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過去


あれは中学の時のことだった。平凡な僕と違って彼女はその頃から非凡な才能を発揮していて周りから一目置かれる存在だったんだ。

 ただその時の僕は今の僕と違って約束のために頑張って奏に追い付こうとして努力を続けていたんだよ。


「光!今日帰り一緒に帰りましょう!」

 僕の後ろから弾んだ声が聞こえていた。


「あ、うん!」

「この前のテストどうだった?私はまぁまぁだったけど」

「奏のまぁまぁは信用できないなぁーそれで学年トップだったりするし」

「あーそーゆーこというんだ!光のバカ!」

「ごめんごめん!」

「もーしょうがないなぁ。許してあげなくもないけど!」

「や、ほんとにありがとうございます。。」

「それで結局のところテストはどうだったのよ」

「う、それは聞かないで」

「全く~しっかりしてよね」

「ごめんごめん。これからもっと頑張るよ!」

「ま、今後に期待してあげるわ」


 今思えばこの時が一番楽しかったかもしれない。奏とも昔からの関係でいられたし、何より彼女のために頑張る事が自分の中で力になっていた。

 実際に僕の努力が少しずつではあるけれど身を結んできた頃、僕の周りで変化が起こった。




「最近凪野のやつ調子乗ってない?」

「あー分かるわ。ちょっと成績上がったからってな」

「しかもあいつ雪村と幼馴染らしいぜ」

「まじかよ。ますますむかつくわー」

「何かあいつに悪い事でも起きねーかなー」

「何かってなんだよ」

「なんでもいいんだよ。何か俺らがスカッとすることだよ」


 教室に入る前に偶然聞こえてしまったクラスメイト達の会話だけど、これ僕のこと言ってるよね。正直気分悪いけどこっちから言って余計ひどくなっても困るし無視しよう。ただ僕は頑張ってるだけなんだけどな





「何か今日の光テンション低くない?何かあった?」

「え?いやそんな事ないよ。気にし過ぎじゃない?」

「ふーん?そういうならいいけど…」

「そんなことより今度のテストは見ててよ!今度こそトップ10に入ってみせるから!!」

「お、大きく出たわね。私も負けないわよ!」


 この日の帰り道に奏に突っ込まれて内心少し焦った。けどクラスメイトに陰口言われてへこんでたとか奏には恥ずかしくて言えるわけない。何とか誤魔化してその日は帰路についた。

 けどこの時奏に相談していたら少しは状況が変わっていたかもしれない。
































 結論から言ってしまうと僕へのいじめはあの日から悪化していった。

 最初の陰口は軽いもので、物を隠されたりクラス単位での無視の日々が始まった。暴力行為もだんだん行われるようになった。それは僕が努力して彼女に追い付こうと頑張る行為と比例するようにひどくなっていた。


「ほんとに大丈夫なの?最近全然元気ないみたいだけど」

「ちょっと頑張り過ぎちゃって寝不足なだけだよ」


 奏はまだ僕のいじめには気づいていないようだった。僕とはクラスが違ったし、僕も気づかせないように細心の注意を払っていたから。そうしてでもこの何気ない時間を守りたかったんだ。


「何かあったらすぐ相談しなさいよ。幼馴染でしょ」

「うん。ありがとう奏」


 ただこんな些細な願いもあっという間に崩れてしまうことになるとは思わなかった。







 「お前雪村と仲がいいんだってな?」


 僕のいじめが始まってからしばらくたった頃、唐突にいじめの主犯格が聞いてきた。


 「………」

 僕が黙っていると痺れを切らしたように強く言ってきた


「黙ってたって分かるんだよ。お前ら学校の帰りいつも一緒に帰ってるもんなぁ」


 ばれないように時間をずらしたり気を使っていたけど、どこかで見られていたのか。失敗した。


「最近お前構ってても面白くなくなってきたし、相手変えようと思ってたんだよなー雪村なんか面白そうだよな。優等生が底辺まで落ちるのはきっと痛快だろ」


「ふざけるな!!関係ない子を巻き込むのはやめろ!」

 思わず僕は叫んでいた。

「おー怖い。なんだお前あいつの事好きなのか?」

「そんなの今は関係ないだろ!!」

「なんだこいつ。急に威勢よくなりやがって。っていい事思いついた。お前雪村の事明日から無視しろ。一切かかわるな」

「は?」


 理解が追い付かない


「だから雪村に手を出されたくなかったら無視しろって言ってるんだよ。どっちか選べって言ってるんだよ自分か雪村か」


 理解は追い付かなかったけど選ぶ余地なんて最初からないことくらいは分かった。


「僕は…」










「ちょっと!ちょっと待って光!何で最近私の事避けてるの!?帰りも一緒に帰ってくれないし、家にも遊びに来てくれなくなったのは何で??」

 奏が僕の隣で騒いでいるけど僕は彼女の眼を見ようとすらしなかった。声も聞こえてはいるけど反応はしなかった。

「ねぇ無視しないでって!私が何かしたのなら謝るから教えてよ!」

 その彼女の必至な問いにも僕は反応しなかった。


 そして絞り出すように彼女がこう問いかけてきた。

「じゃあこれだけは答えて。私たちの約束は覚えているわよね!?だから私を頼ってよ。お願いだから…」


 その問いに僕は答えた














「忘れたよそんな約束なんて」




 その時の奏の顔を見ることが出来なかった。ただ奏の雰囲気が変わったのは分かった。


「…そう。分かったわ『凪野くん』」 


 

 僕は彼女を守ったつもりだった、それが彼女を深く傷つけていることを知らずに。あの時僕は彼女を助けたんじゃない。彼女から逃げたんだ。

 結局僕は自分じゃ助けられないと勝手に思い込んで逃げただけなんだ。


 それに気付いた頃にはもう手遅れだったんだ。


 


かなり期間が空いてしまいまいすみませんでした。

また改めてよろしくお願いします。

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