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FMゲーム  作者: Ridge
11/11

11話 本選決勝

「感性の豊かな人は不幸だ,醜い世界に耐えられない」

「頭の良い人は不幸だ,絶望の未来が見えてしまう」

「若い人は不幸だ,繁栄の時代を知らない」

「果たしてそうだろうか,違うんじゃないか」


「ゲームの勝者は1人.ならば,一番になることに意味がある.一番になれないのならばその土俵で戦うのはやめるべきだ.それまで費やしたものが無価値だったことになる」

「どうやって見分ければいい?」

「全力を出してぶつかれ,終わった後でしがみつく言い訳を探すのは無様だ.悪い癖をつけてはいけない.勝負所であの時も逃げて何とかなったから,今度もなんとかなると…日和るようでは勝機を逃す」

「逃げるべき時は逃げるべきではないのか?生きていればチャンスはある」

「全てに対しての理論じゃない.状況は主観的ではなく,客観的に見て判断するべき」


「自分の悪いところを見つけて直す.それは時として自己の否定であり,勇気がいる行為だ.必要に迫られるほどの困難に立ち向かわなければ実現は難しい.悪い点が重要な個性であって,無くしてはいけないことかもしれない.何が正しいのか,自分は正しいのか,どうあるべきなのか,それらへの答えを出すのに十分な経験を経て人は大人になれる.さあ,力を見せてみろ」


「次が決勝戦.葦茂布異蔵vs隣東苑氷志ですね」

「これが最後ですね.アーモンドさんは,解説してきた能力とプレイスタイルを覚えていますか?」

「ええ,葦茂布くんの能力は『混沌』.反発属性の組み合わせでどちらでもないものを作る.バッジ1つで2つ分に対応できれば数の上で有利になれますが,それを不可能にします.つまり,実質的に新しく対応するものを作らなければならないということ.同時に,用意するものを反発属性だと思わないといけないので,相手に読まれやすいですね.相手の先読みをさせないように撹乱するプレイスタイルになります」

「そうですね,それでもう1人の方は?」

「隣東苑くんの能力は『昇華』.元とは違う解釈同士を組み合わせたものになります.意外性を生かし,低い出力を補うために,相手を委縮させて場を支配するプレイスタイルになります」

「ええそうです.説明してもらってこんなことを言うのは何ですが…2人のこれまでの勝因は,プレイスタイルの相性ではなく,実力の高さが大きい割合を示します.この試合も,どちらが有利か不利かはありません.強い方が自分のペースに持ち込んで,そのまま圧殺するでしょう」

「その瞬間だと分かる特徴はありますか?」

「大体は直観的には分かりますけど,説明はできません.後で解説しましょう」

「楽しみにしておきましょう.おや,そろそろ始まります」

 キヨシは雷,鎌,U字,五角形を,イゾーは三日月,太陽,時計,立方体を選ぶ.

 2人は鐘の音を聞いて動き出す.

 イゾーは強烈な光線を放ってキヨシを攻撃する.キヨシは五角形の膜で強い光を遮ぎりつつ,トラックの裏に回り込んで膜を消して鎌を飛ばす.鎌は曲線を描いてイゾーに向かう.イゾーは時をわずかに戻し,飛ぶ鎌を紙一重でかわす.キヨシは,第二,第三の鎌を飛ばすが,全て当たらない.

「(おかしい,人間にかわせる速さや軌跡じゃない.何らかの技が発動していると考えるべき.ならば…)」

 キヨシは鎌を消し,前へ飛び出して自分を中心にして球状に電撃を放つ.イゾーは時をわずかに戻した後,空間を伸ばして電撃から離れる.その後,空間を縮めてビルの上に立ち,空間を元に戻して周囲を夜にする.瞳孔の開いていないキヨシの目には三日月だけが見える.

「(おそらくこれで攻撃能力がないバッジが3つ….攻撃方法はどこからか光線で狙い撃つしかない.だから守っていればいい,と思う.だがあいつの能力は混ぜることでこちらの防御をすり抜ける.つまり,攻撃あるのみ)」

 キヨシは音叉を出して音波攻撃を仕掛ける.再び昼になり,イゾーは空間を縮めて地上に降りる.

