伯爵様。宇宙を知る
「そう言えばジョニーさんって、まさかオルボアに見張られてるの?」
「いえ。シューティングスター号のスピードでは、低速ですら風竜でも無ければ付いていけませんから。実は当初は貴重な竜騎士を追跡に使ったようですが、ジョニーさんが話しかけようとしたら、攻撃をされたので撃墜してます。二度ほど撃墜したら諦めたようですね」
「その割には情報が早いような」
「あの辺りは村が少なくての。砂漠のオアシスがある場所くらいにしかない。夜には村に立ち寄るならば、冒険者に紛れさせた密偵でも配置して置けば情報はすぐ入るじゃろう。通信用に調教された鳥の魔物が何処の国にもおるでの」
「それじゃあ、ジョニーさんの動きはそれなりに掴まれていると?」
「恐らくは元々オルボアは、周辺国に諜報網を構築していたのではと思う。昨日のような不思議な形の空中船で、隠れずに飛び回っていれば尚更目立つしの。君たちの偵察機とやらには敵わぬが、最低限の動きくらいは掴めると考えた方が良かろう」
伯爵様はやはり有能というか、この惑星のことや人々をよく知っている。
オレ達のような基本的な価値観の違う、異世界から来た人間ではない伯爵様の意見は貴重だな。
「ジョニーさんを一度呼び戻した方がいいかな?」
「いや。当面はダンジョンを隠しつつ、その御仁には好きに動いて貰った方がいいの。人は隠れると探したくなるもんじゃ。目立つ御仁のようじゃし、下手に姿が見えなくなると不安になり探すかもしれん。あちこち探されて砂漠のダンジョンが見つかるだけじゃよ」
オルボアは油断ならない国なのを再認識したオレは、ジョニーさんに戻って来てもらうかと悩むが、伯爵様に止められた。
「ではダンジョンの入り口を擬装する部隊を派遣します」
「それがいいの。オルボアはどのみちまた動く。関わるかどうかは別にしてしばらくは様子を見た方が良かろう」
オレみたいな形だけの指揮官と違って本物は違うな。
伯爵様に弟子入りして指揮官として鍛えてもらおうか。
この先判断ミスは許されない場面が来るかもしれない。
ただそう考えると、情けは人の為ならずとは良く言ったもんだと思うよ。
本物の戦場の経験も人を指揮した経験もオレにはない。
守るべき人達の為にも、オレは変わらなきゃならないんだって思う。
「これは何じゃ?」
「ああ。それは宇宙に上がるシャトルです。えーと、星が丸いのはご存知ですか?」
「うむ。昔の偉大な賢者が、星は丸いと言っておったな。信じてない者も多いがの」
「私達はその星の外の宇宙に、とてつもなく大きな乗り物で、異なる世界から飛ばされて来たんです」
「……すまん。分かったような分からんような。どこまでも空高く行けば何があるんじゃ?」
「宇宙という星が無数にある別の世界があります」
「さっきも言うておった賢者が、いろいろ書物を遺してな。それに宇宙と言う言葉があったはずじゃが、あれは学者でも理解出来ん代物でな。ワシも昔一度だけ、パラパラと捲ったことしかないんじゃ」
ジョニーさんの件が一段落したので地下の区域を案内していく。
北部にある秘匿ドックと宇宙港は八割方完成していた。
宇宙との連絡用のシャトルが伯爵様は気になったようなので、ついでにオレ達の素性を話すが今一つ理解が追い付かないらしい。
どうも過去には異邦人か現地人か知らないが、科学的知識のあった賢者がいたという新たな情報がもたらされる。
しかし伯爵様の価値観では理解するのは大変らしいので、もしかしたら見せた方が早いかもしれない。
「夜に見える月に私達は行けるのですよ」
「なんと! 月に行けるのか!」
「はい。他にも夜空に見える星のある場所まで行けます。流石に太陽は火山の中のような場所なので行けませんが」
「昔の魔法使いが魔法で飛んで、月まで行こうとして出来なかったと言われておる。凄いのう」
説明に困ったのでエルに任せたら、分りやすい例えで伯爵様を納得させてくれた。
初めから任せたら良かった。
 




