表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

飴玉

「最悪だろ? 俺が間抜けなんだけど。ありえないだろ?」

 その夜、久しぶりに現れたマユに聖は愚痴った。

「四人の婆さんにつられて行列に並んだ俺が馬鹿だった。自分で蒔いた種なんだけどね」 


 山本マユは、工房を尋ねてくる途中、山で迷って、心臓発作で死んだ亡霊だ。

 その身体は山の生き物が食い尽くし、骨だけがある。

 家族は捜索願を出し、行方不明サイトに載っている。

 

 推理好きで、不定期に工房を訪れていた。


 初めは、美しい全身が見えたが次第に薄らいで、今は声だけの存在だ。

 聖にとっては唯一の友達。

 だから、山にマユの白骨が有る事を警察に届けていない。


「結局、支払ったのは四人分ね?」

 マユは芯から同情してるのか、

 声が震えてる。


「関係ないって言えないだろ? やり片が巧妙なんだよ。偶然相席になって、打ち解けて、俺が奢る流れになった。そう見えるように仕組まれたんだ」


 餅飯殿商店街での一部始終をマユに聞いてもらい、気が済んだ。

 

 明日から、遅れている鹿の剥製に取りかからなければいけない。

 行きずりの老婆の詐欺集団のことは、さっさと忘れよう。

 せっかくマユが来てくれたのに時間がもったいない。


「ねえ、何か見たい動画とかある? 」

 マユが見たいのを、自分も見たい。

 しかし、マユは


「セイ、そのお婆さん達、怖くないの?」

 と、さっきより震えた声で言う。

「何で?」

 騙された自分が間抜けと悔しかったが、老婆達に怖い印象は無かった。

 ……どうして、マユはこんなにも怯えているのだろう?

 

 聖は、手際よく騙された事が強烈すぎて、

 老婆達の左手が子供の手、人殺しの徴だったから、目に停まったのだと、うっかり忘れていたのだ。

 だから、マユにも、老婆達が人殺しだと話していない。

 人殺しの徴を見たのに、年老いた人達だから、罪は枯れて見えたのだ。


 老婆達は身なりからして貧しそうだった。

 

 うどん一杯ずつ、恵んであげたと思えばいいか。

 と、

 無意識に、貧しそうな老婆達に哀れみを感じていた。

 だから

 老婆達が四人から三人になっている怖さに、

 自分で喋ってるくせに気がつかないのだ。


 今宵のマユとの貴重な時間に比べたら、聖にとっては、老婆達は、どうでもいい存在だった。


「ゴメン、しょぼい話、して。たいした事じゃないんだ。そうそう、最後に呉れた飴玉がね、デカいんだ」

 ポケットに突っ込んでいた飴玉を出す。

 大きな飴玉を見たら、マユは笑ってくれるかもしれない。


「ほんとだ。すごく大きいのね」

「うん」

 直径二センチ。人間の眼球より大きい球だ。

「口の中が一杯になっちゃうね」

 マユは、笑ってくれた。


「……セイは今日、奈良公園に鹿を見に行って、不思議なお婆さん達と出会って一緒にカレーうどん食べて、お土産に大きな飴玉貰ったのね」

 と、ほのぼのした楽しい一日だったように、言ってくれた。


 聖は、とりあえず、何でもいいから(人気動画)を見ようとした。

 今日のニュースがついでに目に入る。


 (奈良公園で幼児不審死。貰った飴玉で窒息か)


 奈良公園、飴玉、

 直前の会話に重なってる。

 

 えっ、と聖とマユは同時に声を出した。


 亡くなったのは三歳の男児だ。

 夫婦と、その子、一家三人で大阪市内から遊びに来ていた。

 鹿にせんべいを食べさせている最中に、男児は苦しげに暴れ出した。

 両親は子供の口の中に大きな飴があるのを知らず、対応が遅れたと話しているらしい。


「可哀想に。親が知らない間に、誰かが飴を呉れたってことか」

「……セイ、大きな飴って、書いてあるね」

「うん」

 聖は、老婆達の手に人殺しの徴があったことを、ようやく思い出した。


「まさか」

 と大きな声が出てしまった。

「どうしたの?」

 マユの声も、さっきより大きい。


「……子供に飴をやったのが、あのお婆さん達かもって思ったんだ。同じ時刻に近くに居たし、大きな飴持ってたし、」

 ……それに、子供殺しの徴。

 言おうとしたが、言葉が途切れた。

 無頓着に幼い子供に与えた飴が凶器になり

 結果、子供を殺してしまったのかと瞬間想像したが、

 今日死んだ子は一人だ。

 四人の老婆にはそれぞれ、子供の手があった。

 四人の手で子どもの口に飴を入れたのか?


「ねえ、セイ。お婆さんが飴を持ち歩いてるのは珍しくないわよね。ドラマとかで見たから知ってる。電車やバスの中でお喋りしながら手提げ袋から、お菓子を出すの。セイだって知ってる筈よね。それなのに、偶然会った、お婆さん達と、死んだ子供を結びつけちゃったのは、何故?」

