ドワーフのハンスさん
「こいつは便利だな。広まれば建築が変わるぜ」
「今のところ広める気はないんですよ」
島には一人だけドワーフが居る。
小柄な体型に髭を生やしたザ・ドワーフという容姿の彼は、名をハンスという。
本業は鍛冶らしいが、元々何処かの田舎の村で暮らしていたらしく、木工から建築まで一通り出来るみたい。
そのハンスが目を付けたのはコンクリートだった。
意外というかワイマール王国とその周辺には、どうやらコンクリートはないらしい。
教会の建設現場において強度を上げるために、石造りの一部を鉄筋コンクリートにしたらその技術に食いついたんだよね。
「何でだ?」
「責任が取れないことは、なるべくしたくないんです」
「責任ってのは悪用した奴が取るべきだ。善意で技術を広めた奴に責任なんてねえよ」
「世の中の人がみんな、ハンスさんみたいな人ならいいんですけどね。この世界に来た異邦人がしたことは、必ずしも良い結果をもたらしたとは限りませんし」
魔物に襲われる危険が日常にあるこの惑星において、建物の強度を上げる技術は何物にも替えがたいものがあるらしい。
大きな石造りの建物を造れない地域でも、コンクリートならば今の木材やレンガより強い建物が造れるのは確かだろう。
「気にしすぎだと思うがな。そんなこと言ってたら何にも出来んぞ?」
「世の中に影響を与えるのが怖いんですよ。元々小市民でしたから」
ハンスさんも別に絶対広めろと言ってる訳じゃないんだけど、広まれば多くの人が助かると考えるみたい。
「まあ、気持ちは分からなくもねえがな。オレも元々は帝国にあるドワーフ領で、それなりに有名な鍛冶屋だったんだがよ。だがろくに武器も使えねえ貴族どもが、強い武器を作れって煩くてな。嫌になって旅に出て今に至るしよ」
「そんなことがあったんですか」
「オレの正体を知ると、みんな武器を作れって言いやがるんだ。それが嫌で木工職人のふりして旅をしてたくらいだからな」
教会の建設のデザインやなんかは村人達に任せていて、具体的な形にしたのはハンスさんと、島を任せていたアンドロイドのリンリンだ。
かなり優秀な人だとは聞いていたけど、貴族が押し掛けるということは思った以上に優秀な人みたい。
「だがここじゃあ、オレは下っぱだからな。楽しくて仕方ねえ。お前さん達のあの空中船なんか、特にどうすりゃ作れるんだと眺めてるだけで楽しい」
「あれは流石にねえ」
「似たもんは昔、帝国で見たがな。あれも凄かった」
「似たものというのは形ですか?」
「いや、技術的にだ。均一に整形された金属で出来た車を見たことがある。戦車とか呼んでたな」
「……その話詳しく聞かせて頂いて構いませんか?」
「別にいいが、詳しく知らねえぞ。何でもどっかの遺跡から出てきたものらしくてな。帝国の魔導研究所で分析した際に、頼まれてちょっと見ただけだからよ」
ハンスさんは何故かうちの飛行機や空中艦が気に入り、休みの日とか暇があれば眺めてる人だったんだけど。
何気なく話をしていたらとんでもない情報が出てきた。
「動力はよく分からんと言ってた。武器は大砲の類いらしい。だが所詮は遺跡から出てきた、骨董品だからな。動かねえしバラしたら、訳わかんなくなったんだと。金属は一部には鉄が使われてたが、後は何かの合金でな。オレも見た程度だから正確には分からんかった。多分ミスリルの合金だとは思うがな」
帝国の魔導研究所か。
少し調査させる必要があるな。
「ありがとうございます。お礼に後で酒を届けますよ」
「本当か? じゃあ、あの芋焼酎っての頼むぜ」
「ええ。任せてください」
ドワーフが酒好きだというのは本当だったんだよね。
ハンスさんの場合は何種類かあげたけど、芋焼酎が何故かお気に入りらしい。
ただ戦車が過去にあったとは。
ジョニーさんも遺跡で嫌な予感がするって言ってたし、調べてみる価値はあるかね。




