覚悟
「…ねぇ悟」
「なんだ?」
「なんで僕は朝から奏に睨まれなくちゃいけないのかな…」
そう結局昨日の昼休みは春ちゃんが教室に来ることはなく代わりに原因は何だか分からないが、かなり苛立った様子の奏が帰って来たのだった。その時からやたらとガン見されるものだから変だなと思って本人に聞いてみたのだが返ってきた返事が『あんたには関係ないことよ!!あんたはこっち見るな!』という何とも理不尽なものであった。
「どーせまたお前が奏ちゃんに何かしたんだろ」
悟はもはや日常の光景だと言わんばかりに相手にしてくれない
「今回はほんと心当たりがないんだけど、てかここ最近はそこまで話してるわけじゃないし」
「…それが原因の時もあるんだけどな」
「えっ?何て言ったの?」
内緒話のようなボリュームだったから全然聞き取れなかった。こういうの中途半端なやつって余計に気になるんだよなぁ
「何でもなーい。気にするなって」
「だったら最初から言うなよ!気になるんだから!!」
「それよりも奏ちゃんってお前が関係することだと感情丸出しだよな」
しつこく聞いてくる僕が面倒になったのか悟が話題をそらしてきたのは明らかに分かったが、自分でも少し鬱陶しかったと思っていたので大人しく次の話題に移ることにした。
「まぁやっぱり幼馴染ってのが大きいんじゃない?あいつは普段周りの人には猫被ってるけど、僕に対してはそんな必要ないからね。お互いの性格をよく知ってるから」
「それはそれは仲のよろしゅうことで。でもそういう発言は周りに気を使ってから言った方がいいぞ、誰が聞いてるか分からないからな」
悟は僕の方を向いて話しているようだが僕とは目線が合わない、どうも僕の後ろを気にしているようだ。何故だろう冷や汗が止まらず、まるで体が危険信号を絶えず出しているような感覚は…
「誰が学校では猫被ってるって!?」
嫌な予感は見事的中、僕の体は身に迫る危険を正確に知らせてくれていたんだなと素直に感動していたら教科書で思いっきり頭を殴られた。
「放課後にそっちから会いに来るなんて珍しいじゃないか」
未だに殴られた頭が響いて会話に参加出来ない僕を見て代わりに悟が聞いてくれた。
「なんかね奏が凪野君に聞きたい事があるんだって~」
「こら七海!余計な事言わないの!!」
「えーだって今朝からそんな感じで見てるこっちがじれったくなっちゃって~」
「なるほどね。説明ありがとう清水さん、それで一体どうしたのさ?」
やっとダメージから復帰した僕が奏に聞いてみると複雑そうな顔をしたものの観念したのか話し始めた。しかしその内容は今までに考えたこともないものだった
「あんたって宮下春と過去に面識とか無いの?この学校で初めて会ったの?」
「…は?」
聞かれていることがあまりに普通、というか当たり前過ぎて気の抜けた返事になってしまった。
「いやいや当たり前でしょ、そんなの奏が一番知ってるはずだよ」
「私だってあんたの交友関係全てを知ってるわけじゃないわ、実はどこかで会ってたりしない?」
「そんなこと聞かれても…そもそも何でそんな事聞くんだよ?」
「なっ!別に少し気になっただけよ!!」
「駄目だなぁ凪野君は。そんなの嫉妬に…むぐぅ!」
「七海は少し黙ってなさい!!」
清水さんが言おうとした言葉は途中で途切れてしまう。何故なら奏がものすごいスピードで清水さんの口を手でふさいだからだ。その時の奏の顔は言葉で表現出来るものでは無く、今が僕たち以外が教室にいない放課後で本当に良かったと思う。あんな顔を奏を崇高している他のクラスメートが見たら卒倒ものだ。
「とにかく聞きたいことは聞けたからもう帰るわ!またね!」
そんな言葉を残して奏は清水さんを引きずりながら教室から出て行った。途中から何も言わなくなった清水さんの安否が心配だが流石に大丈夫だろう
「さっ僕らもそろそろ帰ろうか」
「そうだなもう時間も時間だしな」
そうして僕らの一日はあまり普段と変わりなく終わるを迎える。あくまで僕らの話なので普段と違う一日を過ごす人はこの世にいくらでもいるのだろう、そんなどうでもいいことを考えながら帰り道を歩いて行った。
「待っていましたよ雪村先輩」
「この機会を待っていたのは私の方だけどね宮下さん」
「ふふっそうかもしれませんね、とりあえず歩きながら話しましょうか」
何故宮下さんと二人で帰るというこんな状況になっているのかと時間は少し前にさかのぼる
あの教室での出来事の後ぐったりしてしまった七海を送ろうとしていたところ、ちょうど七海の親が学校近くに用事で来てたらしくそのまま迎えにきてもらった。私も乗っていくよう言ってもらったのだけど家の方向も真逆だし今回は遠慮されてもらい、そしてそれを見送ったあと私も帰ろうとして下駄箱から靴をとろうとしたら一枚の手紙が落ちて来てその手紙に宮下さんからの待ち合わせの場所が書いてあったのだ。
「それにしても昨日はあんな思わせぶりな事を言ったからしばらくは会えないと思っていたわ」
「私もそのつもりだったんですけど少し気が変わったんですよ、遅かれ早かれ話す事なら先輩にとっても早い方がいいでしょう?」
「それはそうなんだけどね」
「ですよね!」
そう言って嬉しそうに笑う宮下さん、この光景だけを見ていると友達同士が仲良く下校してるだけだと周りからは見えるかもしれない。でもそう見えているだけで実際はそんな簡単な状況ではない。私はどうしても彼女に聞いておきたいことがあるのだから
「ねぇ一ついいかな?」
「ん?何でしょうか?昨日のことですか?」
「それに繋がるものかもしれないわね。宮下さん、正直に答えて。あなた昔この学校に来る前に凪野光に会っているでしょう」
その質問をした直後、二人の間に重い沈黙が生まれた。
「……何言ってるんですか?この学校以外に会う機会なんてないし会っていたら凪野先輩が気づいているはずです」
「あいつの記憶力があてにならないことは私が一番よく知ってるわ。本当のことを私は聞きたいの」
「知りません」
「お願い!」
「何でそんな事を聞くんですか?」
「私は光の事が大切だから。だから知りたいの」
何の躊躇いも無くそう言うと彼女は目を見開いて驚いているようだったが私の覚悟がそれで伝わったのか、少し悩んだあとに静かに私の質問に答えた。
「そうです、先輩の言う通り私は過去に凪野光に会った事があります。」
読んでいただきありがとうごさいます




