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本音

球技大会を優勝した最初の休日、デートの約束をしていた僕は奏の事を迎えに来ている。

インターホンを押すと慌てた様子で奏が飛び出してきた。


「待った?」


「いやいや、今押したばっかりだしそんな慌てなくても大丈夫だよ」


自分の行動を振り返って恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしている。

そんな奏の後ろから何やら咲さんの声が聞こえてきた気がするが、奏がうるさい!!とドアを勢いよく閉めていたので何を言っていたかまでは聞こえなかった。


「じゃ行こうか」


「そうね。今日行く予定の動物園って結構時間かかるの?」


「いや、電車で30分くらいかな」


「それくらいならすぐね」


今日デートに選んだ場所は動物園。奏が動物に癒されたいと言っていた情報を清水さんから聞き出したこともあって、場所を提案した所すんなり了承を得ることが出来た。

電車で移動している時もワクワクしているのが見て分かるくらいにはテンションが上がっていたので、分かっていてもホッとしていた。


「おー結構広いね!」


「確かに。こんな大きかったかしら」


「チケットはもうあるから入場ゲート行こう」


「分かったわ。ありがとう」


最寄り駅に着き、動物園の入り口に近づくと想像以上の規模でびっくりした。今回来た動物園は小さい時に家族ぐるみで来ていた所だったが、老朽化に伴って段々とリニューアルしていって前より規模が大きくなったようだ。


「よし、それじゃどこか見に行きたいブースある?」


「そうね、今ってどんな動物がいるのかしら。」


「えーっと、トラとかライオン、熊とかもいるみたいだね。後は水場コーナーでペンギンとか鳥類もいるみたい」


「ライオンがいいわね」


「強い動物好きな所は昔から変わらないね…」


「何か言った?」


「いえ、何も言ってません」


そんなわけでまずはライオンのコーナーを見に行くことになった。

着くと人気の動物だけあって子供たちが群がっていたが、身長差的にすぐ見る事ができ、奏は満足そうにしていた。

前で食い入るように見ている子供たちと、その子供たちに負けないくらい真剣に見ている奏を見て思わず笑ってしまう。だってやってる行動も昔と変わらないんだもんなぁ。



「いやー面白かったわね!」


「それなら良かったよ」


「…何でニヤニヤしてるのよ」


「え?いやいや好きな物は昔から変わらないよねって。楽しんでくれてるみたいで良かったよ」


「子供の時の話は関係ないでしょ!しょうがないじゃない、私だってイメージがあるのよ。変におしとやかな感じになってるからライオン好きなんてなかなか言えないわよ」


「気にしなくてもいいのに。取り繕ってもすぐボロ出ちゃうでしょ」


「うるさいわよ!周りが勝手にイメージを決めてるだけ」


本人の言う通り一部の近しい人間(僕、悟、清水さんとか)を除くと奏の本当の性格を知っている人はほとんどいないと思うから、学校のみんなが今の奏を見たらきっと驚いてだろう。だからこそ奏が本音を出せてはしゃぐことが出来る環境を作れたり、一緒にこの時間を過ごすことが出来る事は僕としては嬉しかったりするのだ。


「ごめんごめん、次はどこにいこうか」


「まったく。。ここも昔とだいぶ変わっているみたいだから特定の場所を決めずにゆっくり中を回ってみたいわ」


「分かった」


その後園の中をゆっくり散策して昔と変わった雰囲気を楽しんでいたが、何やら柵に囲われているスペースがあったので見に行く事になった。


「確認したらここふれあいスペースなんだって」


「ふれあいスペース?」


「そうそう、小動物がいるみたい。うさぎとかアヒルとかいるみたいだよ。せっかくだし中入ってみようか」


「そうね。入りましょうか」


スペースの中に入り、職員のお兄さんに注意事項を聞いて餌をもらっていると人懐っこい動物たちが足元に近寄ってくる。

動物を座って抱っこ出来るようベンチが設置してあったので、そちらへ移動してウサギを抱っこして餌をあげる事にした。


「可愛いなぁ。餌もモグモグ食べてくれるし」


「何かこんなの小学校で飼育当番やった時以来だけど楽しいわね」


「あー懐かしいね。一生懸命面倒見てたよね」


「うちはお母さんがペット飼うの許してくれなかったから、触れ合えるのが楽しかったの」


久しぶりに話す昔の出来事に話が弾み、落ち着いた穏やかな時間が流れる。

そんな中、抱っこしていたウサギが急にジャンプし、咄嗟に助けようとした奏のバランスが前のめりに崩れる。それを見て僕は慌てて奏を助けようとして思わず体を抱きかかえる形になってしまった。


「「……」」


すぐにお互い離れたが気まずい沈黙が流れる。

奏は助けたウサギを抱きかかえて顔を真っ赤にしている。


「ごめん、僕も咄嗟だったから…」


「いや、こっちこそ助けてもらっちゃった。ありがとう」


そんな僕の言葉にふるふると首を振ってか細い声で気持ちを伝えてくれた。


その後はお互い顔を赤くしながらもベンチに座りなおして改めて動物を愛で始めた。

さっきまでに比べて沈黙の時間が増えたけど、今日の中で一番幸せな時間だった。


読んで頂いてありがとうございます。

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