 イゾーの三日月と太陽のバッジが変化し,赤と黄のマーブル模様になる.キヨシの鎌と五角形が変化して逆さの五芒星が描かれる.イゾーは闇と交わった光線を放ち,キヨシは魔のオーラを前に放つ.2つの力は相殺して消滅した.

「(まだ抵抗するのか,考えを止めれば,諦めれば楽になれるというのに.鉄道ができたら楽になる?一般の国民は通勤ラッシュに巻き込まれて苦しむ.使えば楽ではなく,職場と家が離れて使わなくてはならない社会に変貌するまでだ.水道ができたら楽になる?同じだ,水道に頼らなければ生きて行けず,今日の分の水が無くなったから閉店という訳にはいかなくなる.使わなければ生きていけない社会に変わるだけ.開発によって得られたものを上手く使えない,もっと上手く使えるはずだと思うから苦しむ.そこで諦めて,そういうものだと思えば楽になれるというのに,人は交通事故に悲しみ,発電所の爆発に恐れる.もはや幸せを運ぶ開発というよりも危険だから止めたいけどせざるを得ない開発なんだ.結局のところ,満たされずにただ自然を削っていくだけだ.でも必要なものもあるかもしれない,思想の影響を受けているから何が必要か分からない.何とかしようと考えるから楽になれないんだ.考えたってどうしようもないじゃん,諦めれば楽になる)」

 イゾーの時計と立方体のバッジが変化して,壊れ捻じれた時計と建物が描かれる.周囲の空間が潰れたり膨張したりして,所々で時が逆行する.範囲は次第に拡張し,魔のオーラは細切れになって消える.

「この世界は目を開けるには醜すぎる.それを無視すればいいだけのことなのに,なんとかできるんじゃないかと淡い希望を持ち,見つからずに憤りを感じる.半端に希望を抱かせる存在が多すぎるんだ.お前もこれで底を見せて,今度こそ俺を失望させろ!」

「その願いは叶わない!」

 キヨシの雷とU字のバッジが変化し,根のように枝分かれした線の所々に方位磁石が描かれる.キヨシは歪んだ時空をそれぞれの分岐したあるべき場所へ戻し,フィールドは元に戻った.

「お前が諦めないのは,根源に諦めたくないという心があるからだ.それを直視せずに言葉で取り繕って駄々をこねている」

「いいや,失望を探しているんだ」

「お前は考えるのが好きなんじゃないか?それなのにそれを止めようとするから苦しむ.答えを見つけられないのは,お前の世界が狭いからだ」

「世界を広げろと,どうやって?」

「他の価値観との衝突や融合.広い世界でも,俺たちの根底が変わることはない,見失ったりしない」

「フン,時間稼ぎは十分だ.次で決める」

「生憎,俺も時間稼ぎは十分できた.終わらせよう」

 イゾーの日月バッジと時空バッジが混ざり,白黒のマーブルになる.キヨシの逆さ五芒星と分岐バッジが混ざり辞書が描かれる.

 イゾーの周囲から光も闇も時空も区別のない混沌の世界が発生する.周囲の車も木も何もかも飲み込んでは何物にもならなくなる.キヨシは辞書を呼び出す.ページがパラパラと一人でに開き,文字が混沌の世界に飛んでいく.キヨシは辞書を開きつつ,イゾーに向かって歩き出す.キヨシは混沌の世界の中に消える.

 キヨシは混沌の世界の中を歩き,イゾーの前に出て,辞書の角で殴って倒した.

 バッジの効果が消え,2人は屋上に飛ばされた.


