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餅飯殿

 あんまり人が多いと、

 案外、俯いて自分の足だけ見て歩ける。

 流れに付いていけばいいのだから。

 聖は、目的地に辿りつくまで

 すれ違う人の手を見なくて済んだ。


 桜とイチョウが金色の葉っぱをたっぷり付けている。

 晴天の下に浮き出て見えた。

 真っ赤な紅葉がちらほら混じっているのも綺麗だ。


 鹿はいっぱい、居た。

 広々とした公園内を優雅に歩いている。


 大仏殿を目指して舗道を流れる人の波を眺めてもいる。


 少し離れた場所で、鹿せんべいを売っていて、数頭が群がっていた。


 聖は舗道から公園に入った。

 十メートルほど先に桜の大木がある。

 スケッチ場所に丁度いい。


 つま先歩きで一歩ずつ、なるべく糞を踏まないようにいく。

 

 スケッチブックを広げると、若い鹿が寄ってきた。

 紙が好きなようで、喰いにきたらしい。

 全く無警戒。

 かわいらしい、メスだ。

 触っても逃げない。

 嬉しくて、その子にかまっていた。

 周りに居た大きな鹿の動きに注意を払って居なかった。


 周囲に鹿が集まってる気配に気がついた時は

 手遅れだった。

 大きな角を切られたばかりのような牡鹿、

 バンビ、と呼びたくなる華奢な子鹿、

 数匹が、白い紙を欲しがって群がっていた。


 少しも人間を恐れていない。

 つまり見くびっている。

 機嫌を損ねたら襲われそうだ。


 聖は脅威を感じて、

 スケッチブックを鹿達に与えて、逃げた。


 目的は達した。

 スケッチは出来なかったけど

 鹿に触って体温やら吐息を知って

 生き生きとした剥製を作れる。

 作れると分かったら、早く作りたい。


 小走りで人混みを縫うように来た道を戻った。

 20分で駐車場に着く、筈だった。


「あれ。道、俺、間違えた?」

 行き交う人の、手を見ないように

 自分の足を見て、さっさと歩いていたが

 明らかに行きと違う商店街の雰囲気に足がとまる。


「ここって、もちいどの商店街?」

 間違って、餅飯殿商店街に入っていた。

 

 子供の時に

 明石焼きを食べた。(奈良なのに何故か明石焼き、だった)

 七五三の着物と草履を買いに来た覚えもある。


 聖はスマホで、駐車場までの近道を検索した。

 大丈夫、5分で行ける。

 安心して顔を上げた。

 

 行き交う人の手を見てはいけないのを失念していた。


 四人のお婆さんが、そぞろ歩いてくる。

 七十代後半から八十代。

 横一列並びで、近づいてくる。


 怪しげな感じは無い。

 視界に入っても気にならなかった。

 それで、目を伏せなかった。


 次の瞬間、四人の左手が極端に小さいのを見てしまった。


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