蠢くモノ
side・皇帝
「バルバドス。貴様という男は……」
「そこに居る穢らわしい亜人の子に、神聖な帝位を継がせるという父上がいけないのですよ。兄弟達も貴族も私を支持してくれております」
「覇王現れる時に世が乱れる。初代様の遺言を貴様は破る気か?」
「ふん! 元はといえば父上が穢らわしい亜人などを、側室にしたのが間違いなのです。責任は父上にあります」
「貴様は知らんのだ。初代様の遺言の全てを。我が帝国の繁栄の秘密を」
「そんなものが無くても、帝国はすでに世界最強です。直に世界の全てが帝国に跪くでしょう」
「ならば好きにするがいい。だがワシは貴様に帝位だけは渡さん」
「どうぞお好きに」
我が息子ながら愚かな男だ。
学問も剣も魔法も全てにおいて優秀なのが、バルバドスの傲りに繋がったか。
皇帝たる者は自らの才を誇示する必要などないのだ。
初代様が人生を賭けて築き上げ、歴代皇帝が命を賭けて守り抜いた帝国をワシはワシは……。
「陛下。ミレーユが必ず希望をもたらしてくれます。今しばらくのご辛抱を」
「残念だがバルバドスの追っ手から、逃げ切るだけでも難しかろう」
すでに帝国の実権は大半がバルバドスに奪われた。
身体が動かぬワシの世話をしてくれるのが、ミレーユの母のマリオンだけとは。
ワシは皇帝失格だな。
だが皇帝の署名が無くば出来ぬ重要事項だけは、未だにワシに決裁が回ってくる。
初代様が神と誓約したことにより決められたことゆえ、バルバドスにも手が出せぬのが幸いであったが。
帝国内でも一部の者しか知らぬことだが、皇帝は邪な者から帝国と帝位を守るために、神に誓いを立てていてその加護がある。
今のワシとマリオンを守るのはその加護でしかない。
だが帝宮を離れたミレーユにはその加護が届かぬ。
「いえ。あの子は天運を持っています。必ずや希望を陛下にもたらしてくれましょう」
「マリオンよ。すまぬな」
「今しばらくの辛抱ですよ。陛下。私には感じられます。ミレーユが生きていることを。大いなる光と共にあることを」
マリオンは初めて会った時から不思議な女だった。
歳だけは未だに分からぬが、初めて会った時からワシはマリオンと共に生きるべきだと何故か確信していた。
ワシが悩むとその都度、希望を見せてくれたのはマリオンなのだ。
娘のミレーユを帝宮から出すのをワシは反対した。
だがマリオンはミレーユは出さねばならないと、逃げるように言い出してしまった。
それがバルバドスの罠と知りながら。
帝国はもう……
せむてミレーユとマリオンだけでも……
神よ。




