村長と島のこれから
島でのオレの家は、伯爵様とお隣同士のちょっと大きな屋敷だった。
この惑星の貴族程大きくはないが、地球でいう海外の豪邸をイメージしたら分かりやすいだろう。
実はそれなりに広い屋敷を三つ建てたが、人が入ったのは伯爵様とオレ達だけ。
みんな遠慮したのもあるだろうが、あまり大きな屋敷は落ち着かないのだろう。
正直オレももう少し小さい家でいいと思ったんだけど、余ってるのが大きな屋敷だったんだよね。
ちなみに湧き水が豊富な泉から水道は各家庭に引いてる。
ただ元々は擬装の町にする予定だったので電気は引いてなく、調理器や明かりは魔石をエネルギー源とするマジックアイテムを急遽仕入れて各家庭に設置した。
魔石はヴェネーゼとの交易をしてれば比較的安価で手にはいるので、この惑星の人にとって未知の技術の電気よりは親しみやすいだろうという判断だ。
家具なんかは持ってきた物以外はまだないが、この惑星の人達は逞しいので森を切り開いた木材を使って、移住者の中に居た木工職人が木が乾き次第作るらしい。
「名ばかりの司令官から、名ばかりの村長になったのは昇格か降格かな?」
「この場合兼任と捉えるべきだと思いますよ」
それとオレは何故か村の村長にされた。
伯爵様でいいんじゃないかとオレは言ったが、伯爵様からは隠居した老人よりは若い者がやった方がいいと言われた。
元々島を開拓したのもオレ達なんで、妥当と言えば妥当なんだけど。
ただ元々故郷を離れても伯爵様に付いてきた人達なんで、伯爵様の方がいいと思うんだけどね。
「じゃあ週に一日は休養日を作ろうか」
「いいと思います。あまり気を張り過ぎるのは、良くないですから」
「まあ畑の水やりとか完全に休めないけど。あと酒場も作ろう。ビリヤードとかダーツとかトランプはあるの?」
「王都や帝国にはあるようです。過去の異邦人が広めたのでしょう」
「じゃあ酒場と遊技場を作るか。あとは村のみんなに要望を聞いてみよう」
まあ決まった以上は文句はないから少しは働かないと。
まずはワイマール王国では基本的に、元日や収穫祭などの祭りに建国の日以外は休日がないらしいので休日を作ろう。
過去の異邦人が広めなかった理由は分からないけど、多分生存競争が厳しい世界だから普及しなかったのかと思う。
あと酒場と遊技場も作りたい。
今は移住してきたばかりだからいいけど、酒場は小さな村にもあったしね。
パンとサーカスじゃないけど息抜きの酒場や遊技場は必要だろう。
「入居予定のない屋敷ですが、改築して宿屋にしましょうか?」
「いいけど外部からお客さん来るの?」
「ヴェネーゼのボルトンさんが、一度来たいと言ってるようです。島に来るまでは危険ですけど、周辺は優良な漁場ですから」
「そうだな。いんじゃないか? 宿屋と酒場と教会って揃えば、本当小さな町みたいになるなぁ」
「今後も人が増える想定はするべきでしょう」
本当は人が住む村にする気なかったんだけどな。
なんとなく秘密基地の感覚で作った村が役に立つとは。
すでに建設してる教会に温泉浴場。
新たに建設するのは酒場と遊技場と宿屋とくれば本当小さな町になる。
温暖な島だし定期船でも走らせたら、案外観光客が来る島になるかもしれないね。
新しい家でエルとお茶を飲みながら、島の未来を考えてるこの時間がオレには一番楽しい。
地味なシミュレーションとか好きだったんだよね。昔から。




