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彼女はサンタクロース?  作者: 神谷優
4/12

4話

 何だかよく分からない展開となってしまっていた。結局話は、サンタクロースの存在を前提として進んでしまってるし。


 でもまぁ、その話の根源であるユイは出ていってしまったし、もう気にすることはないように思う。おそらくユイも家に帰ったんだろう。俺は立ち上がって風呂の用意を始めた。


 小さな風呂の浴槽に湯を張り、もうすぐ入ろうかという頃だ。ユイは帰ってきた。変わったことは、手にコンビニの袋を抱えていたことである。


「ただいま」


 と、さも当たり前のように言うので、俺は「お、おかえり……」とつい返してしまった。


 

 わりとすぐ帰ってきてしまったユイは、再び居間にある足の低いテーブルのそばに座り込んだ。


「?」


 俺にはどういうつもりか分からない。しばらく様子を見ていた。

 ユイはコンビニの袋から何かを取り出す。それは履歴書だった。


「……」


 買ってきた履歴書に、何やら一生懸命書き込んでいるユイ。こそっと覗いてみると、これはまた内容は酷かった。

 まず名前はユイだけである。学歴は海外にあるような学校名だ。それも計算すると、同じ学校に十年はとどまっていたようだ。そんなに留年したのか。


 志望理由は、サンタクロースになるためとか書いてるし、笑うしかない。郷を煮やした俺はユイを止めた。


「待て待て。お前はそれをどうするつもりだ?」

「どうって。働くため。あなたがお金がほしいって言ったんじゃない」


 うん。確かに言った。でもあの流れだと、まさかコツコツ働いて貯めるとは思わないじゃないか。


「こう……サンタクロースならポンッと出すのかと思ったんだけどな」

「そんなことできるわけないでしょ」


 まるで俺が痛い子みたいじゃないか。そりゃ金がポンッと出たらおかしいよな。ファンタジーだよな。けどそんなファンタジックなことは、そもそもお前が言い出したんだぞ。

 言った。俺は心の中で盛大に言ってやった。


「ていうかそんな履歴書だと何処も雇ってくれないぞ。それにまぁ金は冗談だ。多分一番じゃないし」

「なにそれ。じゃあ一番は何よ?」


 自分が買ってきた履歴書は無駄だと知るや、ユイは呆れたようなそんな顔をしていた。


「欲しいもんならいっぱいあるけど、一番と言われると決まらないしなぁ」

「そ、じゃあ、あなたのそばにいて見定めさせてもらうから」

「ちょっと待った。それはもしかして此処に住むとかそんなオチじゃないよな」


 願うように尋ねた答えは、俺の希望を悉く打ち砕きやがった。


「当然じゃない。私サンタクロースになりたいもの」

「……」


 可愛い娘との同棲は嬉しいけど、今はそんなこと言ってられない。金はどうなる。食費は二人分になるだろう。ただでさえ狭いこの部屋にもう一人増えるのか、寝にくいったらありゃしない。


「あぁ、布団は一人分しかないから。一緒に寝ることになるぞ」

「ならあなたは玄関で寝て」

「ごめんなさい。頑張れば何とか二人分があります」


 くそっ。何て容赦のない女だ。つーか、此処元々俺の部屋なんだけどな。いつの間にこんな上下関係が出来てしまったんだ。

 何処か納得仕切れない俺は、どうにか打破出来ないかと粘った。


「俺がそれを一番って言ったら?」

「却下」


やっぱり無理だった。せめてもう少し考えてくれてもいいんじゃないかと思う。そんなことを申し出たら、ユイが恥ずかしいようなことは全部却下らしかった。



「じゃあよろしく」


 ユイが右手をさし伸ばしてくる。俺もそれに応えた。


「ああよろしく」


 座った者同士、テーブルを挟んでの握手は何とも奇妙な気がした。いやそれは仕方ないのかもしれない。サンタクロースを目指すユイとの奇妙な生活が始まるのだから。


「あ、そういえばあなたの名前は?」

「ぶっ…! お前知らないのかよ。せめて調べてから此処に来いよな」

「む、別にいいでしょ」


 ユイはうっすら頬を赤らめて、小さく反論する。こういう仕草は、悔しいがやっぱり可愛いんだよな。


「俺は氷野誠一(ひのせいいち)だよ。氷に野原の野に、誠意の誠に一で氷野誠一だ」

「分かった。じゃあよろしく誠一君」

「あぁ」


 かくして、苦学生の借り部屋に居候が住み着いたのだった。

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