 ふわりと、白い煙のようなのが肩先で揺れた。

 マユは、この話に興味を持ち始めたのだ。


 聖は、四人の老婆が人殺しで、

 揃って子供を殺していると、話した。

「今、四人揃って、って言ったわね?」

「うん。そうなんだ。餅飯殿商店街であっちから来るのを見て驚いた」

「四人並んできたの? 間違いじゃないのね」

「うん」

「四人?」

「そうだよ、」

 と答えてから、途中から三人になっていたのだと、気付いた。

 ぎゅっと、心臓を何かに掴まれたような痛みが走る。


「私、さっき話を聞いたとき、それがとても怖かったの」

 ……今は聖も、怖い。


「よく、思い出してよ。いつ、一人居なくなったの?」

「うどん屋の前に並んでるときは、四人居たんだ。……一人だけ、別の席に座ったのかな。相席になった誰かに支払いされる為に」

 と、なるべく怖くない方向に推理してみる。


「それは無理よ。うどん屋でしょう。客の回転は速い。相席は予測不可能」

「そうだよな。じゃあ、四人目は忽然と消えたのか」


 石油ストーブ二台燃えている工房は暑いくらいなのに。

 聖はだんだん、背中の辺りがゾワゾワしてきた。

 身体から力が抜けて青ざめているのが自分で分かる。


「子供殺しの四人のお婆さんが三人になった。三人のうち一人は大きな飴を持っていた。これが事実ね」

 反対にマユは活気づいている。

「そして奈良公園で大きな飴を詰まらせて子供が死んだ。お婆さん達は、奈良公園に行くとか、行って来たとか、話していなかった?」

「……そういう話はしていなかった。次の予定は喋ってたけど。動物園とか公園とか。でも、奈良公園の帰りじゃないと思う。逆から歩いてきたから」

「商店街をウロウロしてたかも」

「うどん屋が目当てだったみたいだった。目立つ看板だったから、一度でも前を通ったらわかるよ。俺みたいに、人の顔見ないで足下見て歩いてない限り。うどん屋の看板を初めて見つけた雰囲気だったから、あの通りに来たのも初めてだったと思うよ」

「じゃあ、うどん屋を出た後で奈良公園に行ったかもしれない。男の子が死んだのは何時?」


 地方版の詳しい記事を探す。

 午後三時頃、と書いてある。

 

 聖がうどん屋を出たのは二時過ぎだ。

 少し前に店を出た老婆達は奈良公園に二時半に行ける。

 が、そんな事より、驚くべき事が書いてあった。


 過去半年の間に、同様の事故が京都、神戸、大阪で三件起きていた。

 被害者は二歳から四歳の幼児

 保護者が知らない間に、誰かに貰った大きな飴玉を喉に詰まらせて、死亡している。


「セイ、これって、三件の事故も、小さな子供に誰かが大きな飴をあげたのが原因? セイに飴をくれたお婆さんが、奈良公園で、通りすがりの可愛い子供の手に飴を載せてあげて、運悪く、その子が死んだとしたら……」

 京都、神戸、大阪なら、餅飯殿商店街から二時間以内。

 老婆達が移動して不思議でない範囲だ。

 

 マユは、他の三件の事故も、聖の出会った婆さん達かも知れないと言いたいのだ。

「四件目でしょ。警察も調べてるわ。大きな飴が、唯一の物的証拠ね」

 そうなのだ。

 と、パソコンデスクの端に置いた水色の飴に目をやると、

 シロがこっそり舐めていた。


「食うな、喉につっかえて、死ぬぞ」

 慌ててネチャネチャしてるのを手に取った。


「俺、この飴持って、警察に行くよ。死んだ子の喉にあった飴と同じなら、後は警察が動いてくれる。違う飴なら、婆さん達は関係無い、ってことだよね?」

 それで全てはっきりするし、

 この先の事故も食い止められる。

 聖は、今までに分かった情報から自分が為すべきコトをはじき出した。


 しかし、マユは反対した。

「そんな事したら、セイが捕まっちゃうよ。奈良公園で死んだ子の飴と、同じのを持って行って、知らないお婆さん達に貰いました、って言うの? 簡単に信じて貰えないよ。犯人にされるかも。もし違う飴だったら、どんなややこしい展開になるのか考えたくも無いわ」

 そうなのか?

 じゃあ、どうしたらいい?

 聖は怖いやら不安やらで困惑しているのに、マユは

「分からない事が多すぎる。だから、もう一度お婆さん達に会うのよ。次の予定を喋ってたんでしょ。だから、セイ、もう一度会えるじゃない」

 と、明るい調子だ。


「無理だよ」

 老婆達の会話を思い出す。

「連休の最終日、串カツ、動物園、公園。たったこれだけ」

 諦めて呉れると思ったのに、

 マユは喜々として

「凄いわ。それだけ分かったら充分よ。……次の連休の最終日ってコトは11月23日ね。。そして動物園と公園の近くで串カツ。それなら、通天閣の近くじゃないの」

 と決めつける。

 言う口が生身の美女なら撥ね付けたいが、幽霊のマユには、きっと自分に分からないコトも分かるのだと、信頼している。

 成る程、と納得する。

 でも、

「俺は、11月23日の昼時に、何件かある串カツやの前を行ったり来たりして、婆さん達を探して、密かに尾行する、訳?」

「そうよ」

 きっぱり言われても、現実的に不可能だ。


「連休で、すごい人だろ。俺、自信ない」

 期待を裏切るだろうと言ってみた。


「セイ、シロを連れて行けばいいじゃない。未練たっぷりに、飴を見つめて、涎垂らしてる。きっと、飴を探し出してくれるわよ」

 本当だ。

 シロは静かに側に居て、聖が右手で握った飴に鼻をくっつけ、

 涎を垂れている。

 飴は、ほのかにニッキの香りがした。

 犬の温かい舌で舐めたので香りがキツくなったのだ。


「お前、こんなのが好きなんだ」 

 シロは、聖の車に乗って都会へ行き、散歩するのを知ったように、

 嬉しそうに、短く鳴いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