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シロクマ

 二十五年前、当時小学一年の南野憲司と、登校班が同じだったのは八人だ。

 六年生の男子二人、(一人が神戸で起こった事件の父親。もう一人が天王寺動物園事件の父親)

 五年の女子一人、(京都事件の母親)

 四年の男子一人、(大阪事件の父親)

 四年の女子一人。

 三年生の女子一人、(奈良公園事件の母親)

 一年生が、憲司君と、隣の子だ。

 

 老婆達の証言があるまで、飴玉を喉に詰まらせて死んだ幼児に共通点があると、警察は知りえなかった。

 無理もない。

 当の被害者達が、全く気がついていなかったのだ。

 子供を突然亡くし、錯乱した状態で、他の被害者のことを知ろうとしなかった。

 それに、かつて同じ登校班だった彼らは、現在、全く交流が無かった。


 南野憲司と隣の同級生を除く六人は、所謂、地元生まれではない。

 親同士の交流は浅く、学年もバラバラ。

 小学校を卒業すれば集団登下校も終わる。

 家が近いだけの関係は、希薄になっていく。

 <南野憲司神隠事件>は個々に強烈な記憶ではあった、

 が、

 当時の登校班に誰が居たかなんて、忘れていた。

 晴子から、息子を殺したと疑われていたなどと、夢にも思っていなかった。


 南野晴子は、居住地区の市立中学校の卒業生を装い、

 息子と同じ登校班だった、被害者の親五人、当時四年生の女児(独身で子供はいない)の六人と

 SNS上、トモダチになった。

 彼らのフェイスブック、ツイッターから、家族イベントの予定を知りえた。


 執拗で気長な作業の痕跡は、イコール復讐心の深さを表すかのようだった。 

 我が子を突然失う、同じ苦しみを味会わせる為に、二十五年待ったのだと、分析するコメンテーターもいた。 


 三人の老婆は「仇討ちの手伝い」が面白かったようだ。

 

 ターゲットの遭遇する場所へ出向いても、探し出せない時もあった。

 上手く見つけても、犯行のチャンスが無い事も、何度もあった。

 晴子は復讐を急いでいなかったらしい。

 三人は晴子に金を貰って、あちこち出かけるのが楽しかった。

 幼い子供を殺した罪悪感は微塵もない。


 それぞれの過去も露わにされた。

 三人とも、母になった経験が無い。

 窃盗、詐欺の前科が複数有る。

 人生の三割を刑務所で過ごしている。、

 共同の便所と台所。風呂もない老朽アパートで、似たもの同士が出会い、親密になった。

 三人は毎日近くのショッピングモールへいき、時間をつぶしていた。

 冷暖房が効いていて、アパートに居るより居心地が良かった。

 そこで、晴子に声を掛けらた。

 広い屋敷に招かれ、簡単な仕事をして、此所で暮らさないかと誘われたのが、始まりだという。


「この人は、息子の失踪に無関係だったのね。誘拐でもない、不審者の目撃情報も無いんでしょう。それなら、同じ班の子を疑っても無理は無いわね」

「子供達が憲司君を殺した、なんて妄想だよ。あり得ない。集団下校だよ。他のグループも、ぞろぞろ続いてるし、町の中だから人通りもある。トラブルがあれば誰かが見ている筈だよ」

「そうよね。もし心の病なら自分が殺したことを忘れてるかもしれないしね」


 ワイドショーでは、南野晴子の情報を求めていた。

 いつから所在が解らないのか、老婆達の供述がバラバラだという。


 生まれつき、左手に指が無い特徴も公表された。

 晴子は一人娘だった。

 南野家は、地元でも有名な資産家で、

 曾祖父の代から海外の美術工芸品を扱う会社を経営している。

 現在社長は晴子の従兄弟だ。

 不動産も多く所有していて、晴子は不労所得が相当あるらしい。 

 

 息子が居なくなった後に離婚した夫は、婿養子だった。

 税理士だったという以外に、情報は出ていない。

 

「南野晴子は、もう死んでるって、匿名で知らせてみる?」

「幽霊を見たっていうの? 取り合ってくれないよ。もし話を聞いてくれたとしたら、それはそれで厄介だよ。参考人にされちゃうよ」


 南野晴子の顔は繰り返しニュースやワイドショーに登場している。

 玄関で映した、二十五年前の写真ばかり。

 長い年月、世間と関わりを持たなかったのだろう。


「ん?」

 聖は、端っこに映り込んでいる、白いモノに、気がついた。

 何度も見ている画像なのに、人物ばかりに目が行き、見逃していた。


「シロクマの前足……か。小熊?」

 聖は、モフモフした白い塊を最大限に拡大する。

「シロクマの、足なの?」

 興味深げにマユも画面に顔を近づける。


「多分ね。この頃は法律で規制されて無かったんだな」

「今は、シロクマの剥製は作れないの?」

「病気や事故で死んだ子を剥製にするのはいいんだよ。昔はね、剥製にする為に殺されてたらしい。希少動物の剥製は高い値が付くから」

「可哀想」

「うん。熊でも、虎でも、子供の方が可愛らしいし、大きくないから好まれたんだ」

 マユは、工房の床に居る小熊の剥製に目をやった。

 紀州犬のシロを太らせたくらいの大きさで、聖は小さいとき、背中にまたがって遊んだ。

 工房にある剥製は、注文主が引き取りに来なかったのと

 父が、好んで、所有する目的で作ったか、だ。

 熊は聖の記憶の始まりから工房に居て、

 背中に乗って遊ぶのを許可された。

 初めから、遊具用に、頑丈に作られている。


「憲司君は、何処に居るのかしら? 母親の、南野晴子も、逆さで死んでる以外、何にも解っていない。謎が多すぎる。不可解な事件よね」

 聖の意識はシロクマに、いっていた。

 ガラスケースに入ってる。

 片足の先っぽしか映ってない。

 珍しいモノだから、全身が見たいと

 好奇心が沸いてきた。


「ちょっと、話聞いてる?」

 マユに怒られた。

「聞いてる。……死体が出てこなかったら迷宮入りだろうな」

「今度、南野晴子の幽霊にあったら、どこに居るか聞いてね」

「もう、会わないだろう。アレは婆さん達に憑いてたんだから」

「奈良でも見たのよね。その時には死んでたってことね」

「うん」

 

 餅飯殿商店街で

 あの時確かに四人の左手に徴を見た、と思った。

 だが、

 今思えば

 四人目の老婆、南野晴子の亡霊の左手、

 ……あれは指が欠損した、手だった。


「南野晴子は、息子を殺していない」


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