魂魄転生&孤児育成
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2016年4月XX日。
俺は気が付くと、全く見覚えのない場所に立っていた。どこか、教会のような建物内のようで、質素で神秘的な雰囲気を感じた。
「ここは……」
「……神父さま?どうかしましたか?」
俺の呟きに反応が返ってくる。振り返ると、シスター的な衣裳を身に付けた金髪のハーフっぽい美少女がいた。
「神父?俺のこと?」
「神父さま?本当に一体、どうしたのですか?」
どうやら神父とは俺のことで間違いなさそうだ。俺は神父になった覚えはないが。俺は……俺は……あれ?
「俺は……名前……思い出せない」
「神父さま!」
急激な頭痛に襲われ、そのまま気を失ってしまった。
「貴方様は、オーランド神父です。このサイファスの町で10年以上前から、この孤児院を営んでいる神父さまです。
……どうですか?思い出せませんか?」
先程から、シスター・ローラから、俺自身のこと、この町のこと、この教会のこと、この孤児院のことを説明してもらっているのだが、殆んど何も思い出せない。だが、ぼんやりと記憶は残っているのだ。その記憶と、現状があまりにも食い違っているために、余計に混乱している。
「今日は……もう、お休みください。また、明日、頑張りましょう」
「ローラ、さん。すまない。そうさせてもらうよ」
「さんは要りませんから。ローラと呼んでください。それと、謝る必要はありませんから」
「ありがとう、ローラ」
こうして、俺は殆んどの記憶を失った状態で、美しいシスター・ローラと出逢ったのだった。
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名前:ローラ
年齢:17歳
性別:女
種族:普人族&長耳族
Lv:1
才能:教師の才
魔術の才
技能:読み書き[Lv3]
水魔術[Lv1]
火魔術[Lv1]
称号:なし
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いつの頃だっただろうか。
ローラと話していると、視界の片隅に半透明の窓が浮かぶようになっていた。俺の朧気な記憶を辿ると、これはステータスウィンドウと言うものだと思う。
ローラにそれとなく尋ねてみたが、そのようなものは普通は見えないらしい。俺の記憶喪失と何か関係あるのではないかと、ローラは言っていた。
「ローラは魔術が使えるのか?」
「魔術というか、一般には生活魔術と呼ばれるものですね。少量の飲み水とか種火とかですよ」
ローラは、そう言うが、俺からしてみると凄いことだと思う。ローラは、そんなに凄くない、普通のことだと言う。
「ローラには、教師の才能があるみたいだね」
「神父さまは凄いですね!他人の才能が分かるんですか?」
俺もこれは凄いと思う。何故見えるのか分からないのだが、ローラ以外も見えたらいいなと思う。
「神父さま、シスター、ただいま戻りました!」
「ただいま!」
「ただいま!」
「おう、お帰り」
「お帰りなさい、アル、ベン、ガーム」
アルは12歳の女の子。この孤児院で最年長のお姉さん的な子どもだ。ベンは、10歳の男の子。ヤンチャざかりではあるが、根は素直な男の子らしい。ガームは9歳の男の子。気弱でいつもアルとベンの後ろをついて歩くらしい。全てローラに教えて貰った情報だ。
この3人以外にもこの孤児院には子どもがいる。4歳~7歳の子どもが全部で8人。アル達3人と合わせて11人である。
年長の3人は近所の農家の手伝いをしていて、夕方になると帰ってくる。ローラはこの孤児院全体の掃除、洗濯、料理など、家事に大忙しだ。国から支給される僅かなお金、近所からの寄付、子ども達が農家の手伝いをして貰う僅かなお金。それらでこの孤児院は支えられている。そんな中、俺は一体、何をしているんだか……
神父の仕事ってなんだろう。ローラには、神に祈るのが神父さまの仕事ですと言われた。一応、毎日祈っている振りをしているのだが、正直、祈り方も分からない。
「手洗いとうがいをしっかりやりなさいね。それが終わったら夕御飯にしましょうか」
にっこりと微笑むローラ。こんなに可愛い娘がシスターで良かった。俺は幸せに感じている。
夕御飯はかなり質素なものだ。芋粥に孤児院の庭で取れた野菜が少々。一応、芋粥には塩味がついているが、かなり薄い。俺には物足りなく感じる。
あぁ、元の世界のご飯が恋しい。
……?