「決まった…」

「ええ」

「決まりました.優勝は隣東苑氷志です.バーネットさん,最後はどういうことでしたか?」

「どんな世界でも自分の根底が変わることはない.ということです.あ,もしかして.技の方ですか?」

「ええ,そっちです」

「葦茂布くんは光も闇も時空の区別のない世界で取り込んで隣東苑くんを消滅させようとしました.しかし,隣東苑くんは言葉を定義しなおすことで区別を作り出し,混沌の世界でも自分を失わなかったのです.あのバッジは,おそらく比喩的な意味の星の数と分類表の組み合わせで辞書を作り出したのでしょう」

「なるほど,私たちの出番もこれまでですね.実況は私,ビター・アーモンドと」

「解説のサラダ・バーネットでお送りしました」


 ソフォラは8人を地上に下ろして,優勝の表彰をする.

「さて,ゲームは終わり.代表して隣東苑氷志,あなたがこれまでゲームとそれに関した交流によって様々な考えの影響を受けて,一応のまとまったところに着いたはず.話してみて」

「長くなりそうだけど…」

「そういうものだから」

「…再魔術化した世界において,人々は意味を求めて,市場でその需要は高まる.それに応じて供給側も意味を売りものにする.それが続いた上で,非流動的な供給構造になれば,その魔術が解けたときの市場に対応できる新しい会社はなさそうだ.なぜなら,価格を下げる過程で価値を認める比重が影の労働ではなく,意味を付加することに傾くからだ.それが常識となって,誰も変えられないかもしれない.それが怖い」

「日本語で言って」

「ラーメンで例えると,君は容易にラーメンを手に入れることができるようになったとする.そうすると,普通のラーメンではなく,ダシにこだわっているラーメンであるとか,話題の店のラーメンだとか,健康にいいラーメンだとか,そういう属性とでも言えるものを求める.多くの人がそうすると,売り手もそういうことを前面に押し出す.それを続けていくと,そういう属性を作るラーメン会社ができる.要らないなら淘汰されるが,価値があるように宣伝する.それができるのは力のある会社で,国が彼らを優遇すれば潰れずに残り,構造が固定される.価格競争は起きるものなので,費用を下げる必要がある.そこで,普通にラーメンを作ることと,属性を付けることではどちらが高い給料が出るかと言うと,属性を付けることだ.バイトにもできて当たり前のラーメンを作ることよりも,発想や調査の必要な属性付けの方が高く評価される.おかしな話じゃないか?」

「んー…」

「むむ…」

「つまり,価値を見直すということか.しかし,本質的には上流層の財産を減らして再分配することになる.誰にもできやしない.何せこの潮流は世界的なものだ」

「何とかするさ.いずれは過去のものになるのだから,過去のものにする思想は存在する」

「強いな」

「どうも.今の常識は,立派なものというイメージに引っ張られすぎている気がする.買ってほしいものを宣伝することで,今の自分は不十分だと考えがちだ.しかし,本当は恵まれている.ただ,そう思われると売れなくなるものだから,まだまだ足りないとかそれはもう古くてダサいだとか,そういう風に煽って幸福に気づかない.これくらい立派にならないと結婚できないとか,そんな物は時代遅れとか,これくらいの服を着ないと貧乏臭いとか,この建造は技術大国の象徴だとか,感情に流されて現実を見ることができないと,実質的に貧乏になると思う.同じ五百円でも,基本がしっかりしていて旨い丼が食べられるのと,大層なネームバリューばかりで基本が疎かになっているのでは,貧しいのは後者だ.しかし,後者しか売れない,宣伝されない,評価されない世界になりつつある.専ら意味や付加価値のみを求めて,基本をないがしろにする」

「ふむ」

「不要に付ける意味を考える人の方が多い給料で,本当に重要な基本を作る人は薄給であれば,見せ掛けだけの繁栄になる.意味ばかりが持て囃されて,基本がなっていないもので溢れかえるようでは,その文明レベルは後退していると言わざるを得ない」

「そのレベルの概念自体が感情に流された無粋な考えかもしれない」

「そうかもしれない,また考え直す.下請けと上流に分かれており,基本を作る部分と高い付加価値としての意味をつける部分が別れている以上,各々が自らの権益を守ろうとすれば,力のある上流側に価値を認めさせる動きが勝る.事実,レジ打ちなどの仕事よりも商品の企画設計などの方が高い給料なのは自然だと思われている.決して情報や高度な知能の仕事を軽視するわけではないが,同様に基幹となる仕事も軽視してはならないはずだ」

