表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女はサンタクロース?  作者: 神谷優
1/12

1話

 今年の冬もやはり寒い。俺は暑いのも苦手だが、寒いのもまた苦手だった。


「さみ~……」


 声に出してもやっぱり寒いし、どうにかなるはずがなかった。しかも雪まで降ってきている始末。風がないのがまだ幸いだが、コートとマフラーを着用してもまだ寒く感じた。手袋も必要だったなと後悔する。


 今は大学の帰りだった。もう空は真っ暗な中、徒歩で家を目指す。家といっても、下宿先のチンケな一室である。家賃は三万五千円。学生の身分としてはきついが仕方ない。

 俺は震える手に息をかけた。目に見える白い息はすぐに消え失せる。とても脆い存在だった。


 ふと、ある店が目に入った。サンタと同じ赤い服に赤いブーツ。先端の白い、赤い帽子を被った女の子たちが、懸命にお客に声をかけていた。どうやらケーキ屋さんのようだ。看板を照らすネオンサイン以上に、クリスマスツリーが店のはしっこで輝いていた。


「そうか……もうすぐなんだな」


 それで初めて、俺はクリスマスが近いことに気付いた。月日では分かっていたことだが、クリスマスというイベントは頭にはなかった。それほど学業とバイトで忙しかったのかもしれない。少し自嘲気味になった。


 思えば彼女いない歴十九年と三ヶ月。なんとも寂しい記録を俺は更新し続けていた。俺には全く余裕がなかったらしい。


「いらっしゃいませ」

「ありがとうざいます」


 再びケーキ屋のサンタの格好をした女の子たちに目をやる。まぁまぁ可愛いかな。と思った俺は、自分の家に向けて歩き始めた。衝動買いするほど、俺の金銭はやはり余裕がなかった。



「ただいま~っと……」


 返してくれる者は当然誰もいない。真っ暗な部屋はやぱり寂しい気がした。


「おかえりなさい!」

「…!?」


 俺は驚いた。何と返事が帰ってきた。俺はここに一人で暮らしているわけだし、誰にも合鍵を渡していない。まぁまず渡すような相手はいないんだ。親がこっちに来るなんてこともないはずだ。

 

 なら何故返事があった?

 

 声と同時に電気が灯る。俺が点けたわけじゃない。勝手に点いた。いや、誰かが点けたんだろう。俺は何がいるのか、注意深く、慎重に部屋にあがろうと足をかけた。


「あ~、こんなに雪が積もってるよ」


 襖の横から顔を出して、そんなことを呟いた。


 誰?


 さっきまでの緊張がなくなり、俺は唖然とした。何と意外なことに俺より十センチ近く背の低そうな女の子だった。


「ほらほら早くあがって」


 俺の混乱した頭をそっちのけで彼女はそんなことを言った。

 トテトテと近付いて、俺の頭と肩の雪を払ってくれる。特に頭は、届かなくてう~ん……てな感じで背伸びをしていた。その仕草がなんだか可愛く思えた。


「いつまでもそんなとこにいないで、あがって」


 誘導する彼女に俺は従った。帰ってきて、こんな風に可愛い女の子が迎えてくれることに、俺は感動を覚えてしまう。


「……って違ーう!」

「はわっ!」


 いきなり俺が大声を出したからだろう。彼女はびっくりしていた。が、かまわず俺は尋ねた。


「あんた誰だよ? なんで家にいるんだ!?」

「え?そ、それは後で話すよ。とりあえずご飯食べよ」


 と、彼女は奥の部屋を指す。寝室でもあり、居間でもあり、食事する部屋でもあるその部屋には、グツグツと鍋料理が存在していた。


「うぉっ……」


 持ってきただけで一度も使っていなかった、鍋とコンロ。久々の再会と、鍋料理が食えることに俺は喜んだ。彼女が何故ここにいるかなど、この際どうでも良くなっていた。


「いっただきまーす」

「ダメ。まずは手を洗ってから」


 彼女はそう言って、飛び付く俺を制止する。すぐさま素直に手を洗った俺は、目の前の料理にがっついた。


「うまい!」

「そう?ありがとっ」


 パクパク食べ進む俺。彼女は鍋に、肉や野菜をたくさん入れてくれていた。ありがたや、ありがたや。


 無心になって食べ続けた俺は、腹がふくれ始めた頃、考えがまとまってきた。


「……って鍋はうまいけど、そうじゃない。あんたはいったい誰なんだ?」

「私?」


 と自分を指差す彼女は、キョトンとしていた。はいそうですよ。今更ですよ。


「隠してもしょうがないから言うけど、聞いて驚かないでよ」


 そう言うもんだから、俺は肉の味を噛み締めながら、彼女の言うことに耳“だけ”を傾けていた。目は鍋にしかない。


「私の名前はユイ。何とあのサンタクロースなんだから!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