球技大会
球技大会当日の朝。もう習慣化していたジョギングを行い、最後の素振りを自宅で行っていた。
周りのみんなにも支えられて今日を迎えることが出来たので後はやりきるだけだ。
「相変わらず早いわね」
隣の家から聞きなれた声が聞こえてきた。
「奏か。そっちこそ早いな」
「今日くらいはね。」
「本番まであっという間だったような気がするよ」
「合間に色々あったけどね」
「そうだね、ラケット事件とかね」
「それは忘れなさいって言ってるでしょ!ともかく私が練習手伝ってあげたんだから結果出しなさいよ」
「うん、手伝ってくれた奏に恥をかかせないためにも頑張るよ」
意外な回答だったのかキョトンとした顔をした後すぐそっぽを向かれてしまった。
横顔を見ると心なしか耳が赤い気がするが、指摘すると嫌な予感がするので黙っている事にした。
「じゃ出席とるぞ。席に座れー」
学校に着いて教室で出席を取るまではいつもの授業と同じだが、この後は各々エントリーしている競技の会場に移動する流れになっている。
「そしたら俺らもトーナメント表確認しに行くか」
「おっそうだな。行こう」
朝のHRが終わったので悟と一緒にトーナメント表を見に行く事にした。
「俺たちは…あった、3番か」
「テニス部は何番だった?」
「16番だ。ブロックが違うから当たるとしたら決勝だな」
今回エントリーしている人数は16人。1~8番がAブロック、9~16番がBブロックのトーナメント戦となっている。Aブロックの勝者とBブロックの勝者で優勝決定戦というわけだ。
ちなみに試合は時間の都合上、通常のセットマッチではなく先に3ゲーム先取したチームが勝ちの5ゲームマッチになっていた。
「なかなか悪くないくじ運じゃないか?」
「まぁ優勝するには結局全員倒さないといけないからね」
「おぉ言うねー!」
「茶化すのはやめてくれよ悟。さぁコートに向かおうか」
「了解!」
コートに着くと初戦の相手は見たことのない同級生だった。試合前にラリーをしたが、明らかに数合わせで出場しました感満載で少し安心していると悟が声をかけてきた
「運動があまり得意そうな相手じゃないけど油断しないようにな。初戦で緊張しているから自分のミスで自滅する可能性もある。」
「だね。気を付けていたつもりだったけど、ちょっと気持ちが緩んでたよ。気を引き締めていこう」
そして試合が始まった。知らない相手との試合形式は久しぶりだったため初歩的なミスを序盤にしてしまったが、相手はもっと酷くサーブもまともに入らない様子だったため、問題なく初戦は突破することができた。
勢いに乗った僕たちは続く準々決勝、準決勝も勝ち上がり何とか決勝に進むことが出来た。
決勝はお昼休みの後ということで悟とご飯を食べていると奏達が歩いてくるのが見えてきた。
「あ、あんた達決勝行けたのね」
「そっちこそ決勝進出おめでとう」
「まぁ私たちは当然ね。そっちも意外とやるじゃない」
「まぁ何とかね」
僕たちのやり取りを見て悟と清水さんが笑っている。これが僕からしたら普段のやり取りなんだけどな
「邪魔しちゃ悪いし私たちは行くわ」
「あぁ、二人とも頑張ってね」
「言われなくても」
奏は変わらずの様子で、清水さんは笑って手を振ってくれた。扱いの差が激しいな。いや、分かってることなんだけどさ。
そしていよいよ決勝戦の時間になり僕たちはコートに集合していた。流石にテニス部とは部が悪い。でもやるしかないんだ。
「…強い」
試合は劣勢。サーブもレシーブも圧倒的に相手が上で、常に後手後手になってしまう。早々に2ゲーム取られて後が無くなったが、悟が今までとプレースタイルを変え、前衛に出て積極的にボレーを決めてくれたおかけで何とかタイブレークまで漕ぎ着くことが出来た。
「ここまできたら勝つぞ!」
悟のゲキにも力が入る。タイブレークは7点先取で勝利となる。ただ、6-6とかになると2点差つくまで試合が続くため、相手にひたすら走らされて体力が正直限界にきているこっちに取っては避けたい状況だ。
タイブレークが始まって1-1,2-3,4-4と僕の望みとは裏腹に競った展開が続いていく。
悟の強打が決まってスコアは6-5となり、こちらがマッチポイントを握った。ただ二人とも体力は限界に近く、ここで同点にされるとほぼ負けが決まる。
コートチェンジをして試合が再開する。緊迫したラリーが続く中、相手がドロップで前にボールを落としてきた。意表をつかれ、対応が一歩遅れた。
「まずい…」
何とか前に出ようとするが足がもつれる。ただ何とか飛び込んでボールを拾った。
ただすぐ相手も対応し強打を打とうとしているのが見えた。僕の体勢が崩れているので打たれるとポイントに取られてしまう。そんな時
「光頑張って!」
いつも僕を支えてくれる声がした。
僕はすかさず立ち上がり、相手のボールをボレーで返した。返ったボールは相手の間をすり抜け転々としている。
その瞬間コートが歓声に包まれる。
「やったぞ!」
悟が興奮した様子で後ろから飛び付いてきた。
周りの観客も想像以上に競った展開が面白かったらしく盛り上がっていた。
「良かった…」
僕は嬉しさより安堵の方が大きく、ゆっくりとその場に座りこんでしまった
ただ無意識に拳を静かに握り締めていた。
「表彰式なんて久しぶりだったよ。緊張したなぁ」
球技大会の帰り道、奏と二人で今日の表彰式の話をしていた。
「あんなの堂々としてればいいのよ。緊張するだけ無駄」
「慣れてる人は違うな。今回もきっちり優勝してるしね」
そう、女子組の方は奏達が優勝していたのだ。しかも圧勝だったというのだから恐れ入る。
「最後、奏の声が聞こえたおかげで立ち上がれたよ。ありがとう」
「そんな事言ってないわよ、大体私たちは試合してたでしょ」
「勝って応援しに来てくれてた事は清水さんから聞いてるよ」
「…余計なことを」
結局最後まで大声で応援してくれた事は認めてくれなかったけど、あれはほんと力になったな。あれが無ければ負けてたと思う。そんな気持ちがあったからかもしれない。
「ねぇ、優勝のお祝いに今週末一緒に出掛けない?二人で」
言葉が自然と出てきた。僕の言葉を聞いて少しの間呆然としていたがすぐ顔が真っ赤になって突然走り出した。
慌てて追いかけるがすぐお互いの家に着いた。
門の中に入ろうとする奏を慌てて呼び止める。
「え、ちょっと待ってよ!」
「……わよ」
「え?」
「分かったわよ!そっちから誘ったんだからドタキャンは無しよ!」
そう言うと家に飛び込んでいった。
奏の勢いに驚いていたがひとまず良かった。何とかOKを貰えた事にホッとした。
「表彰式より緊張したなぁ」
そう呟きながら僕も家の中に入っていった。
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