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Äpfel:2018-林檎

作者:Kazey motozerro
ある破滅的男子大学生の物語。
何とも言い難い悪い感情が私の心を終始押さえつけていた。焦燥というか嫌悪というか。甘い物を毎日摂り続けると終いに甘さを感じなくなる。そんな時期が来たのであった。大好きな音楽を聴いても、大好きな絵画やドラマを観ても何も感じなくなったのである。いや、それならまだマシである。居ても立っても居られなくなり、ライブ中に立ち去ることもある。ADHDだと精神科には言われた。

以前には嫌悪していた廃墟なるものが好きになった。都会の中でもさびれた場所に田舎を見出すことができた。都会に馴染めない私の心を癒してくれるオアシスのように感じていたのだった。

大学生には金が無い。私は特にそうである。20歳を迎えてから親には「これからはこのお金を元に経験を積め。」と100万円を渡されてそれから音信不通となっている。経済学部の学生である私は、自らを過信して投資にのめり込んだ。学びを重ね「私は神だ!私を中心に世界は回っている。」と何度もパーソナルコンピューターを前に叫んだことである。
しかし、「奢れるものは久しからず。」という言葉を私は忘れていた。私は神の才能の持ち主だと自負し過ぎてしまっていたのだ。失敗することなんてないと全額を投資に使い果たしてしまい、見事に敗北。「破産者で復権を得ない者」になってしまった。

少ない友人とシェアハウスをすることになった。勿論、友人には半ば冷たい目で見られている。最初から働けばよかったのだ。私は自分の自尊心が傷つく事を恐れて、アルバイトをする事を嫌に思っていたのだった。

そんなある日のこと。リンゴ農家でアルバイトをしていた私は、リンゴをたくさん持っていた。授業が終わり、本当は今日バイトをしにいく予定だったが、雨の為来なくて良いと言われた。
「たまには都会にも足を運んでやろう。」人が多くて元々嫌いであった都会だったが、何故か物凄く気が良かったので。都会に向かうことにした。
「都心に行くのか?」住まわせてもらっている友人に聞かれた。
「たまにはストレスにも耐えられないと良い人間にはならないからな。」自信に満ちた様子で言ったことを覚えている。
「お前一人だと何をするか分からねぇ。俺も行くで。」友人は一緒に都心に行くらしい。内心、これでは立派な人間にはならないではないかと思っていた。
「大丈夫だ。丸善で本でも見ようかと思っている。ついでにハヤシライスでも食べようじゃないか。」
「あのなぁ。高すぎるぜ。丸善のハヤシライスは。」
「高々、二千円もいかないくらいじゃないか。怯えるほどもない。」
「あのなぁ。金を払うのは俺だぜ。」

Suicaで改札を抜けて、地下鉄に乗り上野に向かう。相変わらず都会は人が多い。地下鉄も満員電車になりかけである。私には田舎暮らしが向いているのになぜ都会に行ったのだろうか。
アメ横などを見て回る。最初は商店街に行きたいという友人の日向の願いであった。商店街では色々なものが売られている。赤字覚悟の粋のいい掛け声も聞こえる。
「おう。そこの兄ちゃん。見てかねえか。」普通に声を掛けられただけでも、不良に絡まれたように感じてパニックになりそうであった。
私は神だと自称していても、都会という人ごみの中では無力だ。神という異質故、普通の人には気が付かないようなものに気を狂わせているのかもしれない。
ヨドバシカメラなども探索してみたが、一向に分からなくなっていった。電気屋の照明が、私を錯乱させて意識を遠のかせた。
私の狂いはとどまることを知らない。第二の自分、山月記の虎に姿を変化させた李徴子のように自分の意識下に置けない自分が姿を現そうとしていた。
意識があるうちに日向に言った。「日向、今まで世話ンなった。今から俺は旅に出る。遠い遠い島に向かってな。またいつか。金銀財宝を手にすることができたら戻ってきてやる。」と。
取り敢えず丸善だ。本屋に行けば都会アレルギーは収まるに違いない。本屋なんてどこも同じだ。
しかし、その考えが甘かった。丸善はあまりに広かった。私の知っている本屋のイメージを遥かに凌駕する広さであったのだ。カルチャーショックを受け、完璧に意識を失った。都会アレルギーの末路である。

白い天井。白い壁。白い女。どうやらここは病院のようだ。私は助かったようである。
「お目覚めになられましたか。」看護婦が言う。
「ここはずいぶんと白い建物だな。とにかく助かったぜ。」私は彼女に一礼して点滴を抜こうとした。
「駄目ですよ。よほど無理をしていたようで、パニック症候群を引き起こしていました。落ち着くまでこちらで入院となります。」これ以上精神的に狂っていくのは御免である。精神科に私の人生を狂わせられるわけにはいかないと逃げようとした。
「どうしたんですか。清水さん。」
「うるせえ!このようなところで人生を終わりにしたくないのだ。」ものすごい剣幕で精神科医を睨みつける。
「あなたの気持ちも分かりますが、私はあなたの人生を狂わせたりなんてしませんよ。何も非人道的なことなんてやりませんから。」優しい笑顔で落ち着かせようとするが、最早旧来の私ではなくなっていた。
私は林檎と言ふ人生を変えてくれた紅の塊を忘れてしまった。今それを取りに行きたいと思っている。
何故、林檎なのか。それは、あの素晴らしく紅い林檎こそ、私の激しき衝動を表すものであるからだ。特段、物珍しいものではない。しかし林檎と言ふ物は、私には紅に燃える心臓のシンボルのように思えてならない。常に林檎を抱えていなければ私は冷静さを失ってしまうと感じている。
私には林檎を買うお金すらない。たとえ、あったとしてもバイト先の農家の林檎で無ければ落ち着くことはないだろう。
だから今、丸善まで行くことを決めたのだ。

清水という破産大学生である男の手記はここで終わっている。なぜ手記のことを知っているかって?失踪宣告を受け、遺留品であるこの手帳を手にしたからである。彼にとっては遺書なのかもしれないが。

彼はその後上野の丸善に向かい、自分がそこで何をしていたのかを遠くから見ていたそうだ。
その後の詳しい足取りは分かっていない。隅田川にて入水して果てたとも、どこか遠くの島に移住して大富豪になったともいわれている。

彼が何をしていたのか。それは、無意識のうちに書店を荒らし、フランス語やフランス文化について書かれている本を積み重ねていき、そして2、3個のリンゴを上に積み重ねた紅に輝く本の塔を建てたのであった。彼は一通り終わると精根尽き果てたのかその場で倒れてしまったようである。

店側は当然迷惑だと思ったが、ドイツ人の客がたまたま書店にいてこういったのである。「Bedeutet der Turm Eiffelturm?Eiffelturm und "Äpfel Turm" gleichen!」と。
つまり、その紅い林檎と本の塔を見てエッフェル塔なのかと尋ねたのである。なぜなら、ドイツ語のリンゴの複数形とエッフェルは音が似ているからである。
そして、面白いとされてフランスの本でできた塔は残されることになった。リンゴだけは処分されたが、アップルウォッチやアイフォンなどで飾られたことで、結局アップルタワーに変わりはなかった。
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