帰り道
段々と日が暮れてきて動物園が閉園の時間になったため、出口に向かって並んで歩いていた。まだ少しお互いに顔が赤いけどさっきに比べると多少は落ち着いてきた。
そんなわけで周囲を確認出来る余裕が出来たので周りを見ると他の家族連れの集団も出口に向かっていた。
何か懐かしいなと見ていると、その集団の中から急に小さい男の子と女の子たちが僕達の隙間を縫うように走り抜けてきた。
そんな姿を見て父親は子供たちを止めに行き、母親はこちらに焦って謝りにきてくれた。
「すみません!!大丈夫でしたか?」
「いえいえ、こちらはぶつかってもないので」
「あぁ良かった。急に走り出してしまって…」
そんな慌てている母親を見て、奏が大丈夫だと落ち着かせている。
見た感じ二つの家族が一緒に遊びに来ているようだった。
「子供ってそんなものですよね、私達もそうでしたもん」
「そういって頂けると助かります」
「今日はご家族でいらしていたんですか?」
「えぇ、私たちの家族と向かいの家族と2組で来ていたんです。子供たちが同い年で親同士も仲良くなったので」
「そうなんですね、ということはあの子たちは幼馴染なんですね。私達もそうなんです」
「えっ!それはまた偶然ですね」
何気ない会話をしていると先の方までどうやら子供たちが捕まったようだ。父親に捕まえられた二人がこちらに向かってきていた。
「すみません。急にこの子たちが飛び出してしまって。ほら二人も謝って」
「「お兄さん・お姉さんごめんなさい…」」
子供たち二人がうなだれている。怒られているので二人からしたら面白くないだろうが、そのうなだれている姿が昔僕達が怒られた時の態度にそっくりで思わず笑ってしまった。
「いいのよ。でも気をつけてね。車は通らないかもしれないけど人にぶつかったらやっぱり危ないから」
「「はーい」」
奏の優しい声に少し調子が戻ってきたようだった。強く怒られたまま終わるのはあまりにもかわいそうだったので、このやり取りでちょっとは持ち直せて良かったと思っていたら女の子の方から質問が飛んできた。
「ねーねー。お姉さんたちは恋人さんなの?」
想定外の質問に硬直する僕達。
失礼な質問をするなと再び怒られそうな雰囲気が流れてきていたので慌てて僕が口を挟む。
「えっとね。僕達は君たちと同じ幼馴染なんだ」
「おさななじみー?」
「そう。君たちも小さい頃から、今もまだ小さいと思うけど一緒にいつも遊んでいるでしょ?僕達も小さい頃から遊んでいるから今日も遊びに来たんだよ」
「なかよしさんって事?」
「そうだね、なかよしさんだ。二人はなかよしさんかな?」
「「うん!!」」
「それはなにより。大きくなっても喧嘩したりしないで、今みたいに一緒に仲良く遊べるかな?」
「「できるよ!」」
その元気な返事を聞けた時、ちょうど動物園の出口ゲートに到着した。名残惜しそうにしている子供たちを持ち直してきた奏がなだめていて、すみませんでしたと最後まで丁寧に謝ってきてくれていた親たちは僕が気にせずにと対応してお別れした。
別れた後は周りも暗くなっており、時間も良い時間になっていたため電車に乗って真っすぐ家に向かっていた。帰りの話題はもちろんさっきまで一緒だった家族連れの話である。
「それにしてもさっきの子達可愛かったわね~」
「そうだね。少しやんちゃそうだったけど素直に謝ってくれてたし良い子達だったね」
「大きくなっても仲良くの話はお前が言うなっておもってたけど」
「…それはすみません。。」
ズバリ痛いところをつかれてしまった。自分でもお前が言うな感はあったけど、言わないでおく方が良くないと思ったらそのまま言葉として出ていた。
「昔の私たちもあんな感じだったのかしらね」
「どうだったっけかな。大体あんな感じだったような気がするけど」
「そっか。景色は変わっても変わらないものもあるわね」
そう一言呟くようにして窓を見つめる奏。
思い出の場所に遊びに行ったらそこは昔と変わって新しくなっていて、楽しかったけど変わってしまった寂しさも感じていたのだと思う。
でもその空間には昔の僕達のような関係の子供がいて、楽しそうに思い出をつくっていることが嬉しかったのかもしれない。
「ひとまず無事着いて良かったよ。今日はありがとう、それじゃまた学校で」
「あ、待って」
「ん?何?」
「今日はこちらこそありがとう。思ったより楽しかったわ」
奏の家に到着し、挨拶をして帰ろうと意外に素直にお礼を伝えてくれた事にびっくりした。
「思ったよりってのは余計な気もするけど」
「まぁ細かいことは気にしない。けど今さらだけど急にどうしたの?今回みたいな事今までだったら絶対しなかったと思うけど」
そう思われるのも無理はない。いかんせん今までが酷すぎた。今回もサポートがあって何とかだったけどそれは言わないでおこう。
「変わらなきゃいけないって思っただけだよ」
「今度は期待していいのかしら?」
何が言いたいのか分かるよね?って顔をしている。だけどまだまだハッキリと言葉にして言える立場じゃない。だからあえてこう言った。
「何を言いたいのか分からないけど、全力でやっていくつもりだよ」
それを聞いた奏は呆れたような顔をして、その後少し笑ったように見えた。
「何を全力かは分からないけど、まぁ分かったわ」
「うん、それじゃ今度こそまたね」
「えぇ、また学校で」
そう言って別れて家に戻る短い帰路の間で何気なく上を見上げてみると満天の星空だった。何か関係性が変わったわけではないけど、この星空は忘れないでおこう。そう心の中で思った。
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