…… ……?
元の世界?
今まで違和感があったのだが、今、俺がいる世界は、俺がいた世界ではないと感じている。俺の朧気な記憶の中の世界は、今、俺がいる世界ではない。やっぱり、そうなのだろう。そうであれば、今の俺は何なのだろうか。今の俺のこの体は一体、誰の体なのだろうか……
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名前:オーランド
年齢:27歳
性別:男
種族:銀狼族&長耳族
Lv:13
才能:教師の才
棒術の才
技能:読み書き[Lv5]
棒術[Lv5]
剣術[Lv2]
神託[Lv―]
閲覧[Lv―]
称号:異世界の魂魄
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いつの頃だっただろうか。
自分自身のステータスも覗けるようになっていた。それだけではない。アル、ベン、ガーム達のステータスをも覗けるようになっていたのだ。
俺のステータスを見ていると、棒術や剣術というのが使えるらしい。これは戦う力なのだろうか?俺は一体何者なのか……戦う神父?
それと、神託に閲覧。神託は神様から何か言伝てを貰うのだろうか。閲覧は、もしかすると、このステータスを覗く力なのかもしれない。
更には、最後の【異世界の魂魄】。俺の存在は異世界の魂なのか……ここに存在している体はなんなんだ。これを考え始めると頭が痛くなってくるので深く考えないことにする。
それと、アルは魔術と棒術の才能があるようだ。ベンは剣術、ガームは体術と魔術の才能があるようだ。折角、才能を持ち合わせているのであれば……
「ローラ、空いた時間でいいのだが、アルとガームに魔術を教えてやって欲しい。やれるか?」
「魔術を教える?私には生活魔術レベルしか教えられませんが、それでも宜しいのてすか?」
「あぁ、今のところはそれで構わない」
アル、ガームがどこまで出来るようになるか分からないが、将来まで見据えると魔術を教えられる人を見つけるか、魔術の教本を手に入れる方が良いかもしれない。
アル、ベン、ガームには、俺から戦う力を教えることとしよう。何がどうなるかは分からないが、折角、才能を持ち合わせているのに、このまま農作業の手伝いだけでは勿体無い。
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俺やローラからアル、ベン、ガームへと色々と教えるようになってから半年が経った。
どうしてこうなったのか分からないが、俺とアル達3人は、冒険者登録をして、ダンジョンを探索するという生活を送っている。
ダンジョンはハイリスク&ハイリターンと言われており、そこそこ稼げるようになった。ようやく、ヒモ生活からは脱することが出来た。
お陰様で、孤児院の収支も上向きになってきており、年少組にも教本やら木剣やらを買い与える余裕も生まれてきた。
元々、才能に恵まれていたこともあり、アル、ベン、ガームの3人は順調に実力をつけてきている。このままでは、俺を越えられる日も遠くはないだろう。
そろそろ3人を独立させて、年少組に稽古をつけても良いかもしれない。いや、俺が稽古をつけるよりも、アル達3人に稽古をつけさせた方が伸びるのかもしれない。
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アル、ベン、ガームは3人でパーティーを組み、ダンジョンを探索するようになった。パーティーネームは【オールの灯火】。オールとは俺が営んでいる孤児院の名前だ。孤児院出身の3人は年少組を導く灯火となるという意味があるらしい。是非、頑張って欲しいものだ。
それは、そうと……
「神父さま、シスター、ただいま戻りました!」
「ただいま!」
「ただいま!」
「やぁ、お帰り」
「お帰りなさい、今日も無事で何よりです」
独立したはずの3人は、何故か孤児院に帰ってくるのだ。孤児院にお金を入れてくれるので、年少組の教育にも力が入れられて良いことしかないのだけど……アル達はそれで良いのだろうか?
「神父さま、そろそろシータも冒険者デビューさせてもいいんじゃないですか?」
アルが俺に提案してくる。
シータは年少組の中で一番歳上の女の子だ。今年で9歳になるのだが、まだ早くないだろうか?
