母親だ。マリオンは人にはわからぬモノを感じる不思議な力がある」
「へー。そうかい」
「強き光を持つ者よ。私はまだ共に行けません。帝国を守らねば、世界は滅びに向かってしまいます」
美人のお袋さん、オカルト女見てえだな。
地球だと相手にしたくないタイプだが、嘘には思えねえ。
「この状況になる前に、なんとかならなかったのか?」
「人には定めがあります。私と陛下にはこうするより他に、道はありませんでした」
「それでオレに何を望む。第一皇子とやらを倒せとでも?」
「それはワシがやらねばなるまい」
「陛下の身体は回復魔法も効かぬ、呪いが掛けられています。どうか呪いを解く力を貸して下さい」
今度は呪いかよ。明らかに厄介なことになるな。
アレックスにまた困った顔をされる。
「分かった。悪いが髪の毛何本かくれ。呪いとやらを調べるからよ。あと嬢ちゃんはどうする?」
「ミレーユはしばらくお願いします。貴方達の元が一番安全なのです」
「分かったぜ。じゃあ今日は帰るわ」
呪いか。確か事前の調査でも皇帝の病は不自然だと言ってたな。
高度な回復魔法があれば大抵の病は治るらしいのに、帝国の皇帝が寝込むのはおかしいからな。
やれやれ。呪いが相手だとオレには、どうしようもねえじゃねえか。




