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彼女はサンタクロース?  作者: 神谷優
3/12

3話

「じゃあいくよ」


 さらにクルッと回る。今度は見逃すまいと、手品のタネを見破るように見つめた。だが、あまりにも一瞬の変わり様は、タネも仕掛けもないように思えた。


「ぐ、もう一回」


 人指し指を立てて、挑戦状を叩き付けた。


「いいよ」


 とユイは満足気だった。俺が信じ始めてしまっているのが心底嬉しいのだろう。しかし、まだ信じきってはいない。断じてだ。


「ぐ……」


 しかしどれだけ注意深く見ても意味がなかった。やはり仕掛けが分からない。こいつは本当に本当なのかという疑念も、少しずつ確信に近付いていた。もはや、見破るのは不可能だと思った俺だが、まだ続ける。今や目的は別のものへと変わっていた。


「もう一回」

「まだやるの? いい加減認めてよね」


 満足気だったユイもそろそろうんざりしてきたようだ。だが、まだ諦めない。俺はいよいよ携帯のカメラを用い始めた。


「なにそれ?」

「いいからいいから」


 首をかしげるユイだったが、続けてくれていた。ありがたい。俺のよからぬ期待に応えてくれたらなおいいのだが。


「むぅ……」


 携帯のカメラ機能ではダメか。しかしまともなカメラなんて持ってないし。もしビデオで撮ってスローにしてみたらどうだろうかと、俺は思考を働かせていた。


「ねぇ、そろそろいい? 私さすがに疲れちゃった」


 そう言ってユイは止めようとする。それは断じて阻止したかった。


「いやそれはダメだ。俺は諦めない。もしかしたら写るかもしれないんだ」

「……何がよ?」

「何ってそりゃ胸とかいろい……」


 俺は馬鹿だった。つい口が滑った。しまったと思った頃には全てが終わっていた。


「……なにそれ」


 気のせいかダークなオーラがユイの背後、いやユイ自身から溢れていた。それはもう恐ろしく感じた。


「ああぁ…、いやいや違う。そうじゃない。誰も裸が写真に写るかもなん……あ、いやそうでもなくて……」

「この変態! サイテー!」


 顔を真っ赤にして叫ぶユイ。


「…!?」


 瞬間、俺は引っ叩かれていた。あまりの速さに避けるは叶わず、あまりの力強さに吹っ飛んでしまう。それが、一発では収まらなかった。



「ごめん。悪かったよ」


 手の跡が両頬にくっきりとついた俺は正座していた。まだヒリヒリして頬が痛い。明日になっても残っていないことを祈ろう。


「こんな変態だったなんて」


 と、ユイは俺から少し離れたところでブツブツ言っていた。怒ってしまった私服姿のユイは、鍋も料理も、俺が確保した小皿も片付けてしまっていた。


 俺が変態なら、お前は狂暴だと訴えたかった。初見の可愛らしさはどこに行ったのか。化けの皮が剥がれたら鬼か何かじゃないか。とはまぁ言えないけど。


「あのさ。まぁサンタクロースの存在は百歩譲って信じよう。それに君もサンタクロースなのも万歩譲って信じる。でも何で俺の部屋にいたんだ?」

「何で万歩もなのよ。私はお祖父ちゃんを継ぐために来たの」

「どういう意味かさっぱりだ」


 すると、ユイはこちらに顔だけを向けた。


「私はね。人間じゃないの。いわば精霊みたいなものかな」


 狂暴な精霊がいたもんだなと、俺はそんなことを考えてしまう。まだ痛いからな。


「私みたいなのは他にもいっぱいいて、本当のサンタクロースになろうと頑張ってるの。いわばリーダーみたいなもんかな。そのリーダーになろうと皆必死なの。サンタクロースは家系で継ぐとかならいいのに、どれだけ優秀かで決まってしまうから。」

「それは一人だけなのか? だとすると凄い競争率だな」

「うん。私はお祖父ちゃんの跡を継ぎたい。でもそう簡単にはいかないの。試験で決まるから」


 まるで受験生だなと思った。サンタクロースになるのも楽じゃなかったようだ。


「それで試験のために此処に来たというわけ」

「ストップ。いきなり話が飛んだぞ。試験があるのは分かった。だが試験と此処に来たことは関係ないだろう」

「関係あるわよ。試験は、各自に指定された人間に贈り物をすること」

「ん? じゃあ何かくれるのか?」

「そうなんだけど。ただ単にあげればいいってもんじゃないのよ。その人が一番求めているものをあげないと。まぁそれは物とは限らないみたいけど」


 なるほどね。だからご飯を作ってくれたわけか。帰ってきたときにご飯が用意してあって、おかえりなさいなんていうシチュエーションは、確かに俺は望んでいたかもな。


「で? これじゃダメなのか」

「みたい。何も起きなかったし。ねぇ何か欲しいのある?」


 こうやって直接聞き出すのはありなのかと疑問に思うが。欲しいいものねぇ……。


「やっぱ金かな」

「……」


 あ~、目が据わった。まぁそりゃなんか清く綺麗な願いじゃないけどさ。実際、苦学性には金はいるんだって。


「分かった。何とか用意する」

「あ、あぁ……」


 そう言ってユイは立ち上がって外へ出て行ってしまった。


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