十話 【険しき道中】
闘技会次の朝、まとめた荷物を馬車に詰め込んでいた。
と、言っても大した量はない。必要最低限のみ。
ヴェニットはこれから悪魔族の元へ赴き鎌を習うのだ。
「ヴェニット、気をつけていってらっしゃいね」
「うん、行ってくるよ」
見送りは母親のみ、校長には出発した後にみんなに伝えてもらうようにお願いした。
馬車に乗り込むとそこには一人の男がいた。
そういえば校長が護衛をつけてくれたんだっけな
失礼のないようにしないと
「やあ、君がヴェニット君だね。話は聞いているよ。僕はソール、宜しくね」
「はい!道中の護衛、お願いしますね」
「ん?道中だけじゃないよ。君が修業する間もずっとだ」
「そうなんですか?」
「ああ、そうさ君は宿の取り方や稼ぎ方も知らないだろ?」
「そういう事ですか、ではではお願いしますね」
「おし、じゃあ出発しようか!」
「はい!」
まずはマッドレインに向かう。
そこから悪魔族の連絡班に接触し村に案内してもらうという流れだ。
そういえばやり残した事が沢山ある。
フィエスタに魔法を教えてない
エルフィンと今度、魔法具を見に行こうと思っていた
カリーロと一緒にテレク先輩達にリベンジも果たせていない
でもそれは帰ってからでも大丈夫だろう
何も急ぐ必要はない
馬車が出発する。
ここからは長い旅路だ。
いつ戻れるだろうか
「あのー1つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「悪魔族の居る場所って魔族の領土ですよね?安全なんですか?」
「ああ、それなら心配いらないよ。だって今はあの地域は中立を宣言したからね」
なるほど中立か
どうりで母親や校長が平気で行かせるわけだ
それからしばらくするとソールが何か気づいたようだ。
「モンスターがいる、気をつけて」
「え、モンスター?」
「凶暴化した生物の事であまりに獰猛だから動物と区別した種だよ。人も襲われる」
「だ、大丈夫なんですか?」
「幸い大したことないモンスターだけみたいだ。どうやらあの池から湧いてるね。あとでかい角があるカエルがポイズンフロッグ、名前の通り毒があるから気をつけて。さぁ行くよ!」
「行くって何処にですか!?」
「戦うに決まってるだろ、君は初めてモンスターを見るようだから慣れておいた方がいいからね」
「俺、大丈夫ですかね?」
「大丈夫。危なくなったらすぐに逃げてもいいからさ」
「わかりました…」
ソールと一緒に馬車から飛び出す。
モンスターはポイズンフロッグが3体いるだけだ。
ポイズンフロッグはこちらに気が付くと角を向けて突進を始める。
少し速いがまっすぐにしか進めないようだ。
これならいける!
一歩横に飛び退きすれ違いざまに鎌を切りつける。
真っ二つになったポイズンフロッグが勢いのまま数メートル後ろで紫色の飛沫を上げる。
あれが毒かひどい腐臭だなぁ
ソールに目をやると両方の手に剣を携え、ちょうど残りの2体を片付け終わった様子だ。
「やぁ大丈夫だった?」
「あ、なんとか」
「なんだい随分余裕そうじゃないか、頼もしいね。これからもっとモンスターが増えるし手強くなってくるから気を抜かずにね」
「はい!頑張ります」
「あ、そうそうポイズンフロッグの角は割りと売れるから取っておこうか」
剥ぎ取りを終え馬車に戻る。
初めてのモンスターで疲れたのですぐに寝てしまった。
そんなモンスターの襲撃もありつつ二週間が経った。
中継点らしい小さな町に到着し手頃な買い物を済ますと青い顔をしたソールが飛んできた。
「た、大変だヴェニット君!」
「どうしたんですか?そんなに急いで」
「君の実家のあるサンタリア王国が…魔族の軍隊に襲撃された!人間と魔族の戦争がまた始まったんだ――」




