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最後のメッセージ

作者: kure

 人と人が出会う確率は、果たしてどの位なのだろうか。

 ふと、そんな事を考えた。

 調べてみると、今現在、世界の人口は約七十四億人。

 その中の一人と出会ったと言う事は、

 七十四億分の一を当てた――と言ってもいいのだろうか。


 七十四億分の一を引いた。


 七十四億分の一に行き当った。


 それを確率に、%にする術を私は知らない。

 例え知っていたとしても、実行はしないだろう。

 私は基本的にものぐさなのだ。


 そもそもどうしてそんな考えに至ったのかと言うと、パソコンにインストールされているインターネット通話サービス()に、こんなお知らせが表示されていたからだ。


『今日は○○さんの誕生日です』


 彼女と出会ったのは何時だったろうか、五年はゆうに越えていると思うが定かではない。

 だが、出会った場所は憶えている。

 当時、私が夢中になっていたオンラインゲームの中だった。

 どんな経緯で仲良くなったのかもやはり定かではないが、二人で通話をしながら共にゲームに興じる間柄であった事は間違いない。

 しかし、それ以上でも、それ以下でもなかった。


 住んでいる場所も遠かった為、実際に会って話した事はない。

 会おうと言う話になった事もあった。

 だが前述の通り、私は基本的にものぐさなのだ。


 だから、私は彼女の顔を知らない。勿論、逆も然り。

 当時交際していた女性に、あらぬ誤解を抱かれてパソコンを破壊されそうになった事もあったが――これは蛇足だろう。

 声を聞き、話しながら、ゲームの中で二人で遊ぶ。

 それ以上でも、それ以下でもなかった。


 そして、いつからだろうか。

 私は、彼女の声を聞くことはなくなった。

 ゲームの中でも、ツールの中でも、彼女の名前がオンラインになる事はなかった。

 多分寂しい想いもしたし、心配したとも思う。

 だが、私と彼女の繋がりは、インターネットの中で完結していた。

 如何することも出来なかった。

 そうして、時だけが過ぎていった。


 どんな事情があったのかは分からない。

 生活の変化でログインする機会を失ってしまったのか。

 それとも不慮の事故に遭って命を落としたのか。

 はたまた自ら命を絶ってしまったのか。

 分からないし、確認する方法もない。


 今日は彼女の誕生日らしい。

 通知が来なければ、憶える事すらないであろう特別な日。

 気が付くと、私はキーボードを叩いていた。

 多分、きっと、間違いなく。

 これからもログインしないであろう彼女に。


『誕生日おめでとう。私は貴女に出逢えて幸せでした』

 

 およそ五年ぶりに、届くはずもない最後のメッセージを贈った。

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