表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FMゲーム  作者: Ridge
3/11

3話 予選2戦目

 少女は補習終了後,図書室へ行く.図書室を入ったすぐに受付が右側にあり,左側に長い机が3列並んでいる.その奥に本棚が両側の壁に2列,中央に表裏のあるものが2列,それが2セットある.

 少女は本棚の熱力学分野を見て,その中から実例を交えた導入的なレベルの本を抜いてパラパラと見た後,机の空いている場所に行き,足元に鞄を置き,椅子を引いて,スカートの裾を押さえて座る.両腕を机の上に置いて本を開く.直後に本の文字が消え,周囲の人も消える.

「…?」

 少女は本をパラパラと開くが,全てのページが真っ白になっている.

「驚かせてごめんね」

 少女が後ろを振り返ると,銀髪の女性が一番端の椅子に座って右肘を机につけて振っていた.

「…誰?」

「私は,ソフォラ・レア・ブレストウッド.松来 魔夜マヤ.あなたをゲームに招待しに来た」

「ゲーム?」

「そう」

 ソフォラは姿を消して,マヤの前の席に現れる.

「この空間はゲームの世界,気付いているでしょう?」

「…この本は本の外面だけを真似て作ったもの.これがゲーム世界だから?」

「そういうこと.私の招待するゲームでは自由に表現できる.やってみたくない?」

「別に….本読んでいる方が楽しい.別の人を誘って」

「自分が本当は何に興味があるのか知りたくない?」

「どういう意味?」

「そのままの意味よ.あなたはインプットばかりではなくてアウトプットしたい.それはなぜ?その欲求の先にあるものは?情報アドで優位に立ちたい,同じ興味を持つ仲間を得たい,知識を利用して改善したい,色々あるでしょうね.もし,学んでいる内容そのものに興味がなく,先に述べた欲求を満たすためのツールだとして,望んだものを得ることで満足したら,今までのように本を読めるかしら?」

「だったらどうしろと?」

「表現してみればいいじゃない.表現して,振り返って,それがどういう気持ちから起きたものか理解する.それを可能にするゲーム」

「……」

「あなたは恐れている」

「何を?」

「あなたが読む本は学校の勉強とは関係のないこと.そしてそれらはするすると頭に入っていく.学校の勉強も同じように頭に入っていけばいいのにできない.もし,学校の勉強も同じように読んで勉強できればいい,と思う.しかし,失敗すれば,本を読むこと自体が嫌いになって,何も出来なくなってしまうのではないか,自分には何も残らないのではないかと」

「…….気味が悪い」

「いずれにせよ,表現しなければ知りえることはできない,気付かれない.あなたにまず必要なことは,答えを考えることじゃなくて,悩みに気付いてもらい,ヒントを提供してくれる存在じゃないかしら?」

「よく口が回る人だ.…ゲームについてもう少し詳しく教えて」

「もちろん」

 ソフォラはゲームの細かい説明をし,その後勧誘に成功する.


 キヨシは図書室に入り,ジンタを探す.ジンタは漫画を読んでいる.キヨシはジンタの肩をトントンと叩き,小声で声をかけ,ジンタは気がついたようだった.

「来たか,…何その派手な格好」

「細かいことはいい」

「もしかして不良?」

「成績はいい,気にするな」

「はいはい,あの子だ」

 2人は本を読んでいるマヤの近くへ行く.

「松来さん,ちょっといいかな?」

「…ああ,笠野さん」

 マヤは振り返って笠野を見た後に,キヨシを見て顔に警戒感を示す.

「外で聞くから,先に廊下で待ってて」

 2人は頷いて廊下に出る.2階の窓からは教室が斜めに見える.マヤは本を棚に戻して外に出た.

「この人は隣東苑氷志,ゲームの参加者だ」

「…体育で見たことあるかも」

 この学校では,文系と理系のクラス合同で同じ時間に体育を行う.男女比の偏りが大きいため,混ぜると同じくらいの比率になるためだ.

「(覚えて貰っていて申し訳ないが,記憶に無い)よろしく」

「私は,松来魔夜.よろしく.ゲームの参加者ならまず試合をしましょう」

「そうしよう」

 2人はカードをオンにする.ほど無くしてゲーム世界に招待されてソフォラが現れる.

「バッジを4つ選んで」

 キヨシは,雷,格子,雲,角の折リたたまれた四角を選ぶ.マヤは線,鎖,烏,くねくねしている線を選ぶ.

