黄身をご所望ですか?
はじめまして。私、リリー・クリスティアと申します。
家は、それなりに歴史のある男爵家ではありますが、とても小さく裕福な商家と同程度といったところでしょうか。食べるのに困ったことはございません。周りも良い人に恵まれており、たいへん幸せな毎日を過ごしております。
近頃の悩み事といえぱ、そうですね…。一週間後に迫った友人の誕生日プレゼントでしょうか。昔から親しくしていただいている方なのですが、何が欲しいのかわからずに困っているのです。ここはやはり、本人に聞くのが一番でしょうね。そうと決まれば、早速聞きにいきましょう!
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「リリー?」
「ユーリ!」
誰かと話をしていたので声をかけるのを躊躇っていたところ、私に気づいたのか話を打ち切ってこちらへ来てくれました。お相手の方はよろしいのでしょうか?
「こんなところに来るなんて、何かあったのか?」
と心配そうに聞いてくるのは、私の幼なじみであるユーリウス・グレイです。綺麗な金色の髪に蒼い目、整った顔立ちで私のような者が隣にいるのも申し訳なくなるほどの美形さんです。それに加えて、公爵家の長男であり、性格は優しく頭脳明晰、剣を持てば騎士団長でさえも倒してしまうというチートぶり。本当に、羨ましいです。
「リリー?聞こえてるか?」
あぁ、いけません。うっかり考えこんでいたみたいです。
「すみません、大丈夫です。少し考え事をしていました。」と素直に答えると、
「何か悩みがあるなら、俺でよければ相談にのるぞ?」と言ってくれました。やっぱり優しいですね。
「それでは、今度の誕生日に、ユーリが欲しいものを教えてくれませんか?できる範囲のものなら何でも用意しますので」
「何でも…か?」
「はい、私があげられるものであれば、ですが」
まぁ、男爵家の私があげられるものなど、公爵家のユーリにとってはいつでも手に入れられるものなのでしょうが。
「本当に、何でもいいんだよな?」と真剣な表情で聞いてきます。
もちろんです。信用されてないのかもしれませんが、私とて大切な友人に望むものを贈りたいという気持ちはあります。
「えぇ。もちろん。」
「そうか。ならば……きみが欲しい。」
黄身?卵の黄身ですか?
「そんなものでよろしいのですか?」
「ああ。きみ以外は何も要らない。だから…」
まぁ!ユーリは卵黄が好きだったのですね!しかも卵白は要らないという…贅沢な方ですね、まったく。ですが、それくらいなら私にでもあげることができます!
「わかりました!どれくらい欲しいのですか?」
「…全部、欲しい。」
全部!?それは世界中の黄身が欲しいという意味なのでしょうか?
「全部…は厳しいかもしれません、が、満足させられるように頑張ってみますね!」
そうと決まれば、早速家に帰って準備をしなければ!
「それでは、私は用意をしてきますね!楽しみに待っていてください!」
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それからというもの、私、頑張りました。
流石に世界中というのは無理でしたが、領土内の卵は皆さんにお願いして全てこちらで買い取らせていただきました。
皆さん、最初は不思議そうな顔をされておりましたが、事情を説明すると苦笑しながらも快く売ってくださいました。
そして迎えた誕生日。流石に卵黄だけというのは後処理に困るだろうということで卵のまま、馬車に積んでユーリの屋敷へ向かいました。ちなみに、集まった数は、おおよそ300個。これだけあれば、きっと満足してもらえることでしょう。
コンコン、とノックをすると執事さんが出てきました。
「これはこれは、リリー様。中でユーリウス様がお待ちです。」
一瞬、後ろの多くの馬車をみて不思議そうに首を傾げていらっしゃいましたが、すぐにかしこまって私にそう伝えてくれました。きっとこんなにも多く集められるとは思っていなかったのでしょうね。
「わかりましたわ。」
と答えて後に続きます。客間に入ると、ユーリは何故か部屋の中をしきりに歩いていました。これはユーリの緊張しているときの癖なのです。誕生日だからでしょうか?もうそんな歳でもないでしょうに。
「ユーリ、お誕生日おめでとうございます。」
「!リリー!あ、ああ、ありがとう。」
私が声をかけると、より一層落ち着きがなくなりました。そんなにも黄身が好きなのでしょうか?
「プレゼントを差し上げたいのですが、ついてきてくださいますか?」
流石に、あれだけの量の卵を家の中に入れるのはむずかしいですからね。
「あぁ、もちろんだ」
と何か覚悟を決めたような顔をしたユーリは私の前を歩いていぎます。ってあれ?
「ユーリ、そちらではありませんよ?」
「えっ?」
何故かユーリは自室のほうへ行こうとしていました。おかしいですね?
「こちらです」と手を引いて馬車をとめてあるほうへ向かいます。
「まさか、どこか外でするつもりか?いや、しかし…?」
と後ろから呟く声が聞こえます。どうしたのでしょうか…。
と、目的地にたどり着きました。
「さぁ、見てください、ユーリ!これほどあれば満足でしょう?」
少し勝ち誇ったように馬車おおよそ三台分の卵を見せつけます。あまりの量にユーリも唖然としています。やりました!きっと喜んでくれるはずです!
「これは、いったい…?」
「プレゼントです!黄身がほしい、とおっしゃっていたでしょう?さすがに世界中全てというのは無理でしたが…。領土内のものは全て集めましたよ!」
これらを集めるのにどれだけ苦労したことでしょうか。しかし、そんな私の期待とは裏腹に、一向にユーリは喜んでくれません。固まったままです。
「これじゃ、足りませんでしたか?」
恐る恐る聞いてみます。すると、ユーリははっとした様子で、
「まだ、足りないな」と言ってきました。
むぅ。意地悪です。これ以上はさすがに集められません。
「…そうですか…、ごめんなさい。でも、これでも頑張ったのですよ?何か他に欲しいものがあれば、今すぐ用意出来るものならしますけど…」
「あぁ。これじゃないきみが欲しい。」
また黄身ですか?無理だと言ってますのに、もう。
「ちゃんと話を聞いてましたか?」と少しむくれて言います。
「大丈夫だ。もう目の前にあるやつをいただくだけだから。リリーさえ許可を出してくれれば。」
「?もちろん、私があげられるものであれば、よろしいのですが」
「…そこまで言ったからには、もう、逃がさないからな。」
その後、何故かユーリの部屋まで連れて行かれて、そのままおいしくいただかれてしまいました。やっと帰れたのは3日後で、会う人全ての方にグレイ嬢、と呼ばれ、また3日後にはユーリの家に荷物全てと一緒に送り出されました。
そして一年後、初めて私とユーリが結婚していたことを知りました。どうしてこうのったのでしょうか…?でもまあ、幸せなので構いません。
ちなみに、あの大量の卵はあのあとのパーティで皆さんをお招きして全ていただきました。そういえば、あのとき皆さんにおめでとう、と言われたのはどうしてでしたのでしょうね?




