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奈良公園

 神流聖は奈良県の山奥で剥製屋をしている。

 

 27才にしては肌が綺麗。

 横に長い大きな目が特徴的な、端整な顔立ちをしている。

 178センチと長身。特に身体を鍛えてはいないのに筋肉はそこそこある。

 愛犬シロと山歩きをしたり、工房の周りの木を伐採して薪を作ったり毎日しているからだ。

 外で過ごす時間が案外多い。

 でも白い顔をしている。

 大木の影の狭いエリアでしか活動しないからだ。


 聖は焼却炉に薪をくべ、鹿の中身を燃やしていた。


 黄昏時で、昼間の獣たちと、

 夜行性のが混在して、一日のうちで森が一番ざわつく時間帯だった。


「なあ、シロ、夜明けに鹿が来ると思うか?」

 今朝から何度も同じ質問をしている。

 相手が犬でなかったら、しつこいと嫌がられるほど、何度も。

 相手が犬でも困った顔くらいにはなっていた。


 聖は、受けた<鹿>の仕事に頭を悩ませていた。

 鹿なんか、川で見慣れている、と軽く考えて引き受けた。

 ところが、実際完成像をイメージしようとしたら、

 描けない。

 何でだろう?


 暫く思案して、

「あいつら、俺を見たら、さっと逃げるんだ」

 つまり、

 あ、鹿、と気付いた瞬間は

 鹿の方でも

「あ、にんげんだ」

 と気付いて、逃げていく。


「シロ、俺がイメージ出来るのは、静止してる姿と、後ろ姿だけなんだ。わかるか? 丸い尻に短いしっぽ。それだけなら生き生きと再現できそうなんだけどな」



 鹿の動画を見て作れないこともない。


 でも、そう遠くない場所に、人間を見ても逃げ出さない鹿が沢山いる。

 そこへスケッチブックを持って行けば良い。


 行くしか無いと諦めてるが、人混みに行くのが嫌なのだ。


「クワン」

 とシロが頬を舐める。

 シロは連れて行けない。

 鹿が逃げちゃう。


 翌日、聖は奈良公園を訪れた。

 人と接触したくないから車で行った。

 同じ県に住んでいながら、自分で車を運転して奈良市街に来たのは初めてだった。

 

 公園内の駐車場を使おうと勝手に思っていた。

 平日だから空いてると。


 考えが甘かったと行き着くまでの渋滞と、観光客の多さで気付いた。


 結局、JR奈良駅近くのコインパーキングから、随分歩くことになった。


 幼い頃に大仏を見に、鹿が居るエリアには何度か来た。


 亡き父は奈良の大仏、正確には東大寺の大仏が好きだったらしい。


 息子が、人殺しの手が殺した人の手に見えると知ってから

 人通りのある道を避け、多分、若草山の裏を通った。


 奈良県を縦に走る二本の国道を走れば一時間で行ける距離を

 倍の時間をかけてまで、行ったのだ。


 同じ道を考えたが、時間のロスは性分に合わない。

 

 そんな事情でJR奈良駅から近鉄奈良駅、そして東へ、鹿を求めて歩くことになった。


 奈良県庁を左に見て、右に国立博物館。その辺りを鹿の観察場所と決める。


 どこもかしこも、外国人の観光客で人が溢れかえっていた。


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