「この宝石に触れたらスタート」

 ソフォラは宝石を浮かべつつ,後ろに浮いて姿を消す.2人は宝石に触れて試合が始まる.


 キヨシはマヤに雷撃を放つ.雷撃はマヤの周囲の磁力線で歪められてマヤには届かなかった.マヤは窓ガラスを割って外に出ると,黒い羽を2つ出して外に滞空する.キヨシは雷撃を再び放つが,やはり歪められて当たらない.マヤは右手の上に球体を浮かべてキヨシに向けて飛ばす.球体はぐねぐねと変化をつけてキヨシに向かう.

 キヨシはラケットを出して球を打ち返す.球は明後日の方向へ飛び,消滅する.マヤは上に飛び,窓から見えなくなる.キヨシは雲を窓の外へ飛ばす.鎖が雲を貫き,すぐに引き上げられる.

 天井の上,マヤの烏と鎖のバッジの上に薄く6角形が描かれ,中心から同じ波長で6方向に広がったり縮んだりをする.羽は4枚に増え,鎖は重力に逆らって浮かび上がる.マヤは天井を破って急降下し,羽で勢いをつけて,キヨシに向かって飛び込みつつ,鎖を振る.キヨシは左手を地面に着けてしゃがんでかわし,直後に起き上がる.マヤは宙で一回転して,壁を蹴って地面に降りる.

「足,見たほうがいいんじゃない?」

「…?」

 マヤは足元を見ると左足の膝が消えていた.しかし,先と繋がっている.

「(何だこれは?近づかない方がいいのか…?それともそれが狙いか?)」

 マヤは飛び上がろうとしたが,キヨシが右手をバッと挙げたので,思いとどまる.キヨシの格子と雲のバッジが変化し,2つとも迷路状の導火線のついた爆弾になる.キヨシの足元から迷路状の線が地面に伸び,キヨシが動いた瞬間に着火し,導火線を走り,マヤの下で爆発する.マヤは倒れて,ゲームが終了する.

「(本物そっくりに見せるシール.動揺させて流れを変えるのに便利だな)」


「私の負けか」

「えっ,いつ始まっていつ終わったの?」

「おい笠野,教卓に宿題あったけどいいのか?」

 ジンタと同じクラスらしき人が話しかける.

「あれ?そうか,今日は俺の番だったか.サンキュー,今から行く.悪い,古文の宿題を届けに行ってくる」

「廊下でずっと待っているのもな….校庭横の大樹の下にいる」

 キヨシとマヤは大きな木の下のベンチに移動した.

「ここは好き?」

「まあ…好きな場所だな」

「どんな風に?」

「そうだな….これらの大きな木が伸び伸びと枝を伸ばす姿は開放的でいい.木と木の間隔では,家の近くの街路樹のある歩道の方がたぶん広い.でも,枝をことごとく切り落とされて,ただの棒のように小さくまとまっている姿は閉塞感がある.雰囲気の開放感といったところか?」

「なるほどね.植物にまつわる面白い話を1つ.人参ってあるじゃない?最初はあの形じゃなくてもっと細かったんだけど,どうやってあの形になったか知っている?」

「さあ?品種改良したんだろうけど,太い奴だけを交配させたとか?」

「まず,6月の生長が盛んな時期に種まきをした.そこで多くは,大急ぎで生長して種を作ったんだけど,中には種を作らずに冬越しの準備をしたものがいた.その冬越しの準備というのが,根を太くすること.そして,冬を越してかつ生き残ったものが,再び生長を始めて種を作った.その種から育てたものを同じように,冬越しさせて,を繰り返して今の形になったわけ,と本で読んだ」

「なるほど.それを聞いたら色々と試してみたくなるな.ネットの発達も追い風かな?変わったのが育ったら,その情報をすぐに発信できるし,受信もできる」

「どこまでできるか分からないけどね.話は変わるけど,ゲームのことだけど,固有能力は何?私は『同調』.選択した2つ以上のバッジを同時に使うことで性能を引き上げる.ただし,大振りな方に揃える」

「『昇華』.2つ以上のバッジを元の絵柄とは違う解釈を組み合わせたものに変化する.ゲーム終了まで変更できない」

「私が戦った中で,元と全く違うタイプに変化させるのは他にも居たわ.扱いが難しそうね」

「まあ,対策され辛いからいいや.ゲームってゲームマスターしかいないのか?」

「ゲームマスター以外なら,本選実況の人に会ったかな.確か…ビター・アーモンド」

 その後,キヨシとマヤはゲームの話をして,情報交換を終えた.特に有益な情報はなかった.

