未来の私へ
あの出来事があってから私の心はボロボロだった。
信じられなかった。信じたくなかった。あの場の彼の言葉がひたすら頭の中で繰り返される。
思い切り感情を出したかった。大声で叫んで泣きたかった。
だけどそんな事をしても現実は変わらない。何より私自身がその甘えを許さない。誰よりも努力して今の地位を築いてきたのだから。
「元々凄いと思ってたけど最近の雪村さんよりが凄くなってるよね!」
「ほんとほんと!憧れちゃう!」
「何か前より可愛くなってるよなぁ~付き合いたい」
「無理無理!お前なんかじゃ相手にならないよ」
女子達の羨望の眼差しを向けられたり、男子達から色めきだった声が聞こえてくる教室で、私は空を眺めていた。
「つまらない」
奏が小さく呟くがクラスの皆には聞こえなかったようだ。
前にも増して何事にも全力で取り組んで行動してきた結果、前以上に先生も含め周りから尊敬される存在になっているようだ。
そのおかげもあってか、少し前からちょっかいを出されていた男子グループも絡まれる事が無くなり平和な毎日を過ごしていた。
『彼』の事だけを除いては。。
それから暫くして少しずつ外が涼しくなってきたある放課後、先生からの頼まれ事の影響で少し帰りが遅くなってしまった時の事だった。
空き教室から話し声が聞こえてきた。
「ホントにいいのかよ、このままだと誤解されたまま離れる事になるんじゃないのか」
「それは分かってるけど今さらどうしようも無いだろ!」
あれは遠野くん?それに凪野くん?
誤解って何の話をしてるんだろう。
「だけどあの馬鹿どもの言うこと聞いたままかよ!そんなの悔しいだろ!!」
「いいんだよ。それで彼女が、奏が守れるなら」
「だけど手を出されたくなければ一切関わるなって!それで彼女に嫌われたら意味ないだろ!あんなやつら力ずくで何とかすればこんな約束なんて…」
「それだけはやめてくれ。奏を守りたいと思っているのは僕の勝手な行動だよ。悟を巻き込むわけにはいかない。」
「お前の勝手じゃない!やつらのやり方汚すぎる。親友がこんな事になってるのに見過ごせない」
「親友なら分かるだろ。こんな受験も近づいている時に問題なんて起こして欲しくないんだよ。悟の気持ちは嬉しいけど分かってくれ」
え、嘘。。何の話をしてるの。
関わるなって誰かに言われたって事?そういえばあのグループが私に関わってこなくなった時期と凪野くんがあの発言をしてきた時期ってほとんど同じだったような。それって私を守るためにわざと酷い事を言って距離をおいたの?そんな事知らず私はただ怒りに任せてあなたから離れてしまったのに。
「それにさっきも言ったけどもう少しで受験だろ?これからは無茶して来ないし、奏は上の学校に行くから物理的にも離れられる」
「…分かったよ。そこまでお前が言うなら俺も諦める。その代わり1つだけ約束してくれ」
「改まって何だよ?」
「お前も彼女と同じ高校を目指してくれ」
「今から!?奏の目指してる学校かなり偏差値高いぞ。かなり厳しいよ」
「それでも目指すべきだ。このままだったら絶対後悔するぞ。今は無理でも高校ではまた昔みたいな関係に戻れるかも知れないだろ。それに俺もその高校が志望だから勉強も教えられる」
「本気かよ」
「マジだ」
長い長い沈黙が教室内に流れた。
「分かったよ。僕だって出来ることなら奏のそばにいたい。それだけじゃなくて奏と釣り合う人間になりたい。そのためにはこのくらいはクリア出来て当然か」
「よし!そうと決まったら今から勉強だ!1秒も無駄に出来ないぞ」
「えぇ!今からかよ!」
「当たり前だろ?スパルタでいくぞ!!」
「おう、こうなったらとことんやってやる!!!」
あれだけ我慢していた涙が自然と出てきた。彼は約束を忘れていなかったんだ。それどころか私を何よりも大切に想ってくれていた。それなのに私は…
いますぐにも彼の元に駆けつけたい。今までの行動を謝りたい。助けてくれてありがとうって言いたい。
だけど今それをしてしまうのは彼の決意を無駄にしてしまう。
私は静かにその場を後にした。
ねぇ未来の私?無事志望の高校には合格していますか?
そこに彼はいますか?もし本当に頑張って合格していたら褒めてあげて欲しいな。私は恥ずかしくなっちゃってなかなか素直になれないから難しいかな。だけど素直に褒める事は出来なくても何か行動で示してあげてね。
だってそこにいるのは自分の事を、何よりも大切にしてくれていた約束までも犠牲にしてまでも私を助けてくれた、とっても大切な人だから。
本当に久しぶりの投稿になってしまいました。
申し訳ございません。またちょくちょく投稿していけたらと思いますのでどうぞよろしくお願い致します。




