2話
「ふ~ん……」
そして俺は黙々と鍋をつっつく。
「ふ~ん……じゃないの! あのサンタクロースだよ。本物なのよ! 驚かないの!?」
俺の反応が単調だったから気に入らないのか、自称サンタクロースのユイと名乗る少女は頬を膨らませていた。そして鍋の乗ったテーブルをバンバンと叩いていた。
「いや、だって嘘だろ……」
「嘘じゃないもん! ホントだもん!」
ムキになってユイは怒った。だが、ちっとも怖くない。むしろ可愛く見えるのは俺の気のせいか。
だが、どう考えてもそれは嘘だと思う。
「いやサンタクロースって白い髭を生やした、じいさんだろ? そもそもサンタクロースなんて実在しないだろうが」
「分かってないのね。サンタクロースって実在するのよ」
こいつ、可愛い顔して料理もうまいくせに、サンタクロースの存在を肯定しやがった。
「アホか。そんな迷信いつまで信じてるんだ。ガキじゃあるまいし」
「ガキじゃないわよ! けどサンタクロースはいるんだから! 私のお祖父ちゃんなんだから!」
「……は?」
今この娘は何を言った? サンタクロースがお祖父ちゃん?
するとこの娘はサンタクロースの孫娘か。いやいやいや、ありえねぇだろ……。
「そんなわけわからん言い訳はいい。どーせ空き巣か……いや普通帰ってくるまで待たないよな。じゃあ家出かなんかだろ。正直俺には何もできないぞ。おとなしく家に帰った方が身のためだ」
「もう何で信じないのよ!」
「信じられるか馬鹿。そんなに言うなら証拠見せろ」
そう俺が追求したところ、ユイは困るだろうと思った。が、わかったと言って、ユイは何かを取り出した。
「何だこれ?」
渡されたのはよく分からないものだった。小さく赤い紙一枚に、白い文字が書かれていた。
『世界贈物配達局 2513684号 ユイ』
「何って、身分証明書」
大真面目に言うもんだから、俺は呆気に取られた。はっきり言って嘘くさい。こんなの信じろって言う方が無理だ。
「悪いな。信じられない。こんな子供でも作れそうなもん見せられても無理がある」
「むぅ……。じゃあどうしたら信じてくれる?」
いそいそと、取り出した身分証明書(?)をユイはポケットにしまい込む。そして訊いてきた。どうやらどうしてもこの嘘を続けるらしい。
「そうだな。お前がサンタクロースだって言うなら、ソリに乗って、空でも飛んだら信じてやろう」
「うっ……」
うっ……って確かに言ったぞ今。やっぱ嘘なんだな。
「何だ? やっぱり出来ないんだろ? そんなファンタジーな嘘をつくもんじゃない。一つ賢くなって良かったじゃないか」
すると、ユイは俺を睨んできた。さすがに、これにはたじろいでしまった。
「そんなの……まだ出来ない」
まだってことはそのうち出来るようになる。そんな意味になってしまうことをこの娘は分かっているのだろうか。そう考えていると、ユイは顔を伏せてしまった。そして、テーブルの上にポタポタと水滴が現れた。
「え? ちょっ……」
動揺した。俺が泣かせてしまったのだろうか。きつく言い過ぎてしまったのかと、俺はあたふたとただ慌てた。どうすることも出来なかった。
「わ、悪かった。ごめん、言い過ぎた。そんなに本当のことを言うのが嫌だなんて思わなかったんだよ」
「ホントだもん!」
はっきりとユイは強く言った。本当のことを言っている。その意思をユイは堅く貫き通していた。
「じ、じゃあ信じるよ」
「本当に信じてない!」
口先だけの「信じる」ではユイは納得できないようだった。とは言っても、心の底から信じるなんてやはり無理があった。
「じゃあ君が何かできることはないか? 俺が信じられるような凄いこと」
「えと……うんわかった」
そう言ってユイは立ち上がった。ぐしぐしと涙を拭いて。とりあえず泣き止んだようで俺は安心した。
「…!?」
次の瞬間、ユイは何と街で見た女の子と同じように、サンタの格好をしていたのだ。いきなり服装が変わっていることに驚く。
ほっとしていた俺は、あまりユイを注視していなかったのだ。おかげで、今何が起きたのか全く分からない。
「え、え?」
本当にそれは一瞬だった。一秒がそこらのはずだ。それなのに、さっきまで普通の私服だったのにユイは着替えていた。いくら早着替えが得意だと言ってもこれはいくらなんでも無理なはずだ。
「驚いた? すぐに仕事着になれるの」
さっきまでとは打って変わって勝ち誇った表情をしていた。
「悪い。もう一回やってくれ」
どうにも信じられない俺は頼んだ。ユイは軽々しくいいよとうなづく。そしてクルッと回った。そしてその一瞬のうちに、またさっきまでの私服へチェンジしていた。




