12話
大学が冬休みに入った。ちょうど良かったと思う。何にもやる気が起きない。家に篭りっぱなしだった。気に掛けてくれた仲村や西岡の誘いも、全部断った。
ユイが消えてから数日過ぎた。忘れるなんて出来ないし、そんな気は毛頭ない。
年末に差し掛かり、去年までなら帰郷の準備とか色々忙しいはずだったのに、俺は何にも手をつけていなかった。
昼近くになっても、布団から出る気にはなれない。自分でも分かってる。こんな生活は何の意味もない。下手すれば、ユイに笑われるかもしれない。でも、俺にはどうすればいいか分からなかった。
「くそっ!?」
うずくまる布団の中、寝返りをした時だ。
「誠一君……」
「…!?」
布団を跳ねのけて、起き上がる。聞こえた。確かに聞こえた。聞き間違えるはずがない。ユイだ。
急がないと。何を思ったのか、自分でも分からない。でも確かに聞こえたんだ。ユイだという確信があった。防寒だけをしっかり着込んで、俺は外へ飛び出した。
走り出してから気付く。自分が一体何処に向かっているのか。あの日、ユイを見付けた公園だった。
「ハァ、ハァ……」
せめて自転車くらい直しとけば良かったと自分を呪った。けど今はもう走るしかない。少しでも速く、より早く、俺は足を動かした。
公園に到着して膝を折る。此処に違いないんだ。あとはこの広い公園のどっかに……。
限界に来ていた体が悲鳴を上げる。それでも俺は、必死に見渡して探す。
「もっと奥か」
近くには見当たらない。ならと、少し休めた体を無理矢理動かす。中央の広場にもいない。ベンチにもいない。
さっきのは俺の幻聴だったのか。焦燥感に駆られた俺は内心自分を嘲笑った。いよいよ自分がやばいところまで来ているのかもしれない。そんな時、噴水のとこに人影が見えた。
まさか……。いや遠くではあるが、きっと間違いない。
「ユイ……?」
「……誠一、君?」
既に時期は終わったというのに、ユイはサンタクロースの格好をしていた。
「……なん、だよ。帰って……きたのか」
変わってない。ユイに会えただけで嬉し涙が出てきた。俺はぎゅっとユイを抱き締めた。
「痛いよ、誠一君。帰ってきたんじゃなくて、勘当されちゃって……」
「は? 勘当?」
一体どういうことなのか。俺はユイの両肩に手を置いてその先を促した。
「うん……。お祖父ちゃんに言われたの。あの様は何なんだ。一番の望みをそれとなく贈るはずが、言わせてどういうつもりだ。お前はしばらくそっちで修業しろって……」
「サンタクロースのじいさんってけっこうスパルタなのか?」
「分かんない。いつもは優しいのに。とりあえずゆっくりでいいから、当分の間そっちにいろってさ」
「ははっ……」
俺は嬉しくなった。俺の望みが叶ったんだ。存在さえ疑ってたサンタクロースに、幼少の頃のように俺は感謝しまくった。
「なに笑ってんの? 私勘当されたのに!?」
ユイはむぅと頬を膨らませていた。
「悪い悪い。けど俺は嬉しいぞ。ユイは、嬉しくなかったか?」
「……まぁ、嬉しいけど」
赤くなりながらユイは言った。こういう仕草が可愛いのは相変わらずだった。
「あとほら忘れ物だ」
「あ……。うん、ごめん」
ユイの薬指にリングを填める。蒼く光るペアリングだ。俺も自分の指に嵌めて、お互いに見せ合いっこした。
「よし、んじゃ何か食いに行くか」
「わわっ、痛いよ誠一君」
構わず俺はユイの手を引いた。もう絶対に、離したくなかったから。
俺と、サンタクロースを目指すユイの奇妙な生活は、これからも続いていく。