「シータにはまだ早くないか?」
「いえ、シータの風魔術と土魔術は凄いですよ!敵に近付けさせなければ、大きく戦力アップしますから!私が責任を持って守りますから!」
そうは言ってもな……
「神父さま、あたし、冒険者になりたいの!アル姉ちゃんの力になりたいの!」
まだまだ幼い顔のシータが上目遣いでお願いしてくる。この子はローラに似ていてとても美少女だ。まぁ、なんだ、可愛さに負けた訳じゃないが……
「仕方ない……じゃ、暫くは俺も同伴するから、俺とアルでシータを守りながら行くか」
「神父さま、ありがとう!」
「やったね!シータ!」
最近は一人で探索していたが、久し振りにアル達と一緒に探索するのも良いかもしれないしな。
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最近、孤児が増えてきた。元々、小さな教会に隣接した小さな家を孤児院にしてきたのだが、最近の増加傾向で、孤児院が手狭になってきた。
アル達年長組が大人になり、シータ達年少組が12歳~15歳になってきたのだ。年少を受け入れることは出来るのだが、少し増えすぎである。
「神父さま!この際、家を建て直しましょう!」
「ローラ、そうは言っても土地がない」
「土地ごと買っちゃいましょうよ!ソフィアも生まれたことですし!」
ソフィアはとても可愛い女の子だ。ローラにそっくりで、天使のような美少女。まだ1歳だが、将来が楽しみである。
そう、俺は2年前にローラと結婚したのだ。そして、昨年、ソフィアが生まれた。俺も子持ちとなったことだし、そろそろ冒険者を引退しようかと考えていたのだが……家を建て直すとなれば、まだまだ冒険者稼業は辞められないな。
「ローラ、貯金はいくらあったかな?」
「神父さま!建て直してくれるの!」
俺は美しいものには弱いらしい。ローラにしろ、シータにしろ、上目遣いでお願いされては、断ることが出来ないからな。
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【オールの灯火】
アル、ベン、ガーム、シータの四人を筆頭に、更に人数を増やして、今やダンジョン攻略組のトップチームになってきている。
そのパーティーメンバ全てがこのオール孤児院出身だからと言っても、親のいる子どもを孤児院に預けるのはいただけない。孤児院は託児所ではないのだから。
俺の【閲覧】技能で、才能を見抜いて、小さい頃から才能を磨くのだから、優秀な大人になるのは道理である。
この先も孤児院があり、俺が生きているうちは、これは続けていくつもりだ。俺もソフィアが大きくなるまでは冒険者を辞めるつもりはない。将来はソフィアを連れて一緒に冒険するのが俺の夢なのだから。
そう言えば、最近、神託があった。
【そなたの元へ未来の勇者が現れる。大事に育てよ】
なんの捻りもなく、どストレート。勇者って、物語に出てくるあれだよな。勇者を育てると、魔王討伐とかに出掛けるのだろうか。
将来、どうなるか分からないが、俺は勇者を大事に育てる。神託なんか無くても大事に育てるに決まっている。
ステータスを覗くと、称号に【勇者】と書いてあるのはソフィアなのだから。
もし、ソフィアが魔王討伐に行くはめになったら、心配だから俺もついていこう。アル達も呼んで、最強のメンバでソフィアを囲って行こう。
そうだ、こうしてはいられない。俺が魔王を倒せるぐらい強くならなければ!
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サイファスという小さな町に、伝説の孤児院が存在していた。その名は【オール孤児院】。数百年振りとなる魔王討伐を達成した伝説の勇者達。そのメンバが全員、オール孤児院の出身であったのだ。
オール孤児院出身の者には、先進的な魔術研究者、魔道具開発の第一人者、魔術学院の創始者、ダンジョンの初踏破者など、世に名を馳せた者を多く輩出している。
今や伝説となった【オール孤児院】は、場所を変え、今もひっそりとどこかの町で孤児院を営んでいることは、世には知られていない。
人知れず、孤児を育て、偉人を輩出し続けるのであった。
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