「しかし,その格好だと怖い人かと思ったけど,そうでもないね」

「まあ,背が低いのもあるし….そっちこそ,指定されていないじゃないか」

「だってダサいじゃん」

「だよね.人権侵害級のダサさだ」

「いや,さすがにそれはオーバーかな.そのままだとスカート長くてダサいし,推奨だとブラウスが分厚くて全然透けなくてモサい」

「ああ,確かにそっちの方が似合う」

「ふふ,ありがと.皆やってることだけどね.髪留めだって黒や紺のような暗い色で,デザインも規定されているけど,意味わかんないよね」

「全くだ.好きなのつければいいのに」

「皆,先生がいない間はピンクとかブルーのゴムやシュシュ着けて,来たら外してる.一度,付け外しするくらいなら,最初から黒色のつけたままにすればいいじゃないか,って先生に言われたけど,そういうことじゃないよね」

「その先生は分かってないな.重要なことだ.なぜかと言われると返答に困るが,…そういう気分じゃないから」

「説明は難しいよね.気分だから,としか.いつか分かる日が来るかな?…あっ,そろそろ帰らないと.じゃあね」

「じゃ,また今度」

 マヤは鞄を持って立ち上がり,帰路に就いた.遅れてジンタが来る.

「随分時間が掛かったな」

「野暮用が入った.松来さんは帰った?」

「ついさっき」

「…帰るか」

「そうしよう」

 キヨシとジンタも帰ることにした.途中まで同じ方向なので,2人は歩きながら話す.ジンタは何かに気付いたらしく,手を挙げてキヨシを遮る.

「…どうにも勘違いしていそうだから話しておこう」

「ん?」

「上手く言えないけど,誤解している感じだから,説明をね」

「ふむ…」

「これからの社会では,インフラの老朽化や少子高齢化によるインフラ予算の削減で,インフラはコンパクトになるだろう.例えば水,飲料用水は買わないと手に入らない,という風になるかもしれない.上の世代は,生活が退化したようで受け入れないだろう.だが俺たちは受け入れられるはずだ.まだ何十年も生きているわけではないから,昔の嫌な思い出を思い出すからできない,ということもなく,若いため状況に適応しやすい.この時代に生まれた意味はそれだと思うんだ.俺たちにしかできない」

「この時代に生まれた意味か….考えたこと無かった」

「上の世代の老後の生活を守りつつ,次の世代のために余裕を残す.収入が足りなくて家賃を払わずに悠々自適な生活して,次の世代に巨額の負債を残すようなことはしたくない.昔はある鳥が食べられたのに,もう絶滅して食べられないから今の人は可哀想だとか言われても,味知らないからどうでもいいじゃん?そんな感じだ」

「そこまでして人のためにすることに,価値はあるのか?」

「人に感謝されると嬉しいだろ?自分にしかできないことを,人のためにする.そうやって支えあうものじゃないかな?俺はこっちを直進だ.じゃ,また今度」

「ああ,またな.(もしや….笠野は一人では何もできないが,仲間ならなんとかできると思っている.そしてその仲間というのは,生まれついて同じカテゴリに属する,同年代とうことか.それゆえ,そこに帰属するということを強く印象付けるような振る舞いというわけか.民族や宗教も同じようなものだが,なんら努力せずに,生まれつきで決まっているものでいいのか?きっかけとしてならいいのか?いやしかし,やはり成長して成ったものの方がいいと思う.それとも両方?あるいは移行する?分からない…)」

 キヨシは横を見る.すでに角を曲がったのか,ジンタの姿は見えない.

「(きっと自分一人での力では及ばない壁に当たって,組織での力を意識するようになったはずだ.だが,俺はそんなことを考えたことがなかった.俺には,大きな壁に直面するという経験がない.もしこのまま大人になったら不味いんじゃないか…?もっと挑戦しよう.余計なことをしたら減点される?今更何を萎縮しているんだ俺は.制服を着崩す程度で満足しているなんてお笑いだな)」

 キヨシは立ち止まって深呼吸をして家に帰った.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