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 というわけで僕は清水さんの提案により球技大会に向けて奏とテニスの練習を一緒に行うことになった。

 ん?聞き分けがずいぶんいいって?そりゃあのほんわか天然清水さんの提案を断る労力を考えたら大人しく練習に付き合う方が楽だからですよ…


 「あ!ちょっともう少し軽く打ちなさいよ!!」

 「無茶言わないでよ、これ以上軽く打ったらネットすら超えなくなっちゃうから…」

 「文句言わない!」

 「どっちが文句なんですか」


 現在は時と場所が変わり、球技大会で出場する種目が決まって最初の週末、場所は僕の家の近所の運動公園だ。そんなことはどうでもいいとして今もっとも問題なのは奏のテニスの腕である。奏は運動が苦手という印象があまりなく、何でもそつなくこなすイメージだったがテニスに関しては別だったらしい


 「それにしても何で奏はテニスやろうと思ったのさ、他の競技ならもっと楽に活躍できただろうに」


 僕の問いかけに奏が何とも言えない顔をした


 「だって仕方なかったのよ、人数が偏っちゃって雰囲気悪くなってきちゃったし。私が我慢すれば調整できそうな感じだったから」


 そう、彼女は小さい時から周りから注目されて特別視されて生きてきた。そのため自分の希望は必ず通ってきて不自由することは無かった、しかしその分自分の希望が通ったせいで悲しい思いをした友達を数多く見てきたんだ。その経験は奏の人格形成に大きな影響を及ぼし、彼女は自分を殺し他人を生かすようになった。いつだって他人を気にして他人を第一に考える、人から見たらそれは優しさに見えるのかもしれないが僕には痛々しく見えてしまう時がある。悟によく彼女のわがままに付き合えるなと、言われたことがあるが彼女が自分の意見をぶつけられる人間は限られてしまった。だから僕くらいは彼女のわがままに付き合ってもいいかなって


 さて話が横道に逸れてしまったが現状の最大の問題であるテニスをどうやって克服させるかに話を戻そう


 「それにしたって球技大会はダブルスなんだし悟と清水さんにも付き合ってもらえばもっと練習らしいこと出来たのに」


 

 僕が不思議そうに言うと


 「だってかっこ悪いとこ見られたくないんだもん…」

 

 ということらしい。可愛いとこもあるんだなと考えていると『何にやにやしてるのよ』と言われて殴られた。やっぱり可愛くない


 「とにかくラケット正しく持ってフォームを安定させれば形にはなると思うから」

 「じゃ教えて」

 

 流石に自分の危機になると素直だな


 「じゃ僕と同じ感じでラケットを握ってみて」

 「こんな感じ?」

 「あーちょい違う」

 「分かりずらいのよ!」

 「こうだって!」

 「あっ!!」


 ぼくが奏の手を持ってラケットを握らせると奏が急に大声を出した。周りの人が驚いてこっちを見ている始末だ


 「ちょっと!大きな声出さないでよ!」

 「だって仕方無いでしょ、急に手を触るんだもん」

 

 最後の方はよく聞こえなかったが今はそんなこと気にしてる場合ではない。隣の一般の方が不審な目で僕のことを見ているけどそんなことも気にするほど今は余裕がない。


 「なんとかラケットの持ち方はましになったね、じゃ次だ!」

 「う、うん。」

 

 いつもと違って教えてもらってる立場だから大人しい感じだ


 「フォームだけど僕がやってみるから一回真似してみて!」

 「分かったわ」

 

 何回かやってみたけど言葉で教えるのはなかなかに難しい


 「奏、ちょっとごめん」

 「えっ!?」

 

 僕は奏の腕を持ってフォームを伝えようとした、その瞬間


 「きゃーーー!!」

 

 僕は空を見上げていた。


 「えー…」









 何が起こったか一つずつ確認しよう。まず僕は奏に言葉でフォームを教えようとした、だが言葉では教えるのに限界があると感じた僕は奏の腕を触ってフォームを教えようとした。そこまでははっきりと覚えている、だがそこからの記憶が曖昧だ。そのあとは確か奏が悲鳴をあげて手に持ったラケットを振りかぶった。


 「てことは僕はラケットで殴られたのか!?よく無事で済んだな…」


 そんなことを冷静に考えていると先ほど僕の事を不審な目で見ていた隣の一般のお客さんが携帯を手にして何か話している


 「もしもし警察ですか?実は…」


 「NO-!!!警察はNO--!!せめていいわけをさせて!!!!」


 そんなこんなで初めての練習は『終わりよければ全てよし』の見事な逆パターンで最悪の終わり方を迎えた

















 「だからあれは悪かったって機嫌直しなさいよ」

 

 あの出来事のあと落ち着いた奏が帰ってきて僕は警察のお世話になることは何とか寸前で阻止できた、そして今は自宅に帰っているところだ


 「一生懸命教えてただけなのに…」

 「だから悪かったって言ってるでしょ!でもあれはそっちも悪いわ、あんな急に触ってくるなんて」

 「うっそれは…すみません」

 

 確かに練習に夢中になってしまいそこまで気が回らなかった僕も悪かったよね

 そんなことを考えているうちに僕たちの家の前に着いた


 「さ!お互い謝ったし今回のはこれで終わりにしましょ!!でも教えてもらったのは感謝してるわ、ありがと!」


 そう言って彼女は笑った、あんな笑顔本当に久しぶりに見た気がする。この笑顔が見られただけ練習に付き合った価値はあったね

 そうしているうちに奏の家の玄関から声が聞こえてきた


 「かなちゃん帰ってきたのー?遅いから心配したのよ、あれ?あなた光くん?」

 「あ、はいお久しぶりです咲さん」

  

 彼女は雪村咲(ゆきむらさき)さん、奏の母親だが見た目がとても若いので初めて見る人はよくお姉さんに間違えられるらしい


 「本当に久しぶりねーかっこよくなっちゃって!」

 「ありがとうございます」

 「そうだ!久しぶりにお話し聞きたいし上がってって!さぁさぁどうぞ!!」

 「「えっ??」」


 僕と奏は顔を見合わせた。咲さんが笑顔で手招きしている以上断るわけにはいかない。僕は実に、本当に久しぶりに奏の家にお邪魔することが決まったらしい

本当に遅くなって申し訳ありませんでした

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