対話
「え?あれ?宮下さん?」
あまりに急な展開で頭がついていかず多分ボケっとした顔をしていまったのだろう、彼女はクスクス笑いながら繰り返した。
「驚かせてすいません、雪村先輩お昼ご一緒してもよろしいでしょうか?」
繰り返し聞かれたことでやっと状況を理解した私は慌てて返事を返した。
「大丈夫よ、空いてるから好きに座って」
私がそう言ったあとに真正面から七海に睨まれていることに気付いた、目を合わせると顔を近づけてきて小声で話し始めた。
「いいの奏?あなたこの子の事をあまりよく思ってないんじゃなかっけ?そりゃ嫌とはハッキリとは言うのは先輩としてどうかと思うけど今のはふいをつかれて何となく座ること許可しちゃったでしょ?」
「バカにしないでよ!そんなことあるわけが…あるかも」
悔しいけど彼女言っていることは全て正しかった、正直今は少し話をするだけでも気持ちがもやもやするのにお昼を一緒になんてハードルが高すぎる。
けれど思っていることが顔に出ていたのか七海が呆れた顔をしながらも続けてくれた。
「まぁやってしまったことはもう仕方ないからいい機会だと思って色々話を聞くことにしよう、私が隣に座っていてあげるからさ~」
「うん、ありがとう七海」
「じゃ私が奏の隣行くから空いたとこ座ってもらえるかな宮下さん?正面の方が話しやすいでしょ~」
「はい、ありがとうございます!」
そして各々が席に座ったところで宮下さんが嬉しそうに話しかけてきた。
「いやまさか学園のアイドルとお昼をご一緒できるとは光栄です!」
彼女の言葉に思わず吹き出してしまった、これが何かを食べたり飲んだりしている時でなくて良かったと思った。そんな時だったら大参事になっていたことだろう。しかし七海は特別驚いた様子も見せることなく変わらず食事を続けていた。
「ちょっと七海!」
「そんなの今に始まったことじゃないでしょ、入学したときから大騒ぎだったのに奏がにぶくて気が付かなかっただけよ~」
私の中では衝撃な事実で固まってしまったのだが、その姿をみて埒が明かないと思ったのか七海が宮下さんに話題をふってくれた。
「ところで宮下さん今日はまたどうして私たちの所に来たの?いつもは凪野君達と一緒に食べてるよね?」
宮下さんはうーんと可愛く悩む仕草を見せたあとこう続けた。
「特に深い意味は無いですよ、今日は何となく学食の気分だったのです!」
「そうなの、じゃあ私たちを見つけたのもただの偶然ってわけね~」
「あ、それは違います!先輩方はいつも学食にいると聞いていたのでせっかくだから探してみました!」
そこでやっと冷静さを取り戻した私は宮下さんに今の話を聞いていて少し疑問に思ったことを聞いてみた。
「少し気になったことを聞いてみてもいいかしら?さっきあなた深い意味は無いって言ったけれど私たちをわざわざ探したってことは何か聞きたいことでもあるのかな?」
「そうですねー学食に来るまでは本当に何も無く来たのですけど、もし雪村先輩に会えたら聞いてみたいなって事はありました!」
「あら何でしょう?」
「雪村先輩って凪野先輩とどのような関係なんですか?彼氏彼女の関係では無いとは前に言っていましたよね?」
彼女の質問に動揺してしまい一瞬黙りそうになってしまったが、ここでそうしてしまったら相手の思う壺だと思い何とか言葉を絞り出した。
「あいつ、雪村君とは幼馴染なのよ。だから普通の男友達よりは仲はいいわね。けれどそれだけよ」
「そうなんですか、安心しました!」
「どうして?」
「だって今の言い方だとそれ以上の関係にはなるつもりは無いみたいな感じじゃないですか、私は凪野先輩の事が好きですからライバルは少ない方がいいに決まってます!」
彼女の言葉がグサッと心に突き刺さった。そして気分が急に悪くなってきて頭の中が真っ白になりそうだ、体中がまるでその言葉に拒否反応を示しているように。
私だってあの子みたいに素直に気持ちを伝えてみたい、今やっている自分の行動が自分の望むものと反対の結果に繋がっている事だって分かってる。けれど過去のあの出来事が、あの約束がある限り今の関係が変化することは無いだろう。だから私は宮下さんが苦手なのだろうと今頃になって気づいた、宮下さんは私が憧れてやまない姿だ、私は彼女のようになりたかった。しかし私は過去にこだわるあまり彼女のようにはなれない、だから無意識に苦手意識を抱いていたんだとやっと自覚した。
そして色々考えこんでしまって結局黙り込んでしまった私を見て七海が助け船を出してくれた。
「宮下さん、悪いけど奏が少し体調悪いようだから保健室に連れていくよ。話の続きはまた今度ゆっくりね~」
「そうですか、すみません長々と話してしまって!」
「いや私こそごめんなさい。そろそろ昼休みも終わる時間だしあなたも教室に戻った方がいいわ」
「そうですね。それじゃ失礼します」
そう言って彼女は学食を後にしようとして出口で止まってこちらを向いた。
「どうしたの?」
「本当はこれを最初に言うべきだったのに忘れてました!」
「だから何を?」
私が怪訝そうに聞くと彼女は笑顔で答えた。
「あの時救急車を呼んだのは私ですよ」
「え?それって…ちょっと待って!」
「ではまた次の機会にゆっくりと。今度こそ失礼します!」
「待って!ねぇちょっと待ってよ!」
彼女は私の声に耳を傾けることなくその場を立ち去った、新たな爆弾を残すだけ残していって。
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