嫉妬
「なんて冗談ですよ先輩。びっくりしましたか?」
「えっ?冗談!?」
「そーです!騙されましたね」
そう言って小さな女の子はさっきのように楽しそうに笑っている一方で、僕の席の隣で僕の幼なじみはものすごく不機嫌な雰囲気を出しているのであえて見ないようにしていたら思いっきり脇腹をつねられた。
「痛い痛い!」
「あら大丈夫凪野くん?急にびっくりするじゃない」
自分でつねっておいて白々しい演技をしてくるな、何で急に不機嫌になったんだ…。
「それで確か君はこの前の放課後に光を訪ねて来た子だよね?」
「それ初耳なんだけどそんな事あったの!?」
どうもこの子は僕が休みの時にも会いに来てくれたことがあるらしい。
「はい!友達がカッコいい先輩がいるから見に行ってみないかって誘われたんですよ!」
「カッコいいって…僕の事言ってるの!?」
「他にいないじゃないですか!」
女の子にこんな事言われたのは初めてだったから固まっていると、隣からさっきより機嫌が悪くなった声が聞こえてきた。
「こいつは顔も普通だし、とてもカッコいいとは思えないけどー」
だが食い気味に後輩の子が反論してきた。
「そんなことないですよ!顔だってカッコいいし、この前誰かは分からないけど嫌な男子に絡まれてる女の子のために頑張って助けたって言うじゃないですか。今一年生の中で結構人気あるんですよ!!」
この前の事はそんな感じに広まっていたのか、思った以上に過大評価されてしまっているんだな。やだなぁあんまり目立ちたくないのに…
そして奏は奏で自分が関わっている事なのでこれには意見が言いにくいようで黙ってしまった、あまり納得はしていないようだが。
「それで相談なんですけどいいですか?」
「あ、それがメインだったね。どうぞ」
「今度一緒にお昼食べてもいいですか?」
「えっ?」
「ちょっと!!学校についての相談じゃないの!?」
「なんで雪村先輩がそんなに動揺するんですか」
「べ、別に動揺なんてしてないわよ!」
「まさか付き合ってるとか?」
「そんなわけないじゃない!!」
「じゃ私と光先輩が一緒にご飯食べたって構いませんよね?」
「当たり前でしょ!」
「はい、これで決まりです」
「あの僕の意見は…」
「あの子雪村さんの扱い方心得てるな」
「あんな事言って後で奏絶対後悔するよ~」
「清水さんも悟も遠くからこっちの様子を冷静に見てないで助けてくれよ…」
「話すことは話したし私はこれで失礼します」
「そ、そっか。分かったよ」
「はい、それでは」
「あ、まだ名前聞いてなかった。名前はなんて言うの?」
「うっかりしてました!私は宮下春って言います!」
「そうなんだ、よろしく宮下さん」
「いや先輩には春って呼んでほしいです!遠慮せずどうぞ!!」
「えーっと、じゃ春ちゃんで勘弁してもらえないかな?」
「まだちょっと不満ですけど許してあげます!ではまた今度」
背の小さな可愛い顔した後輩改め春ちゃんは元気に立ち去って行った。
「なんて言うか台風みたいな子だったな」
「僕もそう思うよ悟」
「過ぎ去った後に被害を残していく所まで台風そっくりだよ」
「何のことだ?」
悟は黙って視線で合図するのでその方向を見てみると、奏が今年一番じゃないかってくらい不機嫌な顔をしていた。さっきもヤバいと思ったがその上があるとは考えもつかなかった…
「あの奏?奏さん?」
「良かったわね後輩にモテてるようで、さぞご機嫌なことでしょう」
「いや、そんなことは…」
「まぁ私には関係ない事だから別にいいけどね」
「あ、あの」
「何かもう終わりみたいだから行きましょ七海」
「おー分かった。またね二人とも~」
そう言って二人は帰って行った。
「あれは何なんだろうか」
「多分嫉妬でいいんじゃないか」
「だったらちょっとは関係が前進してるってことでいいのかな?」
「いや、そもそも嫉妬と決まったわけじゃないし仮に嫉妬だったとしてもあの子が絡んでくるんじゃむしろ後退したんじゃないかと俺は思うが」
「これからどうしようね」
「そんなの好きな人は決まってるんだから断るしかないだろ、無駄に期待させる方が可哀想だ」
「素直に諦めてくれるかな」
「………」
「不安になるから黙らないでほしいんだけど」
「これはお前の問題だ、自分で解決してこそ価値があるんじゃないのか」
「それはそうなんだけどね、悟には軽い相談には乗って欲しいかなって」
「それは当たり前だ!助け合うのが友達だからな!」
「じゃ早速、あの子が素直に諦めてくれるかが心配なんだけど」
「………」
「いやだから不安になるから黙らないでほしいんだって」
新しく出来た後輩によって吹いた新しい風は僕と奏の関係に吉と出るのか凶と出るのか、今のところ凶になるイメージしか浮かばないんだけれどこれから大丈夫かな…
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