「大体分かってきたかも」

「自然環境,その中でも身の回りのものというのは高い価値をつけられない.CMで流れている車や旅行,テレビやネットで話題の飲料やら道具やらが高い価値を認められる一方で,毎日恩恵を受けながら過ごしていながらも,あって当然だからと宣伝されることなく低い価値のものが自然環境.目の前にある宝は無視して,いかにも珍しそうな高い付加価値を持つものばかりを追求し,本当に価値があるものを無視した経済活動が繰り返されて社会が貧しくなる.生態系サービスによって容易に手に入る水であったり,涼しさ,温かさ,病気の予防…数えきれない.考え直さないといけない」

「少し似ているね」

「俺たちの役割は,再評価だと思う.上の世代は慣れてしまって,埋もれた価値に気づかない.俺たちはまだ社会の影響を受けた年数は短いが,感性も若いままだ.俺たちが埋もれた価値を再評価することで,何か奇抜な産業で経済を回すよりも,裕福な社会になるはずだ.俺は,何になりたいのか,何をやりたいのか,最初は分からなかったけど見えてきた.こういう問題を何とかできそうな学問を学んで,仕事にしたい」

「見つかったんだね.良かった」

「俺は今まで一位にこだわっていた.しかし,それは全ての状況において順守することではないのは分かるが,線引きが難しい.…….これからの俺たちの生きる社会は衰退するだろう.しかし,幸福がないという訳ではないはずだ.一位であろうとするために,新しく目立つものばかりがアピールされ,それ以前のものは古いものとして捨てられていった.そんなのは貧乏くさい,古臭い,と考えずに受け入れることで幸福を得られるはずだ.無い物ねだりを諦めることが希望に繋がる.惑わされた感性ではなく,自然な感性に頼れば,自分たちがどれほど恵まれているか見えてくる.高級品だとかどこどこ産のブランド価値の高そうなものは手に入らずとも,裏山でアケビやカキが採れる.沖縄の海やら京都の寺やらに行かなくとも,夜に空を見上げれば星は輝いているし,梅雨の雨音も,夏の濃緑の榎も,秋の黄金の小麦畑も,冬の椿も楽しめる.衰退するからといって真っ暗な未来というわけじゃない.寧ろ,無い物ねだりを改め,今まで影に埋もれた価値だったものを評価して成り立つ社会にするいい機会だ」

「諦めといっても,そういう諦めもあるか」

「最後に….このゲームを通じて,人と接して,俺は考え方に影響を受けた.まだ変わっていくかもしれない.しかし,変わらないものは分かった,俺自身だ.俺の考えが変わろうと,それは変わらない.そして,変わらないと分かっているから,違う考えを受けれいれることができるんだと,そう感じた.昔は,俺の自我を狂わせかねない思想は受け入れられなかった.今もそうだろうが,範囲が広がっているのは事実だ.自分を得たんだ,散々表現して表に出して見直すことで.いい体験だったよ,ありがとうソフォラ」

「どういたしまして.本当に影響は大きかったようね.…これでお別れね.さようなら,あなたたちの健勝を祈っているわ」

 ソフォラは姿を消して8人は現実世界に戻る.バッジもカードももはや何の返答もない.

「さようならソフォラ.ちょっと生意気だったけど,楽しい思い出だったよ」


「レア様.メラ派を抑える方法とはなんだったのですか?」

「ありませんよ.必要ありませんから」

「なぜです?」

「あなたのゲームと,彼らの存在がメラ派の思想がここでは通用しないという証明なのですから」

「…そうですね.それにこれは彼らにも知らなくていいことです.私も知らなくとも良かったですね」

「あなたはいずれ気づきましたよ.力を持った者の宿命ですから.それより,今は無事に終わったことを祝福しましょう」

「はい」

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